「ぼくにとって汽車の煙は、手品だった。ぼくが呪文《じゆもん》を唱えると、汽車の煙の中からは、大男の魔人が現れて、ぼくをまだ行ったことのない町へ運んで行ってくれるのだと、ずい分長い間、思い込んでいた」
と言ったのは、詩人の寺山修司さんだ。寺山さんは、
「だが悲しいことに、ぼくはその呪文を覚えることができなかったのである」
と、つづけている。
——お隣の中国で、いまは懐かしい蒸気機関車を見た。それは、北京《ペキン》から列車で万里の長城の観光基地である八達嶺《はつたつれい》に向かう途中、峨々《がが》たる山峡《やまかい》から、いきなり姿を現した。
蒸気機関車の生命《いのち》は、煙だ。誰が何と言おうと、煙だ。煙のない蒸気機関車なんて、それこそ、ナントカを入れないナントカみたいで、味も、そっけもない。
それが、わたしたちの国では、その煙ゆえに嫌われて、いまは追憶のなかにしか生きていないのに、この国の蒸気機関車は、濛々《もうもう》と黒煙を吐き散らしながら、平気な顔で走るのである。思わず誰かが、
「この国に、公害問題はないのだろうか?」
と、バカなことを口走っていたが、そのとき、その声を|せせら笑う《ヽヽヽヽヽ》ように一陣の風が巻き起こり、黄塵《こうじん》万丈、蒸気機関車が吐き出す煙なんぞ、
「ちいせぇ、ちいせぇ」
といった感じで持ち去っていったのだ。
ところで、オナラにも、「ブッ、スン、キュウ」の三種があるように、マニアの山崎喜陽さんに言わせると、鉄道模型のファンにも、
[#ここから1字下げ、折り返して3字下げ]
1、できあがった車両を買う
2、部品を一箱にまとめたキットを買って組み立てる
3、車両やモーターなどのいろいろな部品、真鍮《しんちゆう》板などの生材料を別々に求めて作る
4、完成品(1)またはキット組み立て(2)の一部に加工して細密化をおこなう
[#ここで字下げ終わり]
といった四種があるそうな。あなたが、そのうちの|どれ《ヽヽ》に当たるかは知らないが、希《こいねが》わくは、姿だけでなく音も、いや音だけでなく煙も、いや、それじゃ屁《へ》みたいだから、ひとつ煙だけでなく実《ヽ》のほうも、楽しんでもらいたい。