「自動車」
というからには、
「自分で動くクルマのことだ」
とばかり思っていた。それが、ホントウは「自分で動かすクルマのことだ」と知って、なんとなく裏切られたような気になったのは、わたしだけだろうか?
「マイカー」
というのは、和製の英語だそうな。日本語としては、自家用車のことを指すらしい。
「愛車と呼ぶことのできるのは、一体どんなクルマだろう」
新聞の社会面の片隅に、こんな書き出しの囲み記事があるのをみつけて、俄然《がぜん》、嬉しくなった。それは、二十一年間も個人タクシーを営んでいる運転手さんが、
「いちどもクルマを買い替えていない」
という記事だった。
彼が運転しているのは、昭和三十五年(一九六〇年)に五十七万円で買った「ブルーバード」である。現在まで乗り続けられた秘訣《ひけつ》は「無理な運転は絶対にしないこと」だそうだが、スペア用の部品集めには苦心したようだ。この国では、どういうわけか、ピストンやシリンダーなどの消耗部品は、発売されて十年ほどで姿を消してしまう。
件《くだん》の運転手さんは、
「現役では、最も古いかな?」
と自負している——という。そうして、
「クルマより自分のほうが先に動かなくなるのでは……」
と苦笑しているらしい。
記者は、この囲み記事を、
「七十歳のドライバーも二十一歳の愛車も、まだまだ健在」
というふうに結んでいたが、ひさしぶりに|いい記事《ヽヽヽヽ》だった。ちかごろは、こうした記事に、なかなかお目にかからない。
それにしても、当節は、マイカーならぬセカンドカーの時代だ。一家に一台どころか「一家に二台も、三台も……」という時代とか。かの運転手さんみたいに「一台のクルマを愛しつづける」というのは、ひょっとしたら時代遅れかもわからない。
しかし、まあ、セカンドカーなんて、どうせ他人が使うんだ。セカンドハウスだって、セカンドワイフだって、みんな、他人が使うんだ。