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ネコの住所録36

时间: 2020-02-08    进入日语论坛
核心提示:追いかけられて私の知り合いの女性は、学生時代、奈良にある大学の寮で生活していた。もともと出かけて遊びまわるのが好きな性格
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追いかけられて

私の知り合いの女性は、学生時代、奈良にある大学の寮で生活していた。もともと出かけて遊びまわるのが好きな性格のため、いつも門限ぎりぎりまで遊んでしまい、最寄り駅から疾走するはめになっていた。授業が終わると急いで着替え、電車で盛り場まで行く。その夜も彼女はディスコの帰りで、ピンク色のやや露出度の高い服を着ていた。こんな服を着ているのが寮母さんにみつかるとまずいし、近所の人の目もあるので、彼女は人通りがほとんどない裏道を、必死に走っていたのであった。時間内に裏の塀を乗り越えて、寮の敷地のなかにはいればこっちのものだから、ただ門限に間に合うようにと、彼女の頭にはそのことしかなかったのである。
暗い夜道を走っていると、背後から人の荒い息づかいが聞こえてきた。彼女ははっとした。今日は派手なピンクの服を着ているので、きっとそれに挑発されたふとどきな男が、彼女を襲おうとあとをついてきたのだと思ったのである。
「このあたりで若い女性っていうと、学校の寮生くらいしかいないし、きっと、ずっと狙っていたんだわ」
試しにふと立ち止まってみると、背後の男も立ち止まる。また走り出すと男も走り出す。彼女は怖いのと時間が気になるのとで、ますますスピードを上げて寮の裏門へと走り出した。ところが背後の男はひるむ気配もなく、相変わらず息をはずませて、くっついてくる。彼女は高校時代に陸上をやっていて、そこいらへんの軟弱な男よりは脚力があると自信を持っていた。しかし男は全くペースを変えず、いつまでもくっついてくるのだった。彼女はパニック状態になっていた。彼女が無事、寮にたどりつくか、背後の男に襲われてしまうか、そのふたつが頭のなかでぐるぐるまわった。力いっぱい走って、やっと裏門が見えてきた。ほっとした彼女は、しつこく追いかけてきた男に、ひとことぶちかましてやろうと思い、キッと後ろを振り返って怒鳴った。
「何をするんですか。やめて下さい!」
しかし相手は黙っている。暗闇のなか、よくよく目をこらしてみると、延々と彼女を追いかけてきたのは、何と奈良公園の鹿であった。彼女のあまりの剣幕にびっくりしたのか、きょとんとした目で彼女を見上げていたが、何もくれないことがわかると、くるっと方向転換して、今、来た道を戻っていったそうである。このときのことを回顧しながら彼女は、
「さすが奈良だと思った」
と未だにいうのだ。
鹿という動物は、どんな悪さをしても、あまり憎めない動物である。子供のころに私は子鹿物語を読んで涙したことがある。少年がかわいがっているかわいい子鹿は、ただ自分の食べたかったものを食べただけなのに、少年の母親に銃で撃ち殺されてしまう。そのとき私は心から子鹿を撃った母親を憎んだものだった。どんなにあやまったって、こういう人は許せないとすら思った。ディズニーのバンビが私は大好きで、子供のころにはいていたスカートのなかでも、母親がバンビをアップリケしてくれたものは、特にお気に入りだった。小学校に入学してからは、バンビの上履き入れも持っていた。あのぱっちりとした黒い目で、こちらをじっと見つめられると、
「あんたが何をやっても許しちゃう」
と、ついつい点が甘くなるのである。
私は中学の修学旅行で奈良に行ったが、そのときに遭遇した鹿は、かわいいだけではなかった。バスガイドさんが、
「奈良公園の鹿は礼儀正しいので、おせんべいをもらいたいときは、みなさんの前でちゃんとお辞儀をします。だからお辞儀をしたらおせんべいをあげて下さいね」
といった。たしかにそれは間違いではなかった。しかし私たちの前に立ちはだかったのは、ものすごく大きな鹿で、かわいいというよりもたくましい、バンビのおやじといった感じであった。そして礼儀正しいというよりも、
「お辞儀をしなきゃ、せんべいがもらえない」
と、切羽つまっているみたいで、心をこめているのではなく、ただおざなりにお辞儀をして、まるで、
「はやく、せんべいをくれ」
といわんばかりの態度なのであった。
それでも鹿がお辞儀すると心が動かされ、私たちは、おっかなびっくりではあったが、
「はい、はい、あげますよ」
といいながら、おせんべいをやったり、鹿と一緒に写真を撮ったりした。お辞儀をしているのを無視すると、鹿が怒って無理やりおせんべいをむしりとってしまうこともあった。でも私たちは、
「せんべいをやらなかった、あんたが悪い」
と、鹿に同情的だったのだ。
三年後、弟の修学旅行も奈良だった。お辞儀する鹿は、まだいたかときくと、彼は、
「いやー、あれはすごかった」
と感動していた。彼もバスガイドさんから、礼儀正しい奈良公園の鹿について話を聞かされた。私たちと同じように、みんながお辞儀をする鹿におせんべいをやったり、写真を撮って遊んでいると、あっという間に時間が過ぎてしまった。ところが先生にうながされて、鹿の集まっている場所を立ち去ろうとすると、背後から、
「わあーっ」
という声が聞こえてくる。振り返ると同じクラスの、お調子者で有名な男の子が、左手にせんべいの袋を掲げたまま、血相を変えて逃げてくるではないか。そして彼をものすごい勢いで追いかけてきたのが、お辞儀をしながら走ってくる、鹿の集団だったのである。彼が鹿をからかってせんべいをやらなかったらしいのだが、心からせんべいが欲しかった鹿は、彼を狙って追いかけてきた。ところが「せんべいが欲しい」と「お辞儀」が、訓練されてひとくくりになってしまっている鹿は、彼を必死に追いかけながらも、悲しいかなお辞儀をし続けていたのだ。
鹿は本当にかわいい動物である。姿もかわいいし性格もお茶目である。そのうえ、先日、誘惑に負けて食べた鹿の生肉があまりにおいしかったので、私はますます好きになった。見てよし食べてよしの鹿を、私はこれからもっと好きになりそうである。
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