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ネコの住所録34

时间: 2020-02-08    进入日语论坛
核心提示:心の隙間うめますうちの弟がマンションを購入してやっと実家を出ていった。三十歳すぎても親元から離れないなんて、甘ったれるの
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心の隙間うめます

うちの弟がマンションを購入してやっと実家を出ていった。三十歳すぎても親元から離れないなんて、甘ったれるのもいいかげんにしろ、と私はブリブリ怒っていたのだが、さすがに彼も自覚したらしいのである。私が、よかった、よかったと、喜んでいるというのに、ひとりガックリと肩を落としているのが、我が母であった。理由をきいても、ぶつぶつと口ごもっているばかりだったのだが、しつこくしつこくきいた結果、どうも自分が新しいマンションに、一緒に連れていってもらえなかったのが、ショックだったのだ。
私は、あの豪胆な我が母が、そんなふうな考え方をするなんて、信じられなかった。とにかく私が家を出たとき、母親は砂糖、塩、サラダオイル、しょうゆを大きな手提げ袋にいれて、
「これを持っていけ」
といっただけであった。引っ越してから一週間、晩御飯のおかずを作って持ってきたことはあったが、そのうち面倒くさくなったらしく、アパートに来なくなった。それ以来、電話では週に一度くらい話すが、バスで約二十分の距離にいながら、会うのは月に一度、あるかないかである。それなのに弟に対しては、
「一緒に連れていってくれない……」
といじけているのだ。もともとじめっとしたタイプならまだしも、母親は、
「私は死ぬまで働くからね!」
ときっぱりいい切るタイプであった。現に今も働いているわけだが、こと問題が弟に関することになると、私に対するのと、リアクションが全く異なるのである。
私のときは家の買いおきを分けただけなのに、弟に対しては、
「少しはまとまったお金でも持たせたほうがいいかしら」
などと真剣に悩んでいた。
「バカじゃないの」
私はあきれかえって、母親にいってやった。たとえば弟が地方から出てきて、東京にアパートを借り、何もかも自分でやりこなして、それでマンションを購入したというのなら、多少のことはしてやってもいいと思うが、学校を卒業してから十年以上も実家にいて、食費しか払わず、深夜、帰ってきたら夜食が準備してあるような中で、金がたまらないほうが不思議ではないか。私は自分が家を出たときに、現物支給だったことも手伝って、
「現金をやるのは、絶対、反対!」
と意見したのだ。
「それもそうよね」
母親もいちおうは反省するのだが、自分が頼られないのが不満なのか、現在の弟の動向を逐一、報告してくる。そのたびに私は、
「あの子だっていい歳なんだから、ほっときなさいよ」
とあきれるのだが、母親にすると、そう簡単に割り切れる問題ではないらしい。
「客観的に考えて、甘すぎると思わないの?」
「思う」
私はこの会話で、彼女も納得したと思ったのだが、また一週間ほどすると、
「やっぱり、かわいそうだ」
などといい出す。そうなると私は電話口で、
「よけいなおせっかいはやくな。自分で全部やらせるのが、あの子のためなんだ」
と怒るハメになるのだ。
たしかに今まで一緒に住んでいた人間がいなくなるのは、淋しいことかもしれない。しかし、うちの事情をまるで見越したように、たくさんののら猫が実家の周辺をうろつき始めたのは、おどろきだった。なかでも、いちばん自分をアピールしているのは、茶色と黒がブチになっている、やせた猫である。母親が台所で洗い物をしていると、猫の大きな鳴き声がする。ふと外を見るとこちらをむいてその猫が鳴いていた。彼女が、
「あら、あんたは初めてね。遊びにきたの」
と声をかけると、ひときわ大きな声でニャーンと鳴いて姿を消した。そしてそれから十五分ほどして、洗い物をすませた彼女が居間にいくと、さっきのブチ猫が、ちゃっかり座布団の上に座って、置き物みたいになっていたのであった。
「こら、入っていいっていわなかったでしょ」
怒るとすごすごと出ていったが、それ以来、ブチは事あるごとに母親の前に現れ、ニャーニャーとつくり声でかわいらしく鳴いて、必死に愛想をふりまくようになったのだ。
朝、居間のカーテンとガラス戸を開けたとたん、ベランダに面した野原から、
「ニャーン」
とものすごく大きな声がする。ふと声のするほうを見ると、例のブチで、まるで、
「奥さん、おはようございます」
と挨拶しているかのようだと母親はいうのである。買い物に行こうと家を出ると、目ざとくブチがすり寄ってきて、ニャーニャーと鳴く。まるで、
「お買い物ですか。気をつけて行ってらっしゃい」
といっているかのようだという。帰ってきたら、ちゃんと前で待っていて、これまた、
「お帰りなさい」
といっているかのように、母親の顔を見上げて鳴くのだそうだ。
「本当に困っちゃうわ。家の中に入れるわけにはいかないし……」
母親は真剣に悩んでいた。しかしのら猫たちの何と要領よく賢いことか。きっと町内の猫の集会で、
「あそこの息子、もうすぐ引っ越すぞ。あとはバァさんひとりだから、押しまくれば何とかなるで」
と結論が出たのだろう。母親の話によると、ブチのほかに愛想をふりまいているのは、あと五匹いるそうだ。どの猫も顔を合わせると小走りに寄ってきて、節度ある態度で挨拶をするという。印象を悪くしたらいけないと気をつかっているのだろう。私は人間の心の隙間に入り込むテクニックを持つ猫たちに、心底感心した。そして弟が出ていったあと、実家の住人がババと猫たちになるのは時間の問題だろうと予測しているのである。
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