私は子供のときから現在までに、八回引っ越しをした。うちの親は金もなかったが、家をもつことに全然興味がなく、借家を転々としていた。そして私も自分で稼ぐようになってから四回引っ越した。引っ越し貧乏というけれど、今までの引っ越し費用をきちんと貯めていたら、マンションの頭金ぐらいにはなったと思う。でも、どうもひとっところにいると、引っ越しの虫がムズムズと動き始め、賃貸情報の雑誌を買い込んでは、世間の家賃の相場を検討しているのである。
私が一番最初に家を出たのは二十四歳のときだった。楽しい独り暮らしではあったが、私が住んでいたアパートは、ずさんな造りだったようで、風呂にはいっていると、暖かくて気持ちがよくなったのか、タイルの目地のすきまから、たくさんのミミズがにょろにょろとはいだしてきた。私はそのたんびに、まっぱだかでおろおろし、まるでホラー映画の舞台になりそうなところだった。
会社に入って二、三年のうちは、給料も多くないのだから、そんなにリッチなところには住めない。私の友だちが当時住んでいたアパートも、会社から帰って部屋の電気をつけたら、部屋のド真ん中にナメクジとゴキブリが仲良くいた。うちのミミズ風呂とどっこいどっこいのところだった。
ところが、きょうびの青少年のなかには、想像できないような、結構なところに住んでいるのが多い。私が住んでいるところよりも、もっと家賃の高いところに新入社員の分際で、住んでいたりする。給料を聞いてみると世間並みの納得できる金額である。そうなるとどう考えても、家賃を払えるわけがない。意地になっていろいろ聞き出してみると、社会人になったというのに、田舎の両親に仕送りをしてもらっているというのである。
「安い変なアパートに住んで、もし何かコトが起こってお嫁に行けなくなったら困る」
というと、田舎の親はあわててお金を送ってくるらしい。
「学生時代、男とやりたいだけやっといて、いまさらお嫁に行けないもないだろうが。いい歳をして親から金をもらってるなんて、恥ずかしくないの」
嫌味ったらしくいってみても、
「だって変なところに住んでると、かっこ悪いんだもん」
と身をよじっていう。私はこういう子の親じゃないから、
「ふーん」
とバカにしていればいいが、これじゃあ親はいくら金があっても足りないはずだ。いい加減親も子も、べったりと甘える関係はやめてもらいたい、という気がする。