私が学生のころは、盛り場にいくとヘヴィメタ青年がわんさといた。髪の毛を金髪に染めていたり、鉄のイガイガのついた革のジャケットと、パッチのようなおそろいのパンツ。おまけにお箸《はし》のような細い足に、高さ二十センチもあるロンドン・ブーツを履いて、黒い網タイツをはいた、メドゥーサみたいなヘアースタイルのおねえちゃんの肩をひしと抱いて、歩いていたりした。
ロンドン・ブーツのおかげで、人込みから頭一つ出ている、自来也《じらいや》みたいな風体のお兄ちゃんを見つけると、おばさんたちは脇腹をつつきあい、
「あれ、なあに。気持ち悪いわねえ。男か女かわからないじゃない」
といった。ヘヴィメタが好きなのも、ああいう格好をするのも趣味の問題だから、他人がとやかくいうことではないが、私には、ヘヴィメタ青年は「何を考えているんだかわからない人」というイメージがあった。特に夏場でも脱がない、あの黒革のパンツとロンドン・ブーツを見ては、
「あれでは下半身は蒸れ切っていて、水虫やタムシの巣窟《そうくつ》になっているかもしれない」
と考えたりもした。ヘヴィメタ青年はヘヴィメタ仲間とだけ固まって歩いているものと決まっていたのに、私は先日初めて、お父さんとお母さんと一緒に歩いているヘヴィメタ青年を見てしまったのである。