グリム兄弟が一八一〇年に友人のブレンターノに依頼されて書き送った四九話の昔話の一つです。ブレンターノは民謡集『少年の魔法の角笛』の編者として知られるドイツロマン派の詩人です。
当時ドイツでは、民族の宝である昔話や民謡を書き残しておこうという気運が高まり、グリム兄弟も昔話を集めていました。しかしまだ本にしようとは考えていなかったようで、聞いた話を書きとめただけの簡単なものでした。この四十九話は一番もとのグリム童話という意味で「初稿」とよばれグリム童話研究の貴重な資料ともなっています。
この話は、グリム兄弟と家族ぐるみのつきあいのあったハッセンプフルーク家の長女マリーから聞いた話です。私たちが現在親しんでいる「白雪姫」と比べて、意地悪な継母が実母だったり、王子ではなく父親が救出者だったりという違いがあります。グリム兄弟は、この初稿にあとから知った他の類話を結合したり、部分的に差しかえたりしながら、全体の表現を豊かにしていったのです。
なお、本文中の「エンゲルランド」というのは「天使の住む国」という意味で、古くはドイツにとって「彼岸の国」であるイギリスを意味しました。