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ネコの住所録12

时间: 2020-02-08    进入日语论坛
核心提示:ノ ミ 騒 動うちで飼っていたメス猫トラにノミがわいたことがある。オスよりはノミのつき具合が少なかったのだが、それでもこち
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ノ ミ 騒 動

うちで飼っていたメス猫トラにノミがわいたことがある。オスよりはノミのつき具合が少なかったのだが、それでもこちらに与える影響はなかなかのものだった。畳の上で腹這いになって本を読んでいると、トラが外から帰ってきて、部屋の中で後ろ足で体を一所懸命掻きむしる。するとしばらくして私の手足がむず痒《がゆ》くなってくるのだ。
「だめっ」
と叱って、トラを外に出そうとしているうちに、畳の上に広げた本の上ではノミが元気に跳ねている。それからは外でトラの毛をチェックして、目についたノミは片っ端からつぶしたりしたのだが、巧みに逃げ切ったノミが部屋の中に住みつき、あっちこっちでピョンピョン飛び跳ねるようになった。どういうわけだかノミは私や母よりも、弟により重点的に食いついた。
「何とかしてくれえ」
弟はトラと一緒にポリポリと体を掻いていた。私と母は、
「私たちには被害がほとんどないから、このまま放っておこう。いつかは何とかなるでしょ」
と相談して、目についたノミだけをぷちぷちとつぶすようにしておいたのだが、一週間たっても全くノミの勢いは衰えない。温厚な弟もさすがに機嫌が悪くなり、
「こんなにノミを連れて帰ってくるんだったら、『マルガリータ』にするぞ」
とトラに文句をいうようになってしまった。
「マルガリータ」というのは、トラが悪いことをしたときに私たちが叱る言葉で、バリカンで丸刈りにするぞという意味なのである。しかしそんなことをいわれても、トラ自身も痒いのだからどうしようもない。
「おねえちゃん、明日、必ずノミ取り粉を買ってきてよ」
弟は十年に一度くらいしかみせない怒りの目つきをして、バタッとドアを閉めた。そーっとトラのほうを見たら、しゅんと肩を落としているのでかわいそうになって、私は翌日会社の近くのペットショップで、ノミ取り粉を捜すことにしたのである。
私はペットショップはどうも苦手で、そのとき初めて入ったのだが、あまりの商品の多さにびっくりした。洋服はもちろんのこと、犬や猫がつけるアクセサリーまであった。店内をうろうろしていると、若い男性の店員さんがにこやかに笑いながら、
「何をお捜しですか」
とすり寄ってきた。猫のノミ取り粉が欲しいというと、彼はすぐさま五種類のきれいな色をしたパッケージを持ってきて、
「ただいまうちにあるのは、これだけなのですが」
といった。よく見るとほとんどが輸入品であった。いちばん小さな箱を選び、お金を払おうとすると、彼はふたたび笑みを浮かべながら、
「お客様の猫ちゃんはどんな猫ちゃんですか」
と聞く。
「ふつうの短毛の猫ですけど……」
しどろもどろになって答えると、
「うちでは猫ちゃんの美容室もやっておりまして、そこでは毛質に合ったノミ取りシャンプーやリンスも行っております。どうぞ今度、猫ちゃんを連れてきてあげてください」
と丁寧にいってくれた。私は腹の中で、
(人間だってろくに美容院にいかないのに、猫にそんなことをさせてたまるか)
と思ったのだが、とりあえずは、
「そうですね。今度連れてきます」
といって、あわてて店を出たのであった。
家に帰ると昨夜の私たちの会話を聞いていたのか、トラは玄関で待っていて、私のあとをおとなしくついてきた。マルガリータにされてはたまらないので、何もいわないのに目の前にきちんとお座りして、ノミ取り粉をつけてもらうのを待っているのだ。
「きょう、ペットショップで、『今度シャンプーとリンスをしてあげるから、猫ちゃんを連れてきてください』っていわれちゃったよ」
私はノミ取り粉を箱から手のひらに振り出しながらトラにいった。母は、
「あら大変。トラちゃん、どうする?」
といって、わっはっはっと笑った。
「トラ。シャンプーのついでにモヒカン刈りにしてもらえ。かっこいいぞ」
弟もいいたいことをいった。そういわれても、トラはおとなしくお座りをしたままだった。目を細めて気持ちよさそうにしていた。手足の届かないところを丹念に掻いてやると、だんだん鼻息が荒くなってきて、ふがふがいいだす。そのままマッサージを続けていると、ころっとあおむけになり、
「ここもやって」
というふうに手や足を広げて、脇の下や足のつけ根の部分をこちらにむけるのだった。
「はいはい、わかりましたよ」
そういいながら、体をさすり続けてやると、目をつぶる。そして、全身をマッサージしてもらったトラは、あおむけになったまま、「シェー」をしているような格好で寝てしまった。
舶来のノミ取り粉のおかげで、ノミは姿を消し、トラにもやっと安息の日々がおとずれた。
「あー、助かった。犬猫美容院に連れていかなきゃならないかと思った」
私たちはほっと胸をなでおろした。飼い主としては犬猫美容院に連れていくなんてもってのほかという意見である。そんなことにお金を使えるかというのがいちばんの理由であるが、猫がシャンプーの匂いをぷんぷんさせているのも、不気味なことこのうえないからである。私たちは勝手にあれこれいいたいことをいえるからいいが、結局のところいちばんかわいそうだったのはトラだった。気がついたら体にノミがたかって痒いわ、マルガリータにするぞと威《おど》されるわ、ノミ取り粉をすりこんでもらいながら、
「これでノミが取れなかったらどうしよう」
と丸裸になった自分の姿を想像して、気を揉んでいたかもしれない。一歩間違えば剃毛《ていもう》した猫を作り出すことにもなりかねないノミ騒動だったが、ひとまず双方丸くおさまって、めでたしめでたしだった。
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