どうして決めた?
昔、シャーヌフはコシャリンまでの道のりのだいたいまん中あたりまで、広い畑と原っぱとを持っていた。ところがこの二つの町ときたひにゃあ、町の境は本当はどこかでしょっちゅうけんかだ。そっちの家畜がこっちの土地で草を食(は)んだのなんだのと、訴えるのなんだのかんだのっていうわけだ。けんかも裁判もこうも続くと、コシャリンのおえらがたも、シャーヌフのほうだってうんざりだ。考えのしっかりした連中が言い出した。
「藁の一致は黄金の裁判より貴い」と。
もういいかげん仲直りしようということだ。
だもんで、もめごとは平和裡(り)に終わらすべえと、コシャリンの町長とシャーヌフの町長と、まんず夜明けに自分の町を出るって決めた。そうして行き会った所に杭を打ちこみ、それを今後は境界線にしようってことだ。
シャーヌフのおえらがたは寄り集まって、境を町からなるたけ遠くにもっていくにゃあどうすりゃいいかと、長いこと知恵をしぼったもんだ。シャーヌフの町長はこんなふうにみんなに話して聞かせてやった。
「コシャリンは名馬を産するそうだ。コシャリンの町長め、馬で来ようって腹だろう。だけんど馬っていうやつはこらえ性のないもんさ。お馬さん、道の途中でへたばるだろう。シャーヌフてえと、牛の飼育で知られる町よ。こいつはたしかに馬よりのろい。だけんど強くてこらえ性のあるのが牛だで、コシャリンの壁の下まで行き着くには、まんず間違いはないはずだ」
というわけで、シャーヌフの町長は牛にまたがって行くことになった。
シャーヌフのおえらがたはかしこい方法を決めたもんだと嬉しくなって、あしたの勝ちの前祝いだと居酒屋へくり込んだ。家へ帰ったのはずいぶんと遅くよ。そしてもちろん寝すごした。番人に起こされたのは、もうお天道さんもとっくに昇っていたころのことで、町長を牛の背に逆さにくくりつけたは……、というのは頭を尻っぽに向けてのことだが、やっぱりまだワインが抜けなかったか。シャーヌフの町長がようやく町の壁の外へ出ると、——なあんだ、目の前にもう、コシャリンの町長が立っている。そしてシャーヌフの衆の間抜けさかげんを笑っていた。だから今、シャーヌフの土地の境界線は町の遮断棒のすぐむこうを通っている。
(足達)
「藁の一致は黄金の裁判より貴い」と。
もういいかげん仲直りしようということだ。
だもんで、もめごとは平和裡(り)に終わらすべえと、コシャリンの町長とシャーヌフの町長と、まんず夜明けに自分の町を出るって決めた。そうして行き会った所に杭を打ちこみ、それを今後は境界線にしようってことだ。
シャーヌフのおえらがたは寄り集まって、境を町からなるたけ遠くにもっていくにゃあどうすりゃいいかと、長いこと知恵をしぼったもんだ。シャーヌフの町長はこんなふうにみんなに話して聞かせてやった。
「コシャリンは名馬を産するそうだ。コシャリンの町長め、馬で来ようって腹だろう。だけんど馬っていうやつはこらえ性のないもんさ。お馬さん、道の途中でへたばるだろう。シャーヌフてえと、牛の飼育で知られる町よ。こいつはたしかに馬よりのろい。だけんど強くてこらえ性のあるのが牛だで、コシャリンの壁の下まで行き着くには、まんず間違いはないはずだ」
というわけで、シャーヌフの町長は牛にまたがって行くことになった。
シャーヌフのおえらがたはかしこい方法を決めたもんだと嬉しくなって、あしたの勝ちの前祝いだと居酒屋へくり込んだ。家へ帰ったのはずいぶんと遅くよ。そしてもちろん寝すごした。番人に起こされたのは、もうお天道さんもとっくに昇っていたころのことで、町長を牛の背に逆さにくくりつけたは……、というのは頭を尻っぽに向けてのことだが、やっぱりまだワインが抜けなかったか。シャーヌフの町長がようやく町の壁の外へ出ると、——なあんだ、目の前にもう、コシャリンの町長が立っている。そしてシャーヌフの衆の間抜けさかげんを笑っていた。だから今、シャーヌフの土地の境界線は町の遮断棒のすぐむこうを通っている。
(足達)