遠乗会
われながら、
「育ちが悪い」
ということは、どうにもならないもので、
「ウマ」
というと、競馬新聞の◎○×△を思い浮かべている。ホント、○×式教育がいけないのである。
あのラスベガスで、ぜったいに胴元に負けない方法は、飛行機を降りたら、まだプロペラが回っているうちに、その下に頭を突っこんでしまうことだそうな。そういうことなら、ぜったいに競馬で損をしない方法は、馬券を買わないことではあるまいか?
それは、まあ、ともかく、
「ウマ」
といえば遠乗会で、
「遠乗会」
といえば、いまは亡き三島由紀夫さんの小説だろう。高貴なひとの、高貴な物語だ。
——或る日、葛城《かつらぎ》夫人は息子宛の遠乗会の案内状をうけとった。それは良人《おつと》名義で入会している乗馬|倶楽部《くらぶ》からの、家族会員に宛てられた案内状である。息子のところへ来た書状は仙台へ転送することにしているが、こんな案内状を転送しては、無益なばかりか謹慎の生活の遣瀬《やるせ》なさを増すたねになろう。破ってしまうに越したことはない。夫人は破ろうとして、ふと思いついたことがあったので、破るのをやめた。
この小説は、恋人の歓心を買うために夫人の息子が友達の自転車を盗んで売ったことに端を発するのであるが、友達の自転車を盗んだり、息子の手紙を勝手に披《ひら》いてしまったり、育ちのいいひとたちがやることも、育ちが悪い人間のやることも、そんなに変わりはないみたいだ。
それにしても、葛城夫人が乗った楽陽号は、江戸川堤でオナラをしなかったからよかったようなものの、あれが、
「号砲一発」
というのをやらかしたら、どうだろう? やはり、並んで明潭号を走らせていた由利将軍に向かって、
「あら、失礼」
と詫《わ》びたろうか?
とたんに、由利将軍が、
「おや、貴女《あなた》でしたか? 儂《わし》はまた、馬がやったのかと思った」