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撫で肩ときどき怒り肩01

时间: 2020-02-08    进入日语论坛
核心提示:私の乳をかえせ 二十六歳の夏、ウキウキしながら新品のTシャツをタンスからひっぱり出して、鏡の前に立ったときのことである。
(单词翻译:双击或拖选)
私の乳をかえせ

 二十六歳の夏、ウキウキしながら新品のTシャツをタンスからひっぱり出して、鏡の前に立ったときのことである。
「ゲゲッ」
一瞬我が目を疑った。目をパチパチさせてもう一度鏡の中をみた。納得できないので今度は体を横向きにしてみた。手を上げ下げしてみた。状況は何ら変わらなかった。その状況とは、
「胸の位置が下になった」
つまり、
「乳が垂れた」
ということである。私はタメ息をついてカックリと頭を垂れ、
「あー、失業中にノーブラでいたからこんなになってしまった。ううっ……私の乳をかえせ!」
と胸の中で怒ってしまった。もちろん会社勤めをしている時は下着をきちんとつけているからまだマシだったが、たった三カ月、家にいてきゅうくつなのが嫌だったからブラジャーをしなかった。ただそれだけだったのに、こんなことになろうとは思ってもみなかった。明らかにバストポイントが三センチ下降していたようであった。二十歳のころの体型は今思うと夢のようだった。
「もうこんなんじゃTシャツなんて着られないじゃないの」
と私はむしゃくしゃして鏡をケッとばした。確実にオバンになっていくんだなと悲しくなった。
「まさか私だけではないだろうね」
そう考えるのが私のセコイところで、友だちに片っぱしから電話をかけ「現在のあなたの乳の位置」について質問した。第一子を産んだばかりの紀子ちゃんは、
「私ってすごくペチャパイだったでしょ。それが子供産んでものすごく大きくなったのよね。だけどさ、これが用済みになった場合のこと考えるとさ、恐ろしいよ」
という。ま、彼女の場合は特殊な事情であるから参考にならない。こうなったらと独身者中心に電話攻撃をすることにした。次は明美ちゃんである。彼女に乳が最近垂れたと思わないかという質問をしたら突然ものすごい勢いで怒り出した。びっくりしていると彼女は、
「何いってんのよ。あんた私が垂れるほど胸がないの知ってるでしょ!!」
というのである。そういえば私は彼女のことを「タタミに画びょう」だの「あー、あばら骨が刺さる」だのいいたい放題いっていじめたのだった。
「どうしたのよ、へんな電話してきて」
「いやあ、それがさあ、きょう久しぶりにTシャツ着てみたらすごく胸が垂れてんのよ。びっくりしちゃってさ。みんなはどうかなあって思って……」
「あんたって本当にしょうがないわねえ。もう若くないんだから胸ぐらい垂れるわよ」
「いいねえ、あんた垂れる胸なくて……」
「う……うるさいわね。私だってその兆候があるのよ」
「えーっどうして、ないものがどうして垂れるの?」
「私の場合胸が垂れるかわりにお腹がたるんできたの!」
「ふーん、山がない分、平地にシワよせがきたわけね」
「正直いってさ、水着がきられないんじゃないかと思って心配なのよね」
位置はちがうにせよ垂れたことには変わりはないと私たちは深くタメ息をついた。最後はミホコちゃんである。再び私は「あなたの乳の位置はいかに?」と質問した。
「あんた、垂れたわよォ」
と暗い声をしていった。
「えっ、やっぱり?」
「そう、Tシャツ着てびっくりしちゃった」
「そうなのよ、私も今日びっくりしちゃって」
「こんなになってるとは思わなかったわよ。私さ、肩ヒモがゆるんでんじゃないかと思って短くしてみたのよね。そうしたらさ、ちがうじゃない! もう絶望的!」
「そうなのよ、そうなのよ」
「で、あっちのほうは?」
と逆に質問してくるのである。あっちってどっちかなあと思ってだまっていると、彼女は、
「あっちって、お尻のほうよ」
と小声でいった。
「あのさあ、絶対お尻も垂れてるはずよ。胸だってお尻だって脂肪だからさ、胸だけ垂れることなんてありえないわよ」
と不気味なことを言うのである。
「ちょ、ちょっと私見てくる」
そういって私は再び鏡の前に立ってみた。
「わわっ」
以前は盛り上がっていた尻の頂点というのが明らかになくなり、単なる平地になっているではないか。私は急いで受話器をとった。
「やっぱし垂れてた」
「そうでしょ。もうあきらめなきゃダメよ」
それから二人の会話はタメ息ばかりだった。私はここで何とか対処しないとあと大変なことになってしまうと思い、毎晩寝る前に行なっているフトモモを細くする体操のほかに胸を大きくする、尻を上げる、というものを組みこんだ。毎日毎日忘れずにやった。
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