この話の語り手は、牛や羊などを市場に追っていくことを仕事とするドナルド・マクローです。一八五九年の九月、J・F・キャンベルがスコットランドの北ユーイスト島で、マクローと一緒に歩きながら聞いた話です。マクローは子供のころ、北ユーイスト島に住んでいた一人のおばあさんから昔話を聞いたそうです。そのおばあさんは語りの名人で、家には何マイルも先から子供たちがやってきて集まり、黙って身動きもせずに話を聞いていたということです。マクローも雪の中を六、七マイル歩いて話を聞きにいきました。子供たちが大人から煙草をすこしもらっていってプレゼントすると、おばあさんはそのお返しに一つ話をしてくれたそうです。
スコットランドには、英語とは全く異なるゲール語(スコットランドのケルト語)を話す人たちが住んでいます。語りが盛んな地域で、J・F・キャンベルは一八六〇年ごろゲール語の民話を記録し英語訳をつけて、スコットランドで最初の本格的な民話集を作りました。この話はその中の一話です。
エリンとはアイルランドのことです。