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ネコの住所録08

时间: 2020-02-08    进入日语论坛
核心提示:男 の 責 任十年前にうちで飼っていたメス猫トラは三回お産をしたが、父親であるのら猫のクロが、生まれた子に会いにきた姿など
(单词翻译:双击或拖选)
男 の 責 任

十年前にうちで飼っていたメス猫トラは三回お産をしたが、父親であるのら猫のクロが、生まれた子に会いにきた姿など見たことがない。発情期にトラのまわりをうろうろしていたので、気にはしていたのだが、
「トラもまんざらじゃなさそうだし、結構美男だし、ま、いいか」
と私たちは結婚を認めたのである。
ところがトラのお腹が大きくなっても、腹をさすってやるわけでもなく、トラの餌《えさ》を横取りしてさっさとどこかに行ってしまう。無事出産したあとは遠く離れて近寄ろうとすらしなかったのである。それを見た私の母親は、
「ちょっと、あんた、責任とりなさいよ」
と真顔で説教していた。猫に責任をとれっていったって、いったいどうするんだと聞いても、
「男には男の責任のとりかたがある」
と、ぶつぶついっている。クロの態度は、遊びで手をつけてしまった女性に子供ができたが、説得にもかかわらず生んでしまったので、だんだん距離をとっていって、結局はずらかろうとする情けない人間の男のようであった。
一方、トラのほうは本当にたくましかった。子供を生む前にすでに高齢だったため、夏場になるといつもつらそうにしていた。
「もしかしたら、今年が最後かも……」
と私たちはこっそり話していた。ところが、そのうちに彼女のまわりにクロがうろうろし始め、彼の姿が見えるとトラもうれしそうにフニャフニャいいながら家をでていくようになった。そして老いらくの恋の炎が燃え上がり、年|甲斐《がい》もなくお腹が大きくなってしまったのであった。ただでさえ、すぐ死にそうな雰囲気だったのに、そのうえ妊娠したとあっては、親子共々死んでしまうのではないかと心配していたが、トラは若返ってしゃきしゃきと動くようになった。まず目つきが違った。今まではどよんとしてただ開いているだけという感じだったのに、瞳が輝いている。お腹が大きいのに動作がきびきびしている。
「これから私はひと仕事あるんだから、もっとがんばらなくちゃ」
という力強さが後ろ姿にもみなぎっているのであった。そして種付け役だったクロは放っておいて、見事三回のお産で九匹の子供を生み、一人前に育てたのである。
だいたい友だちの家の猫の話を聞いてみても、子供が生まれても父猫の存在はほとんどない。血統重視でお見合いから準備万端整えた婚姻関係ならまだしも、だいたいは生まれた子猫の体の模様から判断して、
「父親はあいつだ」
というふうになることが多い。なかには、
「私はあのシロがいいって思ってたのに、どうしてあんな不細工なのとつきあうのよ」
と元気に生まれた子猫を前に、グチをいった人もいた。当の猫にとっては誰とつきあおうが勝手なはずなのだか、飼い主は飼い主なりに、
「うちのリリちゃんには、あの美男のキジトラがぴったり」
などといろいろと考えているのである。親と子の関係はメス猫を飼っている人だけの問題のようだが、友だちの家にはちょっと変わった猫の父子がいた。
彼女の家のチビはオスである。メスと違ってオスは行動範囲が広いので、何日も家を空けることが多い。ふだんは少なくとも三日に一回は必ず帰ってきていたのに、そのときに限って一週間も帰ってこない。心配になって近所の広い通りとか保健所をあたってみたが、どこにもいない、いったいどうしたのかと気を揉んでいたら、失踪から十日ほどたってやっと戻ってきた。勝手口に座っているチビを見て家族でほっと胸をなでおろしたものの、どうも彼の様子がおかしい。はあはあと息遣いが荒く、興奮しているようなのである。
「何か怖い目にあったんじゃないの」
といってそばに寄っていったら、チビの陰にチビそっくりの子猫が寄り添っていた。
「あら、どうしたの」
といったとたんに、チビと子猫はものすごい勢いで家の中に飛び込み、みんなが、
「いったい、これは何なのだ」
とあっけにとられているのを後目《しりめ》に、ものすごいスピードで家の中を二匹でかけずり回ったというのである。五分ほど走り続けると、チビは子猫と仲よく自分のベッドで寝た。そして次の朝、子猫を連れてお腹がすいたといいにきたときに、友だちが、
「ねえ、その子はあんたの子供なの」
と聞くと、
「ウニャー」
と返事をした。ふつうは母猫が子猫を連れているものなのに、どうしてオスのチビが連れ歩いているのだろうかと家族で議論しているうちに、ふっと二匹は姿を消し、それっきり戻ってこなかったそうである。
「きっと旅立つ前に、世話になった私たちに子猫を見せにきたに違いない」
と友だちの母上はいっていたが、これは私たちの間では「クレイマー猫事件」と呼んで、飼い猫の行動の七不思議のひとつとして語られているのである。
最近では人間社会でも育児に係わるようになった父親も多いが、我が母によると現在実家に出入りしているシロを孕《はら》ませたブチが、そういうタイプだそうである。子供が二匹生まれてからブチはじっと妻と子のそばから離れない。子猫がじゃれつくと尻尾をふり回して遊んでやっている。散歩にいくときもきちんと妻子のお供をする。庭で妻子が寝そべっていると、自分だけはちゃんとお座りをして周囲に気を配り、まるで外敵から妻子を守ろうとしているかのようだと母はいう。きっと子供が自分で生活できるようになったら離れていくのだろうが、なかなか立派な態度である。
これがクレイマー猫のチビと同じように、特殊な例ならともかく、トレンディなオス猫の姿だったら面白い。人間だって意識の変化があるのだから、もしかしたら猫にもあるんじゃなかろうか。猫のお父さんとお母さんと子供が揃《そろ》って町内を散歩する姿が見られるのも、遠いことではないのかもしれない。そうなったらまた楽しいなあと思っているのである。
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