この話が収録されたのは、スペイン北西部にあるアストゥリアス地方です。ここは、雨の多い緑豊かな所です。隣のガリシア地方にあるカトリックの巡礼地サンティアゴ・デ・コンポステーラへ行く通り道になっています。そのために、この地方には、外国からの巡礼者が語ったと思われる話が残されています。貧しい旅人は、ただで宿を与えてもらったお礼に、かまどを囲んで話を聞かせるのです。この話を記録したデ・ジャノも幼い頃からこうした話をいつも聞いて育ちました。きっと、この「熊のフワン」もそんな時に語られた話でしょう。語り手は、五六歳の農夫です。
この話は、『グリム童話集』では「こわがることを習いに旅に出た若者」としてよく知られていますが、スペインにはもう一つ別の「熊のフワン」という話があります。その話では牛飼いの娘が熊にさらわれ、洞窟の中に閉じ込められて熊との間に男の赤ちゃんをもうけます。この男の子は、力持ちで、母親を洞窟から助け出し、最後には幸せになります。ここに紹介した主人公の熊のフワンもこのような「熊と人間との間にできた力持ちの若者」ではなかったかと考えられます。