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ネコの住所録05

时间: 2020-02-08    进入日语论坛
核心提示:変わり者ハッちゃん今から八年ほど前のことになるが、当時私は小さな出版社に勤めていた。社長と編集長と社員兼雑用係の私の三人
(单词翻译:双击或拖选)
変わり者ハッちゃん

今から八年ほど前のことになるが、当時私は小さな出版社に勤めていた。社長と編集長と社員兼雑用係の私の三人だけ。たまにアルバイトの学生さんが授業が終わったら手伝いに来てくれるという超零細企業だった。社長、編集長とも外での仕事が多く、私は一日のほとんどを一人で過ごしていたのである。
梅雨どきの蒸し暑い日、窓を開けて仕事をしていると、ブーンと音をたてて一匹のハチがやってきた。よくハチが飛んでいるだけでキャーキャー騒ぎたてる女の人がいるが、あいにく私はそのようなタイプではないので、知らん振りして電卓を叩きながら帳簿とにらめっこしていたのだった。
ハチのほうはブンブンと部屋の中を物色していたが、一時間ほどして何も自分の得になるものがないと悟ったのか、またブンブンいいながら去っていった。そのころ会社は新宿区にしては静かで緑が多い住宅地の一画にあって、今までにもモンシロチョウやテントウムシが部屋の中に入ってきたりしていたので、ハチの一匹や二匹、気にもとめていなかったのだ。
土曜日に休みをもらって月曜日に出社すると、私の机の上でハチがコテッとあおむけになって転がっていた。
「死んでるのかしら」
指でさわってブスッと尻の針で刺されると怖いので、鉛筆でそーっとつついてみた。飛びたつ気配はなく転がったままである。おそるおそる顔を近づけてみたら、かすかだが六本の足がひくひく動いている。きっと土曜日に会社にいた人が、ハチがいるのに気がつかずに窓を閉めて帰ってしまったので、部屋の中でかんづめ状態になっていたのだ。とりあえず水を飲ませたほうがいいのではないかと、切手を貼るときに使う事務用スポンジに水を含ませて、ハチのそばに持っていってみた。すると半分死んでいたようなハチは、ガバッとスポンジにしがみつき、頭を突っ込むようにして水を飲みはじめたのである。
何分もスポンジにしがみついているハチの姿に少々驚きながら、私はいつものように帳簿と電卓を取り出して仕事をはじめた。水を飲んで元気を取り戻したハチは、しばらくして窓の隙間からブーンと飛んでいった。
ところがそのハチは、それから毎日毎日やってきた。午前十一時ごろやってきて午後二時、三時ごろまで部屋にいる。それも積極的に何かをしているというのではなくて、山積みになっている本の角にへばりついていたり、本棚の隙間にとまっていたりと、どうも休みにきているみたいなのだ。
梅雨を過ぎて初夏になってもハチはやってきた。たったひとりで仕事をしていて話し相手がいなかった私は、毎日やってくるハチに親近感を覚え、勝手に「ハッちゃん」と名前をつけて、
「また今日も来たのかい」
と話しかけたりした。孤独なあまり、ちょっとあぶない人になりかけていたわけである。クーラーをつけるために窓を閉めきっていると、中に入れないハッちゃんは閉まったガラス窓に何度も体当たりしながらうろうろしていた。窓を少し開けてやると、待ってましたとばかりに飛びこんでくる。
いつものようにブンブン飛んでいたが、ハッちゃんにも部屋が涼しいことがわかったのか、方向転換して私の頭上に備えつけてあるクーラーのところにやってきた。そして冷風が出るところにしがみつき、じーっとしている。冷たい風がもろに吹き出るところにいたら、こごえ死んでしまうのではないかと気が気ではなかったが、ハッちゃんは何時間もそこにいた。そしてまた夕方になるとブーンと去っていった。
翌日、何とハッちゃんは友だちを一匹連れてやってきた。きのうクーラーというものを知り、
「こりゃ、ええわい」
と喜んで、仲のいい友だちに教えてやろうと一緒にきたのかもしれない。ところがハッちゃんはクーラーのところにしがみつくが、友だちのほうは警戒してブンブンと部屋の中を飛びまわるだけ。そしていつの間にかハッちゃんを置いて出ていってしまった。そういうのがふつうのハチの感覚というものだろう。しかしハッちゃんは友だちがいなくなっても全く動じることなく、まるで、
「極楽、極楽」
とでもいっているかのように、クーラーにいつまでもしがみついていた。
私は毎日やってくるハッちゃんを見ながら、
「こいつは働きバチのくせに、本当に労働意欲のない奴だなあ」
と感心して見ていた。あるとき、アルバイトの学生がハッちゃんを追っ払おうとしたので、これは世にも珍しい全く労働意欲のない働きバチであると今までの経過をすべて説明し、「ハッちゃん」と名前までつけたので、いじめてはいけないといい渡した。私が夏季休暇をとっているときには、社長が、
「もしも休んでいる間に、ハッちゃんが死んでしまったらえらいことになる」
と心配して、壁に「みんなでハッちゃんをかわいがりましょう」と書いた紙まで貼ってくれた。そのおかげで私が一週間の休みを終えて出社したときも、ハッちゃんは元気に飛びまわっていたのだ。
「いつまで来るつもりでしょうかねえ」
学生たちもハッちゃんを見ながらいっていた。ハチの寿命は永くないはずだが、やはり毎日来られると情がうつる。無事に冬を越してほしいと願っていたのだが、翌年の春は姿を見せなかった。天寿をまっとうしたか働きバチの親玉にさぼっているのが見つかって、怒られたのかもしれない。
働きバチは女王バチのために、一生、身を粉にして働くさだめである。ところがハッちゃんは仲間が必死に働いているというのに、クーラーの前で涼んでいた。平日に遊園地にいくと、仕事をさぼっているアタッシェ・ケースを持った営業マンが、所在なげに観覧車に乗っているという話を聞いたことがある。さしずめこのハッちゃんも同じようなものだったのだろう。あれだけの数の働きバチがいれば、なかには変わり者もいるのだろうが、
「それにしても妙な奴だった」
とハチが飛んでいる姿を見るたびに、ハッちゃんのことを思い出すのである。
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