私は子供のころから、ずっと看護婦さんになりたいと思っていた。クリミア戦争で活躍したナイチンゲールの伝記を読んで感動したわけでも、あの白衣にあこがれたからでもない。子供心に自分を分析したら、向く職業は看護婦さんしかないと信じざるをえなくなってしまったのである。
まず体が丈夫。カエルやブタの目の解剖が一人でできる。苔《こけ》、アメーバ、軟体動物、寄生虫の類いに愛着を感じる。人を叱咤激励するのが好き。悲しいことが起こると、ひどく心を痛めるが、あとはコロッと忘れて気持ちの切りかえが早い。これならば血がドッと出る現場をみても、何の心配もない。私は自信をもって、
「学校を卒業したら、病院へいって看護婦さんをやらせてもらおう」
と固く心に決めていたのであった。
当時私は、看護婦さんに資格が必要なことなんて知らなかった。年末の郵便局の年賀状仕分けアルバイトのように、
「やらせて下さい」
とお願いすれば、
「はい、どうぞ」
といって簡単にやらせてくれるものだと思っていた。白衣とお帽子を貸与してくれるものだとばかり思っていたのである。ところが実はちゃんとした試験に合格しなければ、なれないのだということを知り、私は目の前が真暗になった。