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ネコの住所録27

时间: 2020-02-08    进入日语论坛
核心提示:妻をめとらば以前に書いた、私が勝手にブタ夫と名づけた猫の、その後についてである。ブタ夫の飼い主は、上品ないかにも武蔵野夫
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妻をめとらば

以前に書いた、私が勝手にブタ夫と名づけた猫の、その後についてである。ブタ夫の飼い主は、上品ないかにも武蔵野夫人といった風貌の人である。ふつう近所のおばさんというのは、でかけるときはともかく、家にいるときはとんでもない格好をしているものだ。紺色に茶の花柄のシャツの上に、黄色と赤のだんだら縞のベストを着て、下半身は息子がはかなくなった、紺のジャージを身につけていたりする。しかしブタ夫の飼い主の夫人は、家の前を掃除するときでさえ、ヨシノヤのベージュの中ヒールを履いている人なのである。そんなときブタ夫は、フニャフニャいいながら、足元にまとわりついて愛想をふりまいている。私には地の底からわき出るような声で返事をするくせに、彼女に対しては、よくもあんな声が出せると、呆れたくなるほどの、甘えた高い声を出すのであった。
甘えられたほうの夫人は、箒《ほうき》を手にしたまま、
「あらまあ、そんなに甘えて。チャーリーは困った子ねえ。ほほほ」
などという。私みたいに片手を上げて、
「よお、ブタ夫。元気か」
と声をかけるのとは大違いである。ブタ夫は上品な女性が好みで、私みたいなガラっ八は嫌いなのかもしれない。しかしふだん接することが少ないタイプだから、好奇心だけはあり、私の姿を見ると、
「変な奴」
と思いながら、ぼーっと見ていたのだろう。上流階級で育った子供が、野蛮人を見て恐ろしいが好奇心を抱くのと同じようなものである。私はブタ夫と仲良くしたいと、つねづね思っていたのだが、何となく彼が私とは一線を画したいようなそぶりをみせていたので、私は彼の意思を尊重し、しつこく追いまわすのはやめていたのであった。
ひと月ほど前に、ブタ夫の家の門扉の下半分に網が張られた。
「うちのかわいいチャーリーが、このごろ、年をとってるんだか、若いんだかわからない、おかっぱ頭の変な女の人に話しかけられたりしているの。だから、あぶないから外に出すのはやめようと思うのよ」
武蔵野夫人がそのように夫にいい、網を張った可能性もある。ブタ夫と私は他の猫ほど、親密な関係ではなかったが、相手がこちらに興味を持っているのはわかった。それでなければ、いくら地鳴りのような声とはいえ、私にむかって声なんかかけてこないはずだからだ。
「私は猫と会うことさえも、許されないのね」
これからは門扉ごしに会わなければならないのかと思うと、ちょっと悲しくもあったのだった。
それからその門扉の前を通るたびに、
「ブタ夫はいるかしら」
と横目で捜したりしていたのだが、姿は見かけない。
「外に出ると、あぶない人がいるから、チャーリーは家のなかにいなさい」
と飼い主にいい含められたのかもしれない。ブタ夫はあの夫人のいうことなら、フニャフニャいいながら、何でも聞いてしまいそうだった。御近所を歩いていると、ピンク色の首輪をしたアメリカン・ショートヘアの、チビが走り寄ってきた。ころころと太ったかわいい奴である。いつものとおり、頭を撫でてやると、満足したように自分の家に帰っていった。
「ブタ夫はどうしているのかなあ」
会っても別にチビほど交流があるわけではないが、どうも気になる。
「もしかしたら、具合でも悪いのかしら」
元気そうなブタ夫の大きな顔を思いだしながら、私は網の張られた門扉を眺めていたのだった。
ところがつい最近、ブタ夫がぼーっと門扉の手前にたたずんでいた。
「ブタ夫、元気だったか」
金網越しの再会だった。ブタ夫はぶにゃぶにゃと私の顔を見上げながら何事かいう。これはとても珍しいことである。
「どうしたの」
今度は横を向いてぶにゃぶにゃ鳴いた。すると庭木の陰から、真っ白いきれいな猫がすっと姿を現し、ブタ夫の横に寄り添うではないか。
「あんたのお嫁さんなの」
妻のほうは私とは初対面のため、何となくこちらを警戒していたが、妻をめとったブタ夫は、男としての自信がついたのか、でかい顔で堂々としていた。よく男女はお互いにないものを求めるというけれど、猫もそうなのだとつくづく感心した。ブタ夫が選んだ妻は、自分とは違う、本当にきれいな顔だちの猫だった。身のこなしから品がただよっている。ブタ夫がまた、ぶにゃあと鳴くと、今度は白地にぶちの子猫が二匹、庭木の陰から走り出てきた。そのぶちも、キジトラのブタ夫の毛皮を、雲型に切り抜いて、白地にはりつけたみたいで、二匹の子供であることは一目瞭然だった。今まで姿を見ないうちに、ブタ夫は一家の主人になっていたのであった。
ただただ驚いている私の目の前で、かわいい子猫たちはじゃれ合い、美しい妻は伏し目がちにおとなしく座っていた。ブタ夫は、
「どうだ、すごいだろう」
といわんばかりのでかい態度であった。気のせいか、前足にも力がみなぎっているように見えた。
「わざわざ紹介してくれたの。ありがとね」
ブタ夫はいつまでもいばっていた。
かつてみかん箱のベッドのなかで、股を開いて口を半開きにしていたブタ夫は、今ではマイホーム・パパになってしまった。外を出歩いている姿を見たことはない。彼はいつも門扉の内側で、子猫や妻と一緒にいる。エネルギーがあり余っている子猫に、背後から飛び蹴りをされても、怒ることなくじっと耐えている。尻尾をうまく動かして、じゃれつかせたりもしている。そして美人の妻は一歩下がってその姿を眺めている。
「ブタ夫も幸せになってよかった」
と思いつつ、私はブタ夫がどうやってあの美人妻をものにしたのか、知りたくてしょうがないのである。
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