アンゲル・カラリーティフの『ブルガリア民話集』におさめられた話です。カラリーティフは、民話の研究者であると同時にすぐれた文学者で、民話を素材とした多くの作品や童話を残しました。
この話の類話はロシア、ウクライナなどスラブ圏や、ヴォルガ沿岸のマリにも分布していますが話の数は多くありません。ブルガリアでは、一般に「お爺さんとお婆さんと月」という話名で、いまも各地に語り継がれている話です。いずれも、子供のいないお爺さんとお婆さんを助けようとして、月が鳥の姿をかりて、地上におりてくる話ですが、老夫婦が月をひきとめようとして翼を焼いてしまい、人間との共存関係が崩れてゆきます。「月が天上にもどることができず、闇夜がつづく」という神話的なモチーフをふくんだスケールの大きな話です。