「野球ほど、間の抜けた競技はない」
と言ったのは、たしか劇作家の飯沢|匡《ただす》さんである。ホント、あんなもんに夢中になっている奴の、気が知れない。
なにしろ、チームに九人もの人間がいながら、攻撃は一人ひとりで、守るほうだって働いているのはピッチャー一人である。ほかの連中は、ただポカンとしているだけだ。
しかし、わたしに言わせれば、
「つまり、そこのところが会社に似ている」
と思うのである。会社も、ふつう働いているのは|俺ひとり《ヽヽヽヽ》であって、ほかの連中は遊んでいる。しかも、それでいてチームワークのゲームだ。
打たぬにコト欠いて、
「二十六打席連続三振」
という記録の持ち主もいる。サントリーの宣伝部に勤めていた漫画家の柳原良平さんである。
同僚だった小説家の山口瞳さんによると、柳原さんは、どんな球でもバットを振ってしまうから、四球で歩くこともなかったらしい。根がマジメな方なのであろう。
その柳原さんが、二塁の右にヒットを放って出塁したことがあるそうな。が、たちまちにして一塁手の隠し球でアウトになった。
柳原さんは、走者になった経験がないのである。そういうランナーに、隠し球は卑怯《ひきよう》だ。間違っても、日本男児のやることではない。
——新聞記者時代、巨人軍に入団したばかりの王貞治選手にインタビューしたことがある。思い起こすのも恥ずかしいが、『ハイティーン もの申す』という企画記事だった。
そこで、わたしは、王に、
「君が代をどう思うか?」
という質問をしているのだ。王が、その国籍ゆえに国体に出場できなかったことを、つい失念して……。
「甲子園に出場した高校生を、国体に出場させない」
これまた、日本男児のやることではなかったろう。
「私の念願の一つを申しあげれば、甲子園で高校野球の開会式から閉会式まで全試合を見ることである」
と言ったひともいる。翻訳家の常盤《ときわ》新平さんである。