語り手……クリック!
聞き手……クラック!
語り手……語れば語るほど
嘘をつくことになるかもしれん
本当のことをいうために
お金をもらってるわけじゃなし
昔、ひとりの男とひとりの女が夫婦になって暮していた。そんなにらくではなかったが、男が魚をとり、女がそれを売って暮らしてたとさ。ある日のこと、釣りに出た男は、池に網をはった。しばらくしてひきあげてみると、みごとな魚がかかっているではないか。
「こりゃでっかい獲物だわい」
すると魚が口をきいてこういった。
「このまま生かしといてくれれば、ひと財産みつかるところを教えよう。なんでもほしいものを手に入れるがいい。だけど秘密だからな、だれにもいってはいけない。おかみさんにもね」
よし、というわけで、つぎの日、魚に教わった家へいってみた。するとあるわあるわ、金銀に、洋服、この世のお宝がなんでもあった。かつげるだけかついでわが家にもどると、荷物をおいて、またひきかえす。もう何日でも、たとえ千日でも暮らしていける物があったし、そいつをみんな運ぶにゃ、いったい何日かかることやら。男はもうどうしたらいいのかわからなくなった。
「お前さん、こんなお宝を、いったいぜんたいどこからもってくるんだい。わたしにゃさっぱりわからないよ」とかみさんはいった。
じゅうぶん財産がたまったころ、男はかみさんにすっかりうちあけた。そして宝のあった場所にもどったら、もうなんにもない。しかたがないな。ショックをうけて、アメリカヘいくことにしたんだと。大きな海外旅行をして、えらく費用がかかったそうな。二週間か一月の旅に出るんで、馬と犬の世話に使用人をひとり残していったそうな。ほかに家畜はいなかったからね。
旅行で、すっかりお金を使っちまって、また漁にいくことになった。網をもって、男は、あの魚のいた池へとでかけた。またあの大きな魚が網にかかった。男は魚にいった。
「お前を釣りあげたりはしないぜ。あんなによくしてくれたからな」
すると魚が答えた。
「いや、わたしを持ちかえって食べなくてはいけない。食べかたを教えよう」
「こりゃでっかい獲物だわい」
すると魚が口をきいてこういった。
「このまま生かしといてくれれば、ひと財産みつかるところを教えよう。なんでもほしいものを手に入れるがいい。だけど秘密だからな、だれにもいってはいけない。おかみさんにもね」
よし、というわけで、つぎの日、魚に教わった家へいってみた。するとあるわあるわ、金銀に、洋服、この世のお宝がなんでもあった。かつげるだけかついでわが家にもどると、荷物をおいて、またひきかえす。もう何日でも、たとえ千日でも暮らしていける物があったし、そいつをみんな運ぶにゃ、いったい何日かかることやら。男はもうどうしたらいいのかわからなくなった。
「お前さん、こんなお宝を、いったいぜんたいどこからもってくるんだい。わたしにゃさっぱりわからないよ」とかみさんはいった。
じゅうぶん財産がたまったころ、男はかみさんにすっかりうちあけた。そして宝のあった場所にもどったら、もうなんにもない。しかたがないな。ショックをうけて、アメリカヘいくことにしたんだと。大きな海外旅行をして、えらく費用がかかったそうな。二週間か一月の旅に出るんで、馬と犬の世話に使用人をひとり残していったそうな。ほかに家畜はいなかったからね。
旅行で、すっかりお金を使っちまって、また漁にいくことになった。網をもって、男は、あの魚のいた池へとでかけた。またあの大きな魚が網にかかった。男は魚にいった。
「お前を釣りあげたりはしないぜ。あんなによくしてくれたからな」
すると魚が答えた。
「いや、わたしを持ちかえって食べなくてはいけない。食べかたを教えよう」
頭は雌犬にくれてやり
はらわたは雌馬にくれてやり
残りはよぉく洗い
おかみさんと二人で食べるんだ
はらわたは雌馬にくれてやり
残りはよぉく洗い
おかみさんと二人で食べるんだ
そこで魚を持ちかえり、教わったとおりにした。一年たつと、
雌馬は二頭のよく似た子馬を産み
雌犬は二ひきのよく似た子犬を産み
夫婦のあいだにはよく似た双子が生まれた
家のそばにはよく似た様子の井戸が二つあり
なかに二本の剣があった
ほらみんな揃ったよ! (聞き手のあいだで笑い声が起こった)
雌犬は二ひきのよく似た子犬を産み
夫婦のあいだにはよく似た双子が生まれた
家のそばにはよく似た様子の井戸が二つあり
なかに二本の剣があった
ほらみんな揃ったよ! (聞き手のあいだで笑い声が起こった)
双子はどんどん大きくなった。
一日たつとふたりは一歳になったようで
二日たつと二歳になり
三日たつと三歳になったようだった
二日たつと二歳になり
三日たつと三歳になったようだった
すぐに学校へいくようになった。もの覚えがよくて、ほかの子が十年かかるところを、一日で覚えてしまった。一週間もすると、先生よりものしりになった。父親は一月分の月謝を払ってあった。でも先生はいったそうだ。もう学校へくることはない、ってね、先生とおなじだけ知ってるから、もう教えることはないって。双子は、学校へいくかわりに、石切り場へいって剣術ごっこをしていた。子どもらがいったいどこへいくのかと、いぶかった父親は、先生に会いにいった。
「先生、月謝を払いにきました」
「おたくのお子さんたちは、もうだいぶ前から学校にきてはいませんよ」
「そりゃまたどういうわけで、いったいあいつらはどこへいってるんでしょう」
すると先生はいった。
「お父さん、あの子たちの邪魔をしてはいけません。なにもいわないでください。いいですか、やりかたを教えましょう。気づかれぬようにして、朝でかけるところをつけてみるのです」
つぎの朝、二人兄弟は学校へ向かった。父親は、姿をみられないように、遠くから二人のあとをつけていった。とつぜん二人がみえなくなる。二人の消えた場所へいってみると、そこは長さ五十メートルもある大きな石切り場だった。子どもたちはと見れば、裸になって、剣をふりまわして戦っているではないか。
父親は先生のところへいった。
「子どもたちを見にきてくださいよ。情けないことになっちまって、石切り場で剣をふりまわしてるんですからね」
しかし先生はいった。
「お父さん、いく必要はありませんな。どうすることもできんのですわ。この世のだれも、あの子たちを止められはしません。二人はだれよりも強い勝利者になるでしょう」
兄弟が家にもどると、父親はいった。
「お前たち、もう学校へいってないそうじゃないか。毎朝でかけるのはどういうわけだ。いったいどこへでかけてるんだ」
兄弟のひとりは、これは厄介なことになったと思った。それである日、もうひとりに向かっていった。
「ぼくはこれからフランス一周の旅に出る。手紙を書くことはないが、ぼくの便りを知る方法を教えとこう」
「先生、月謝を払いにきました」
「おたくのお子さんたちは、もうだいぶ前から学校にきてはいませんよ」
「そりゃまたどういうわけで、いったいあいつらはどこへいってるんでしょう」
すると先生はいった。
「お父さん、あの子たちの邪魔をしてはいけません。なにもいわないでください。いいですか、やりかたを教えましょう。気づかれぬようにして、朝でかけるところをつけてみるのです」
つぎの朝、二人兄弟は学校へ向かった。父親は、姿をみられないように、遠くから二人のあとをつけていった。とつぜん二人がみえなくなる。二人の消えた場所へいってみると、そこは長さ五十メートルもある大きな石切り場だった。子どもたちはと見れば、裸になって、剣をふりまわして戦っているではないか。
父親は先生のところへいった。
「子どもたちを見にきてくださいよ。情けないことになっちまって、石切り場で剣をふりまわしてるんですからね」
しかし先生はいった。
「お父さん、いく必要はありませんな。どうすることもできんのですわ。この世のだれも、あの子たちを止められはしません。二人はだれよりも強い勝利者になるでしょう」
兄弟が家にもどると、父親はいった。
「お前たち、もう学校へいってないそうじゃないか。毎朝でかけるのはどういうわけだ。いったいどこへでかけてるんだ」
兄弟のひとりは、これは厄介なことになったと思った。それである日、もうひとりに向かっていった。
「ぼくはこれからフランス一周の旅に出る。手紙を書くことはないが、ぼくの便りを知る方法を教えとこう」
弟よ、それがきみの井戸で、これがぼくのだ
ぼくの井戸の水をよく見るんだ
毎朝見るんだ
お昼にも見るんだ
毎晩見るんだ
見たくなればいつでも見るんだ
水が澄んでりゃぼくは元気だ
水が濁りゃぼくは病気だ
水が赤くなりゃぼくは死んでる
ぼくの井戸の水をよく見るんだ
毎朝見るんだ
お昼にも見るんだ
毎晩見るんだ
見たくなればいつでも見るんだ
水が澄んでりゃぼくは元気だ
水が濁りゃぼくは病気だ
水が赤くなりゃぼくは死んでる
こうして馬に乗り、犬を連れ、剣をもって兄はフランス一周に旅立っていった。途中でライオンにあうと、
「あんたと一緒にいく方法はないかね」と頼まれた。
「お前をどうすりゃいいんだ、そんなにでっかい図体してさ。馬がつぶれちゃうよ」
「そんなこといわずに連れてっておくれ、きっといつか役にたつから」
「じゃあうしろに乗りな、さあいこう」
しばらくいくと、めんどりを食ってる狐にあった。狐も一緒に連れてってくれと頼んだ。
「お前もか、小さいの、どうしろっていうんだ。なんの役にもたちそうにないなあ」
「きっとお役にたちますから、どうか連れてってください」
「じゃあうしろに乗りな、さあいこう」
「あんたと一緒にいく方法はないかね」と頼まれた。
「お前をどうすりゃいいんだ、そんなにでっかい図体してさ。馬がつぶれちゃうよ」
「そんなこといわずに連れてっておくれ、きっといつか役にたつから」
「じゃあうしろに乗りな、さあいこう」
しばらくいくと、めんどりを食ってる狐にあった。狐も一緒に連れてってくれと頼んだ。
「お前もか、小さいの、どうしろっていうんだ。なんの役にもたちそうにないなあ」
「きっとお役にたちますから、どうか連れてってください」
「じゃあうしろに乗りな、さあいこう」
きょう歩いて
あした歩いて
げんこつにぎって歩いて
しまいにゃたくさんの道のりをいった
あした歩いて
げんこつにぎって歩いて
しまいにゃたくさんの道のりをいった
日暮れどきに大きな町についたと。そしたら町じゅうが通夜みたいでな、戸口にも、窓にも、いたるところ黒い布がたれていたそうな。若者は宿の戸をたたいていった。
「今夜ぼくと連れの動物たちを泊めてもらえませんか」
「ああいいとも、あんたのほうはね、部屋を用意しますよ。でも、動物たちは、馬小屋に入れとくれ」
動物たちは離れた馬小屋に連れていかれ、若者は部屋に案内された。夕食のとき、ここはなんという町かと聞くと、
「お客さんは、パリにいなさるんですよ」という返事だった。
「おかしいな、学校では、パリはフランスで一番美しい町だと教わったのに、いままで見たなかで一番悲しい町じゃないか。どこもかしこも黒幕だらけだ。いったいどうなってるの、なぜみんな悲しんでいるんですか」
「それじゃご存じないんですね。パリでは毎年フランスの王さまが、若い娘にくじをひかせるんです。七つ頭の獣に、だれが食われるかをきめるのにね。あした食われるくじをひいたのは、王女さまなんですよ。王さまは王女さまの死をいたんで、町じゅうに喪中のお触れを出されたんです」
若者はかさねて聞いた。
「王女さまは、どこで七つ頭の獣に食われることになっているのか、どうかぼくにその場所を教えてくれませんか」
「いいでしょう、教えましょう、ブーローニュの森だそうです」
若者はなにもいわず寝にいった。
つぎの朝、食事がすむと若者は馬に乗り、動物たちをひきつれて、ブーローニュの森へと向かった。森の手前で王女にあった。
「失礼ですが、ぼくのうしろに乗りませんか」
「いいえ、これから七つ頭の獣に食われにいくところですから」
「とにかくお乗りなさい」
王女はためらっていた。若者は、王女を抱えて馬に乗せ、ライオンや狐のそばにすわらせた。
そして七つ頭の獣のいる森の奥へとすすんでいった。若者が馬の背にたくさん乗せてやってくるのを見ると、獣は叫んだ。
「軽い食事のつもりが、こりゃ大宴会だわい」
動物たち全部と王女だもの、食べものがいっぱいなわけだ。一、二、三、四、五、獣が数えていると若者は答えた。
「さあどうかな、いまにわかるぞ。それまではひと仕事だ」
そこで戦いが始まった。若者は、馬にまたがったまま、剣をふりまわした。ほらこんなぐあいにね。そして打って打って打ちまくった。頭を一つ切り落とし、二つめも落とした。しかし、獣には、特別の成分のようなものがあってよ、なんちゅうか、糊の入ったたらいみたいなもんがそばにあってな、そん中に身をかがめると、まるでなにもなかったごとく、すぐに頭がもとどおりについてしまう。
けれども、戦いを続ければ続けるほど、獣はだんだんと衰えて、とうとう停戦を申し込んだのさ。若者はすこしも疲れてなかったから、
「停戦なんてだめだ。命のあるかぎり戦え!」と叫んだのさ。
また戦いがはじまった。打った、打った。いくつも獣の頭を投げだしたがな、すぐにもとどおりにくっついちまうんだ。獣がまた休みたい、改めてやり直したいといったとき、さすがに若者も弱っていたので、こういった。
「よかろう、停戦だ、だがあしたもういちど戦うからな。こんどは容赦しないぞ。お前がぼくを殺すか、ぼくがお前を殺すか二つに一つだ」
「わかった、あすだな」
そういうわけで、みんなはもどった。森から出るまえに、王女は馬をおりた。若者を宮殿に連れていこうとしたが、若者は応じないで、こういった。
「王女さま、だれにもいわないでください、きょうあったことは、決してだれにもしゃべってはいけません。あすの朝、きょうとおなじ森の小道でお会いしましょう」
その晩若者は、前の晩とおなじ宿にもどった。動物たちを馬小屋にいれて鍵をかけ、部屋にはいって寝た。
つぎの朝、食事を終えると、馬に乗り、動物たちを連れて、またブーローニュの森へでかけた。森へ入ると、年とった魔女に出会いこう聞かれた。
「どこへいくのかね」
「王さまの娘を救うためにいくんですよ。きのう、七つ頭の獣に食われるはずだったが、ぼくが獣をやっつけたんだ。戦いは途中までで、まだ終わっていないんです」
すると魔女がいった。
「お前さんには、とても獣は殺せやしないよ。秘密があるのさ、それを知らなきゃ、けっしてうまくはいかない。まんなかの頭だよ、四番めのを打たなけりゃ、なにしてもだめだ。四番めの頭を落としたら、すぐ動物たちに、『主人を守れ』というんだ。動物たちが獣より先に、その頭をくわえて噛みつけば、獣を殺すことができるのさ」
さて、森の道に王女がいた。こんどは二度くりかえしお乗りなさいというまでもなく、王女はすぐ馬に乗った。たちまち、獣が激(はげ)しい勢いで、あたりの木をみんなへし折りながら、近づいてきた。若者は剣をふりまわし、打って打って、さんざん打ちまくった。戦いに戦って、三番めの頭をきり落とし、二番めの頭を落とし、一番めも五番めも落としたが、どうしても四番めの頭に剣がとどかない。
力をふりしぼってふたたび攻撃をくわえる。とうとう獣がいった。
「停戦にしてくれ」
「きのういったはずだ。きょうは停戦しないぞ。そのままくたばれ」
さらに攻撃を続けた。四番めの頭は、なかなかうまくいかない。
「なんててごわいんだ、あいつめ」
もう一度反撃をくわえる。いままでよりいっそう激しく剣をふりまわし、何度もくりかえすうちに、とうとうすべての頭を打ちおとすことができた。でかしたぞ。ただちに動物たちにいった。
「主人を守れ!」
動物たちは獣の頭にとびついて、口ぐちに噛みついた。若者は、とうとう七つ頭の獣を退治した。
獣が死ぬと、若者は、王女にハンカチはないかとたずねた。王女がポケットからとりだしたハンカチで、若者は獣の七枚の舌を包んだ。ひとつの頭に一枚ずつの舌があったからね。王女は若者に結婚の誓いをしてあった。
「わたしを救ってくださったのですから、結婚の誓いをはたさなくてはなりません」
王女はそういって、若者をすぐに宮殿に連れていこうとした。しかし若者はいった。
「いますぐに結婚はできません。ぼくはフランス一周の旅に出ます。一年と一日たったら、パリにもどってあなたと結婚します。でも、だれにもそのことをいってはいけません、いま見たこともなにもいってはいけません」
「わかったわ」
そこで若者と動物たちは、フランス一周に出かけることになり、出発した。
王女は帰り道で、炭の袋を肩にかついだ炭焼きに出会った。王女を見てびっくりした炭焼きはいった。
「あんれ、まだこんなとこにおいでたのか。二日まえに七つ頭の獣に食われちまったんではなかったんかね」
「馬に乗った人が救ってくれたのよ。その人が七つ頭の獣を殺したのよ」
「獣を殺したって。それなら、どこに獣がいるのかわしにいうんだ。いわなきゃ、すぐにお前を殺しちまうぞ」
恐ろしくなった王女は、炭焼きを獣の横たわっている場所へ案内した。炭焼きは七つの頭をひろいあつめると、炭の袋へしまって王女にいった。
「さあ、一緒にお城へいくんだ」
フランス王の宮殿につくと、炭焼きは王さまにいった。
「もうパリの町では、若い娘が殺されることはありません。陛下、王女さまをお救いしたのはわたしです。わたしが七つ頭の獣をやっつけました。それは本当のことです。ごらんください。ここに七つの頭があります」
王さまはいった。
「お前がわたしの娘を救ってくれたのなら、お前は娘と結婚する資格があるな」
しかし、王女はいった。
「一年と一日たつまでは、結婚したくありません」
そこで王さまは炭焼きにいった。
「いまから一年間、城に住むがいい。なにもしなくてよい。結婚式は、一年と一日後におこなうとしよう」
「承知しました」
さて、話のなかでは、一年と一日はすぐに過ぎるからね。ほら、もうじき一年と一日がたつころになった。
若者は「パリへいかなけりゃ」と考えた。
そして若者はパリの町へ現れた。パリはもう喪中ではなかった。通りという通りは、どの窓も、リボンやレースや旗で飾られていた。王女の結婚式のため、できるだけパリの町を飾るよう、王さまが命じたのだった。
若者はまっすぐ前とおなじ宿にいくと、戸をたたいた。
「ぼくと動物たちを泊めてくれませんか」
「いいですよ」
動物たちは離れた馬小屋へ連れていった。夕食のあとで、若者はたずねた。
「ちょうど一年まえにここへ来たことがあるんです。ずいぶん変わりましたね。いったいどういうわけなんです。一年まえ、あんなに悲しそうだったパリの町が、きょうはまたやけに陽気で、あっちでもこっちでも入り口や窓にのぼりや旗が飾ってあるというのは」
「ご存じないんですか。あすは王女さまの結婚式ですよ。炭焼きの男が王女さまを救ったので、あした王女さまと結婚するんです」
「そうですか、それじゃ資格があるわけだ。王女さまを救ったのは炭焼きの男ですか」
王さまは、婚礼のご馳走のために、子牛や羊や牛など、いろいろな種類の動物をたくさん殺させてあった。若者はライオンに命じた。
「いけ、大きなライオンよ、いって一頭でも二頭でもすきなだけの牛を背中にかついでこい」
ライオンは走っていき、四頭の牛をもちかえった。
「さらに別の四頭もかついでこい。そのあとでもういっぺん四頭運んできてけりをつけてしまえ」
とうとうライオンは牛をすっかり運んできてしまった。
こんどは狐にいった。
「さあお前は行ってぶどう酒をとってこい、十樽ほどな」
つぎに若者は犬に向かっていった。
「お前は王女さまに会いにいくんだ、首にとびつくんだぞ。すばらしいシャンペンを一びんくださるからな」王女は犬をおぼえていたものね。
犬はとんでいった。王女は犬をおぼえていて、シャンペンを一びんもたせてくれた。
宴会に用意したものが、みんなどこかへ運ばれてしまうので、王さまは軍隊を動員することにした。竜騎兵の連隊長が町じゅうの宿屋にあたり、旅籠にあたって聞きまわった。
「恐ろしい動物をつれた泊まり客はおらんかな。王さまの食糧をみんな運んでしまったやつらだ」
「いいえ、おりません、わたしどもには」
若者が泊まっている宿へくると、連隊長はたずねた。
「恐ろしい動物を連れた泊まり客はおらんかな。王さまの宮殿を荒らしまわって、食糧をみんなかっぱらったやつらだ」
「はい、そのような人ならうちに泊まっています」
「呼んできてくれんか」
「はい、はい」
宿の主人は若者にいった。
「竜騎兵の連隊長さんが下にきて、王さまの命令だからすぐおりてくるように、といってますよ」
「自分のほうからあがってこい、そういってくれ」
連隊長は部屋まであがってきて、ノックしないでなかへはいった。
「恐ろしい動物を連れているのはお前か」
「そうだ、わたしだ」
そういうなり若者は剣をとって連隊長を殺した。
つぎに隊長が部屋にはいってきた。これもおなじようにやっつけた。そしてつぎつぎにやってくる兵隊をみんな殺した。それから部屋のドアをあけると若者は叫んだ。
「おい指揮官、もどって王さまにいうんだ。話があれば自分で会いにおいで、とね。軍隊をよこしたりしたら、みな殺しにするぞ」
王さまも怖かったのさ、ほかの者たちのように殺されるのをね。部屋のまえへくると、ノックした。
「お入り」
「わたしの宮殿に動物たちをよこしてかっぱらいをさせたのはあんたかな」
「そのとおり、わたしがやったんだ。わたしの動物たちが損害をかけたといっても、それはあいつらがかせぎとったのだ」
「なんと、かせぎとったといわれるのか」
「そうだ、かせぎとったのさ。七つ頭の獣は、あの動物たちのたすけをかりて殺したのだからな。あなたの娘を救ったのはこのわたしなんだ」
すると王さまはいった。
「いや炭焼きだ。一年まえから城にいる炭焼きの男だ。獣の七つの頭を袋にいれてもっているからな。たしかな証拠があるぞ」
「たしかに頭はもっているかもしれないが、七枚の舌はないはずだ。七つの頭に舌がついているかどうか調べて、すぐに返事をいただこう」
城へひきかえした王さまは、獣の頭を運ばせ、一番め、二番め、三番め、と全部の頭を調べてみたが、どれにも舌はついていなかった。
「七つの頭をぜんぶ調べてみたが、舌はなかった」
「それじゃ、お見せしよう」
ハンカチを開くと舌がでてきた。ハンカチには王さまの名と王女の名の縫い取りがあった。
「こういうことなら、悪い奴はこらしめねばならない。さあ、一緒に城へきなさい。娘と結婚するのはあんたのほうだ」
二人は城へもどった。王さまは兵隊を集めると命じた。
「たきぎを山積みにしろ。その上に炭焼きをのせて四すみに火をつけるんだ」
たきぎが燃え、炭焼きは火あぶりになった。婚礼の支度がととのえられ、つぎの日に結婚式がおこなわれた。
ところで、若者の弟はどうしているかというと、結婚式の日に井戸の水を見にいったんだって。その日は、いままでになく水がきれいに澄んでいたそうな。それで弟はこう思ったんだと。
「きょうは兄きの一番いい日にちがいない。きっときょう結婚したんだ」
婚礼は無事おわった。それから何日かたって、若者が狩りにでかけようとすると、妻がいった。
「けっしてお父さまの森へ狩りにいってはだめよ、あそこへいった人はみんな死んでしまうのだから」
王さまの森には、もう一頭べつの怪獣がいたんだ。
婚礼のあと、ライオンも狐もどこかへいってしまった。
だからつぎの日の朝、若者は黙って馬と犬だけを連れて、王さまの森へ狩りにいった。森の道のなかほどまでいくと、たちまち大きな怪獣が現れて、あっというまに若者を殺し、馬を殺し、犬を殺し、みんな細切れにしてそばの車置き場に吊してしまった。
若者が死ぬと、井戸の水はたちまち真っ赤になった。弟はそれを見て思った。
「きのうはあんなにきれいな水だったのに。兄きの最良の日だったんだな。そしてきょうは死んでる。死んだにせよ、生きているにせよ、探しにいかなくては」
兄さんの馬によく似た馬に乗り、兄さんの犬によく似た犬を連れ、兄さんのによく似た剣をもって、兄さんの服とおなじように仕立てられた服を着たので、どっちがどっちか見わけがつかなくなった。そして出発した。
「今夜ぼくと連れの動物たちを泊めてもらえませんか」
「ああいいとも、あんたのほうはね、部屋を用意しますよ。でも、動物たちは、馬小屋に入れとくれ」
動物たちは離れた馬小屋に連れていかれ、若者は部屋に案内された。夕食のとき、ここはなんという町かと聞くと、
「お客さんは、パリにいなさるんですよ」という返事だった。
「おかしいな、学校では、パリはフランスで一番美しい町だと教わったのに、いままで見たなかで一番悲しい町じゃないか。どこもかしこも黒幕だらけだ。いったいどうなってるの、なぜみんな悲しんでいるんですか」
「それじゃご存じないんですね。パリでは毎年フランスの王さまが、若い娘にくじをひかせるんです。七つ頭の獣に、だれが食われるかをきめるのにね。あした食われるくじをひいたのは、王女さまなんですよ。王さまは王女さまの死をいたんで、町じゅうに喪中のお触れを出されたんです」
若者はかさねて聞いた。
「王女さまは、どこで七つ頭の獣に食われることになっているのか、どうかぼくにその場所を教えてくれませんか」
「いいでしょう、教えましょう、ブーローニュの森だそうです」
若者はなにもいわず寝にいった。
つぎの朝、食事がすむと若者は馬に乗り、動物たちをひきつれて、ブーローニュの森へと向かった。森の手前で王女にあった。
「失礼ですが、ぼくのうしろに乗りませんか」
「いいえ、これから七つ頭の獣に食われにいくところですから」
「とにかくお乗りなさい」
王女はためらっていた。若者は、王女を抱えて馬に乗せ、ライオンや狐のそばにすわらせた。
そして七つ頭の獣のいる森の奥へとすすんでいった。若者が馬の背にたくさん乗せてやってくるのを見ると、獣は叫んだ。
「軽い食事のつもりが、こりゃ大宴会だわい」
動物たち全部と王女だもの、食べものがいっぱいなわけだ。一、二、三、四、五、獣が数えていると若者は答えた。
「さあどうかな、いまにわかるぞ。それまではひと仕事だ」
そこで戦いが始まった。若者は、馬にまたがったまま、剣をふりまわした。ほらこんなぐあいにね。そして打って打って打ちまくった。頭を一つ切り落とし、二つめも落とした。しかし、獣には、特別の成分のようなものがあってよ、なんちゅうか、糊の入ったたらいみたいなもんがそばにあってな、そん中に身をかがめると、まるでなにもなかったごとく、すぐに頭がもとどおりについてしまう。
けれども、戦いを続ければ続けるほど、獣はだんだんと衰えて、とうとう停戦を申し込んだのさ。若者はすこしも疲れてなかったから、
「停戦なんてだめだ。命のあるかぎり戦え!」と叫んだのさ。
また戦いがはじまった。打った、打った。いくつも獣の頭を投げだしたがな、すぐにもとどおりにくっついちまうんだ。獣がまた休みたい、改めてやり直したいといったとき、さすがに若者も弱っていたので、こういった。
「よかろう、停戦だ、だがあしたもういちど戦うからな。こんどは容赦しないぞ。お前がぼくを殺すか、ぼくがお前を殺すか二つに一つだ」
「わかった、あすだな」
そういうわけで、みんなはもどった。森から出るまえに、王女は馬をおりた。若者を宮殿に連れていこうとしたが、若者は応じないで、こういった。
「王女さま、だれにもいわないでください、きょうあったことは、決してだれにもしゃべってはいけません。あすの朝、きょうとおなじ森の小道でお会いしましょう」
その晩若者は、前の晩とおなじ宿にもどった。動物たちを馬小屋にいれて鍵をかけ、部屋にはいって寝た。
つぎの朝、食事を終えると、馬に乗り、動物たちを連れて、またブーローニュの森へでかけた。森へ入ると、年とった魔女に出会いこう聞かれた。
「どこへいくのかね」
「王さまの娘を救うためにいくんですよ。きのう、七つ頭の獣に食われるはずだったが、ぼくが獣をやっつけたんだ。戦いは途中までで、まだ終わっていないんです」
すると魔女がいった。
「お前さんには、とても獣は殺せやしないよ。秘密があるのさ、それを知らなきゃ、けっしてうまくはいかない。まんなかの頭だよ、四番めのを打たなけりゃ、なにしてもだめだ。四番めの頭を落としたら、すぐ動物たちに、『主人を守れ』というんだ。動物たちが獣より先に、その頭をくわえて噛みつけば、獣を殺すことができるのさ」
さて、森の道に王女がいた。こんどは二度くりかえしお乗りなさいというまでもなく、王女はすぐ馬に乗った。たちまち、獣が激(はげ)しい勢いで、あたりの木をみんなへし折りながら、近づいてきた。若者は剣をふりまわし、打って打って、さんざん打ちまくった。戦いに戦って、三番めの頭をきり落とし、二番めの頭を落とし、一番めも五番めも落としたが、どうしても四番めの頭に剣がとどかない。
力をふりしぼってふたたび攻撃をくわえる。とうとう獣がいった。
「停戦にしてくれ」
「きのういったはずだ。きょうは停戦しないぞ。そのままくたばれ」
さらに攻撃を続けた。四番めの頭は、なかなかうまくいかない。
「なんててごわいんだ、あいつめ」
もう一度反撃をくわえる。いままでよりいっそう激しく剣をふりまわし、何度もくりかえすうちに、とうとうすべての頭を打ちおとすことができた。でかしたぞ。ただちに動物たちにいった。
「主人を守れ!」
動物たちは獣の頭にとびついて、口ぐちに噛みついた。若者は、とうとう七つ頭の獣を退治した。
獣が死ぬと、若者は、王女にハンカチはないかとたずねた。王女がポケットからとりだしたハンカチで、若者は獣の七枚の舌を包んだ。ひとつの頭に一枚ずつの舌があったからね。王女は若者に結婚の誓いをしてあった。
「わたしを救ってくださったのですから、結婚の誓いをはたさなくてはなりません」
王女はそういって、若者をすぐに宮殿に連れていこうとした。しかし若者はいった。
「いますぐに結婚はできません。ぼくはフランス一周の旅に出ます。一年と一日たったら、パリにもどってあなたと結婚します。でも、だれにもそのことをいってはいけません、いま見たこともなにもいってはいけません」
「わかったわ」
そこで若者と動物たちは、フランス一周に出かけることになり、出発した。
王女は帰り道で、炭の袋を肩にかついだ炭焼きに出会った。王女を見てびっくりした炭焼きはいった。
「あんれ、まだこんなとこにおいでたのか。二日まえに七つ頭の獣に食われちまったんではなかったんかね」
「馬に乗った人が救ってくれたのよ。その人が七つ頭の獣を殺したのよ」
「獣を殺したって。それなら、どこに獣がいるのかわしにいうんだ。いわなきゃ、すぐにお前を殺しちまうぞ」
恐ろしくなった王女は、炭焼きを獣の横たわっている場所へ案内した。炭焼きは七つの頭をひろいあつめると、炭の袋へしまって王女にいった。
「さあ、一緒にお城へいくんだ」
フランス王の宮殿につくと、炭焼きは王さまにいった。
「もうパリの町では、若い娘が殺されることはありません。陛下、王女さまをお救いしたのはわたしです。わたしが七つ頭の獣をやっつけました。それは本当のことです。ごらんください。ここに七つの頭があります」
王さまはいった。
「お前がわたしの娘を救ってくれたのなら、お前は娘と結婚する資格があるな」
しかし、王女はいった。
「一年と一日たつまでは、結婚したくありません」
そこで王さまは炭焼きにいった。
「いまから一年間、城に住むがいい。なにもしなくてよい。結婚式は、一年と一日後におこなうとしよう」
「承知しました」
さて、話のなかでは、一年と一日はすぐに過ぎるからね。ほら、もうじき一年と一日がたつころになった。
若者は「パリへいかなけりゃ」と考えた。
そして若者はパリの町へ現れた。パリはもう喪中ではなかった。通りという通りは、どの窓も、リボンやレースや旗で飾られていた。王女の結婚式のため、できるだけパリの町を飾るよう、王さまが命じたのだった。
若者はまっすぐ前とおなじ宿にいくと、戸をたたいた。
「ぼくと動物たちを泊めてくれませんか」
「いいですよ」
動物たちは離れた馬小屋へ連れていった。夕食のあとで、若者はたずねた。
「ちょうど一年まえにここへ来たことがあるんです。ずいぶん変わりましたね。いったいどういうわけなんです。一年まえ、あんなに悲しそうだったパリの町が、きょうはまたやけに陽気で、あっちでもこっちでも入り口や窓にのぼりや旗が飾ってあるというのは」
「ご存じないんですか。あすは王女さまの結婚式ですよ。炭焼きの男が王女さまを救ったので、あした王女さまと結婚するんです」
「そうですか、それじゃ資格があるわけだ。王女さまを救ったのは炭焼きの男ですか」
王さまは、婚礼のご馳走のために、子牛や羊や牛など、いろいろな種類の動物をたくさん殺させてあった。若者はライオンに命じた。
「いけ、大きなライオンよ、いって一頭でも二頭でもすきなだけの牛を背中にかついでこい」
ライオンは走っていき、四頭の牛をもちかえった。
「さらに別の四頭もかついでこい。そのあとでもういっぺん四頭運んできてけりをつけてしまえ」
とうとうライオンは牛をすっかり運んできてしまった。
こんどは狐にいった。
「さあお前は行ってぶどう酒をとってこい、十樽ほどな」
つぎに若者は犬に向かっていった。
「お前は王女さまに会いにいくんだ、首にとびつくんだぞ。すばらしいシャンペンを一びんくださるからな」王女は犬をおぼえていたものね。
犬はとんでいった。王女は犬をおぼえていて、シャンペンを一びんもたせてくれた。
宴会に用意したものが、みんなどこかへ運ばれてしまうので、王さまは軍隊を動員することにした。竜騎兵の連隊長が町じゅうの宿屋にあたり、旅籠にあたって聞きまわった。
「恐ろしい動物をつれた泊まり客はおらんかな。王さまの食糧をみんな運んでしまったやつらだ」
「いいえ、おりません、わたしどもには」
若者が泊まっている宿へくると、連隊長はたずねた。
「恐ろしい動物を連れた泊まり客はおらんかな。王さまの宮殿を荒らしまわって、食糧をみんなかっぱらったやつらだ」
「はい、そのような人ならうちに泊まっています」
「呼んできてくれんか」
「はい、はい」
宿の主人は若者にいった。
「竜騎兵の連隊長さんが下にきて、王さまの命令だからすぐおりてくるように、といってますよ」
「自分のほうからあがってこい、そういってくれ」
連隊長は部屋まであがってきて、ノックしないでなかへはいった。
「恐ろしい動物を連れているのはお前か」
「そうだ、わたしだ」
そういうなり若者は剣をとって連隊長を殺した。
つぎに隊長が部屋にはいってきた。これもおなじようにやっつけた。そしてつぎつぎにやってくる兵隊をみんな殺した。それから部屋のドアをあけると若者は叫んだ。
「おい指揮官、もどって王さまにいうんだ。話があれば自分で会いにおいで、とね。軍隊をよこしたりしたら、みな殺しにするぞ」
王さまも怖かったのさ、ほかの者たちのように殺されるのをね。部屋のまえへくると、ノックした。
「お入り」
「わたしの宮殿に動物たちをよこしてかっぱらいをさせたのはあんたかな」
「そのとおり、わたしがやったんだ。わたしの動物たちが損害をかけたといっても、それはあいつらがかせぎとったのだ」
「なんと、かせぎとったといわれるのか」
「そうだ、かせぎとったのさ。七つ頭の獣は、あの動物たちのたすけをかりて殺したのだからな。あなたの娘を救ったのはこのわたしなんだ」
すると王さまはいった。
「いや炭焼きだ。一年まえから城にいる炭焼きの男だ。獣の七つの頭を袋にいれてもっているからな。たしかな証拠があるぞ」
「たしかに頭はもっているかもしれないが、七枚の舌はないはずだ。七つの頭に舌がついているかどうか調べて、すぐに返事をいただこう」
城へひきかえした王さまは、獣の頭を運ばせ、一番め、二番め、三番め、と全部の頭を調べてみたが、どれにも舌はついていなかった。
「七つの頭をぜんぶ調べてみたが、舌はなかった」
「それじゃ、お見せしよう」
ハンカチを開くと舌がでてきた。ハンカチには王さまの名と王女の名の縫い取りがあった。
「こういうことなら、悪い奴はこらしめねばならない。さあ、一緒に城へきなさい。娘と結婚するのはあんたのほうだ」
二人は城へもどった。王さまは兵隊を集めると命じた。
「たきぎを山積みにしろ。その上に炭焼きをのせて四すみに火をつけるんだ」
たきぎが燃え、炭焼きは火あぶりになった。婚礼の支度がととのえられ、つぎの日に結婚式がおこなわれた。
ところで、若者の弟はどうしているかというと、結婚式の日に井戸の水を見にいったんだって。その日は、いままでになく水がきれいに澄んでいたそうな。それで弟はこう思ったんだと。
「きょうは兄きの一番いい日にちがいない。きっときょう結婚したんだ」
婚礼は無事おわった。それから何日かたって、若者が狩りにでかけようとすると、妻がいった。
「けっしてお父さまの森へ狩りにいってはだめよ、あそこへいった人はみんな死んでしまうのだから」
王さまの森には、もう一頭べつの怪獣がいたんだ。
婚礼のあと、ライオンも狐もどこかへいってしまった。
だからつぎの日の朝、若者は黙って馬と犬だけを連れて、王さまの森へ狩りにいった。森の道のなかほどまでいくと、たちまち大きな怪獣が現れて、あっというまに若者を殺し、馬を殺し、犬を殺し、みんな細切れにしてそばの車置き場に吊してしまった。
若者が死ぬと、井戸の水はたちまち真っ赤になった。弟はそれを見て思った。
「きのうはあんなにきれいな水だったのに。兄きの最良の日だったんだな。そしてきょうは死んでる。死んだにせよ、生きているにせよ、探しにいかなくては」
兄さんの馬によく似た馬に乗り、兄さんの犬によく似た犬を連れ、兄さんのによく似た剣をもって、兄さんの服とおなじように仕立てられた服を着たので、どっちがどっちか見わけがつかなくなった。そして出発した。
きょう歩き
あしたも歩き
いけばいくほど
道がはかどる
あしたも歩き
いけばいくほど
道がはかどる
王さまの城につくと、王女が門の前にいて、こういった。
「まあ、お帰りなさい、いま帰られたの」
「ああ、帰ったよ」
弟は馬を小屋につなぐと、兄になりすまして夕食をとり、寝室にはいった。寝るときになると、義理の姉の王女と自分との間に剣を置いた。王女は機嫌が悪く、こういった。
「森へいっては駄目といったのに。殺されるからって」
「そうか、兄きは森で殺されたにちがいないな。あすいってみよう」弟は思った。
つぎの朝、食事をおえると、馬に乗り、犬を連れて兄さんの義理の父の森へとでかけた。
森の小道で年とった魔女に出会った。
「どこへいくのかね」
「兄きを探しにいくんですよ。死んでるにせよ、生きてるにせよね」
「お前の兄さんは、ここから遠くない場所で死んでるよ、お前もおなじようにして殺されるよ。いいかい、獣を殺すにはだね、いまからやりかたを教えるからその通りにするんだ。獣は切り落とされた頭を、もとどおりにくっつける力をもっている。でも、もしお前が、五メートル離れたところの犬に頭を投げてやり、犬が獣より先に頭をくわえてしまえばしめたもんさ」
「はい、わかりました」
そこで弟はさきへすすんだ。獣に出会うと、獣はいった。
「どこへいくんだ、うじ虫め、食ってやるぞ」
「いまにみてろ」
弟はそう答えると、剣をとって獣の頭を切り落とした。そしてすぐ、犬にいった。
「主人を守れ」
犬がとびついて頭をくわえたので、獣は死んだ。馬からおりて車置き場へいってみると、いったいなにがあったとおもう?
「人間の肉だ。兄きのだ。獣のするようにやってみたらどうかな。きれはしを集めてくっつけてみよう」
兄のからだのきれはしをくっつけて、弟はいった。
「さあ、立ち上がれ」
兄さんは目をこすりはじめ、目をあけるとさけんだ。
「やあ、お前か」
「そうだよ、兄さんの馬や犬がどんな様子かみてごらんよ。兄さんもあんなふうに細切れだったんだ。兄さんを生きかえらせたように、馬や犬も生きかえらせよう」
弟は、馬をくっつけ、犬をくっつけた。みんなもとのようになった。すると兄はたずねた。
「どうやってぼくを救うことができたのかい」
「兄さんにいわれたとおり、井戸をのぞいたのさ。水が赤くなったので、兄さんが死んだと思ったんだ」
「どうやって、ぼくのいるところがわかったのかい」
「兄さんの嫁さんと寝たんだよ」
「ぼくの妻と寝たのか」
剣をとりあげると、兄は弟をまっぷたつに切り、弟の馬と犬もおなじようにした。それから自分の馬と犬を連れ、兄はいってしまった。
その晩のことだ、ベッドにはいったとき、兄は自分の妻との間に剣を置かなかったんだ。自分の嫁さんだもの。すると朝起きるときに、
「前の晩のあなたはとっても怖かったわ」と妻がいった。
「どうして」
「どうしてって、わたしたちの間に剣を置いたでしょ、ふつうじゃないんですもの」
それで兄は思った。「弟は、妻に触れたくなかったのだ。だからふたりの間に剣を置いたんだ。あいつを殺したのは間違いだった。行って生きかえらせてみよう。あいつがぼくを生きかえらせてくれたように」
食事がすむと、馬に乗り、犬を連れてまっすぐ森へむかった。
弟を殺した場所へつく。馬をおり、そこにあった糊をとって弟を生きかえらせる。ほら、弟は生きかえった。
馬にもおなじようにする、ほら、馬は生きかえった。
犬にもおなじようにする、ほら、犬は生きかえった。
二人してまったくおなじような馬に乗り、おなじような犬を連れ、城へもどった。まったく似た二人だった。
城へつくと、兄がいった。
「弟よ、ぼくらと一緒に死ぬまでここにいたらどうだ」
「まあ、お帰りなさい、いま帰られたの」
「ああ、帰ったよ」
弟は馬を小屋につなぐと、兄になりすまして夕食をとり、寝室にはいった。寝るときになると、義理の姉の王女と自分との間に剣を置いた。王女は機嫌が悪く、こういった。
「森へいっては駄目といったのに。殺されるからって」
「そうか、兄きは森で殺されたにちがいないな。あすいってみよう」弟は思った。
つぎの朝、食事をおえると、馬に乗り、犬を連れて兄さんの義理の父の森へとでかけた。
森の小道で年とった魔女に出会った。
「どこへいくのかね」
「兄きを探しにいくんですよ。死んでるにせよ、生きてるにせよね」
「お前の兄さんは、ここから遠くない場所で死んでるよ、お前もおなじようにして殺されるよ。いいかい、獣を殺すにはだね、いまからやりかたを教えるからその通りにするんだ。獣は切り落とされた頭を、もとどおりにくっつける力をもっている。でも、もしお前が、五メートル離れたところの犬に頭を投げてやり、犬が獣より先に頭をくわえてしまえばしめたもんさ」
「はい、わかりました」
そこで弟はさきへすすんだ。獣に出会うと、獣はいった。
「どこへいくんだ、うじ虫め、食ってやるぞ」
「いまにみてろ」
弟はそう答えると、剣をとって獣の頭を切り落とした。そしてすぐ、犬にいった。
「主人を守れ」
犬がとびついて頭をくわえたので、獣は死んだ。馬からおりて車置き場へいってみると、いったいなにがあったとおもう?
「人間の肉だ。兄きのだ。獣のするようにやってみたらどうかな。きれはしを集めてくっつけてみよう」
兄のからだのきれはしをくっつけて、弟はいった。
「さあ、立ち上がれ」
兄さんは目をこすりはじめ、目をあけるとさけんだ。
「やあ、お前か」
「そうだよ、兄さんの馬や犬がどんな様子かみてごらんよ。兄さんもあんなふうに細切れだったんだ。兄さんを生きかえらせたように、馬や犬も生きかえらせよう」
弟は、馬をくっつけ、犬をくっつけた。みんなもとのようになった。すると兄はたずねた。
「どうやってぼくを救うことができたのかい」
「兄さんにいわれたとおり、井戸をのぞいたのさ。水が赤くなったので、兄さんが死んだと思ったんだ」
「どうやって、ぼくのいるところがわかったのかい」
「兄さんの嫁さんと寝たんだよ」
「ぼくの妻と寝たのか」
剣をとりあげると、兄は弟をまっぷたつに切り、弟の馬と犬もおなじようにした。それから自分の馬と犬を連れ、兄はいってしまった。
その晩のことだ、ベッドにはいったとき、兄は自分の妻との間に剣を置かなかったんだ。自分の嫁さんだもの。すると朝起きるときに、
「前の晩のあなたはとっても怖かったわ」と妻がいった。
「どうして」
「どうしてって、わたしたちの間に剣を置いたでしょ、ふつうじゃないんですもの」
それで兄は思った。「弟は、妻に触れたくなかったのだ。だからふたりの間に剣を置いたんだ。あいつを殺したのは間違いだった。行って生きかえらせてみよう。あいつがぼくを生きかえらせてくれたように」
食事がすむと、馬に乗り、犬を連れてまっすぐ森へむかった。
弟を殺した場所へつく。馬をおり、そこにあった糊をとって弟を生きかえらせる。ほら、弟は生きかえった。
馬にもおなじようにする、ほら、馬は生きかえった。
犬にもおなじようにする、ほら、犬は生きかえった。
二人してまったくおなじような馬に乗り、おなじような犬を連れ、城へもどった。まったく似た二人だった。
城へつくと、兄がいった。
「弟よ、ぼくらと一緒に死ぬまでここにいたらどうだ」
話はおしまい
もし死んでなきゃ
二人はいまでも生きてるよ
(新倉)
もし死んでなきゃ
二人はいまでも生きてるよ
(新倉)