返回首页
当前位置: 首页 »日语阅读 » 日本名家名篇 » 作品合集 » 正文

男の日曜日31

时间: 2020-02-07    进入日语论坛
核心提示:運慶が彫る「好きな作家は?」と訊かれて、「夏目漱石」と答えた奴がいる。そこまではよかったのだが、つい調子にのって「そうい
(单词翻译:双击或拖选)
運慶が彫る

「好きな作家は?」
と訊かれて、
「夏目漱石」
と答えた奴がいる。そこまではよかったのだが、つい調子にのって「そういえば、あのひと、このごろ、ちっとも書きませんねえ」と言ったのは、いかにもまずかった。
千円札だか一万円札だかの肖像になるんならともかく、最近の漱石が、モノを書くわけがない。漱石は、一九一六年(大正五年)、四十九歳で死んでいる。
彼に、
『夢十夜』
という作品があって、これは、ちょいとしたもんだ。その第六夜は、こんな話である。
——運慶が護国寺の山門で仁王《におう》を刻んでいる。時は明治なのに、鎌倉時代の彫刻家・運慶が出てくるところが、ま、夢だろう。
運慶は、いま、太い眉を一寸の高さに横へ彫り抜いて、鑿《のみ》の歯を竪《たて》に返すや否や、斜《はす》に、上から槌《つち》を打ち下ろした。堅い木を一刻みに削って、厚い木くずが槌の声に応じて飛んだと思ったら、小鼻のおっぴらいた怒り鼻の側面が、たちまち浮きあがってきた。その刀《とう》の入れ方が、いかにも無遠慮で、疑念がない。
「よくも、まあ、ああ無造作に鑿を使って、思うような眉《まみえ》や鼻ができるものだな」
思わず独りごちた主人公に、若い男が言う。
「なに、あれは、眉や鼻を鑿で作るんじゃない。あのとおりの眉や鼻が木の中に埋まっているのを、鑿と槌の力で掘り出すまでだ」
そこで、主人公は、家へ帰り、薪《まき》にするつもりだった樫《かし》の束から太いのを選んで彫りはじめるのだが、なぜか仁王は見当たらない。その次のにも運悪く見当たらず、その次のにも、そしてまた、その次のにも……。
トーゼンのことながら、わたしは、杯を手に、この『夢十夜』を読んでいる。そして、バカみたいに、
「オレの胸の底には、ホントは、仏のように綺麗《きれい》な心があって、そいつは、もっともっと酔わなければ、顔を出してくれない」
と考えている。そうして、
「そのために、オレは、こうして飲みたくもない酒を飲むのだ」
と、自分自身に言い聞かせている。
轻松学日语,快乐背单词(免费在线日语单词学习)---点击进入
顶一下
(0)
0%
踩一下
(0)
0%