●七つ頭の獣(AT300「二人兄弟」)
ブルターニュ地方のラ・シャペル=デ=マレ村のマイヤンという集落で、一九四七年十月に籠編みの職人ピエール・ルリエーヴル(当時七三歳)が語った話です。ルリエーヴルは、語り終わったあとで「昔から伝わっていた話で、一二か一三の年に聞き覚えた」といい、さらに「昔の人たちは、これ以上長い話を語る者はいないだろうといって自慢していたもんだ」とつけくわえています。籠編み職人には、代々伝わる昔話のレパートリーがあり、なかでもこの七つ頭の獣と戦う話は、ひじょうに人気があったようです。フランスに多く伝わるこのタイプの話は、しばしば「竜退治」や「二人兄弟(または魚の王様)」の話と結びつき長い語りとなります。本書に収めた話は、クリック! クラック! という語りはじめの合図や、語りおさめの定形にもみられるように、口伝えの味わいがあちこちに残っていて魅力ある語りになっています。