クトフは家に住んでいて、いつも縫いものをしていた。あるときのこと、クトフが窓辺に座って毛皮のズボンを縫っていると、なにかがふっと明りをさえぎった。クトフは窓の外も見ないで、こう思った。
「なにやら明りをさえぎっているぞ。きっとおれの鼻にちがいない。えい、切り落としてやれ」
クトフはじぶんの鼻をちょんと切って、また縫いものにとりかかった。ところがまた明りをさえぎるやつがいる。
「また外が暗くなったわい。もしかすると、明りをさえぎっているのはおれの頬じゃないか? よし、頬を切り落としてやれ」
クトフはじぶんの頬を切り落とすと、また座って縫いものをはじめた。こうしてクトフはじぶんの顔じゅうをずたずたに切ってしまった。鼻に、頬に、唇に、眉毛に、まつ毛まで切り落としてしまった。そんなわけでクトフは顔じゅうひりひり、ずきずき、痛んだ。あんまり痛いのでうんうんうなりながら、ふと窓のほうを見ると、子ネズミたちがそりに乗って滑っているじゃないか。
「おまえたちだな、明りをさえぎるやつは。おまえたちのためにおれの顔はずたずただ」
クトフはそういうと、縫いかけのズボンを手にもって外に出た。そしてネズミたちのそばにいって、こういった。
「おれの家の窓の下で滑っているのはおまえたちだな」
ネズミたちが窓がまちの上によじのぼると、クトフはズボンを下に置いて、いった。
「ちびども、さあ、このズボンの中にとびおりな。この中にはいって滑ると、そりゃあいいあんばいなんだ」
するとネズミたちがいった。
「おまえのズボンの中になんか、とびおりるもんか。おいらたちをつかまえるつもりなんだろう」
クトフはそれでもあきらめずにやさしい声でなんどもネズミたちにとびおりるようにいって、とうとうネズミたちを説きふせた。ネズミたちはクトフのズボンの中にすっとん、すっとんととびおりた。ネズミたちがズボンの中にはいると、クトフはズボンをひもでしばって森へいった。森でちょうどいいあんばいの木をさがしまわってやっと見つけると、クトフはその木にむかって、こういった。
「木よ、木よ、頭をたれよ! 木よ、木よ、頭をたれよ! 木よ、木よ、頭をたれよ!」
すると木が頭をぴょこんとさげた。クトフは木のてっぺんにズボンをひっかけると、もう一度木にいった。
「木よ、木よ、頭をあげよ! 木よ、木よ、頭をあげよ! 木よ、木よ、頭をあげよ!」
木が頭をすっくともちあげると、クトフは家へ帰っていった。
ズボンの中のネズミたちは大きな声をはりあげてさわいだ。その声があんまり大きいものだから、狐が聞きつけて、声のするほうへやってきた。狐は木のそばにくると、
「ネズミさんたち、そんなところでなにをしているの」
ときいた。
「クトフがおいらたちをこんなところに吊るしたんだよ」
「そんな木のてっぺんなんかに、いったいどうやって吊るしたの」
「クトフが木よ、木よ、頭をたれよ、木よ、木よ、頭をたれよっていうとね、木がじぶんで頭をさげたんだよ」
狐がそのとおりにいうと、木が頭をぴょこんとさげた。狐はズボンをおろしてひもをとき、ネズミたちを外にひっぱりだしてやった。いちばん小さなネズミだけはくたばっていたが、他のネズミたちはみんな外にでてきた。
狐はネズミたちに、白樺の皮をはいできてズボンの中につめるようにいいつけた。ネズミたちは白樺の皮をはいできて、ズボンにつめた。そしてその上に死んだネズミをのせると、ズボンをもう一度木のてっぺんにかけた。
「クトフがなんていったら、木は頭をもちあげたの」
と狐がきくと、
「クトフは、木よ、木よ、頭をあげよ、木よ、木よ、頭をあげよ、木よ、木よ、頭をあげよっていったよ」
とネズミたちが教えた。
狐がそのとおりにいうと、木がすっくと頭をもちあげた。それからネズミたちは狐といっしょに狐の家にいった。狐はネズミたちに、木の実をとってきて、血のようにまっかな水をつくるようにいいつけた。
それから三日して、クトフはすっぱくなったネズミたちを木からおろしにやってきた。やってきて木に頭をさげるようにいうと、木はすぐにぴょこんと頭をさげた。
クトフはひもをとくと、脇にいって腰をおろした。そして目を細め、袖をまくりあげ、歯を研ぐと、おもむろにズボンの中に手をつっこんだ。そして手さぐりで子ネズミをつかむと、口の中にほうりこんで、食べてしまった。
「おお、なんてうまいんだろう! ふう!」
クトフはそういうと、またズボンの中に手をつっこんで、他のネズミをさがした。だけどネズミはもう一匹もいなくて、ズボンの中は白樺の皮ばかり。クトフはかんかんに怒って、考えた。
「こいつは盗人狐のしわざにちがいない。やつのところにいって、殺してやる」
クトフは狐の家へでかけていった。いってみると狐はわずらっていて、うんうん、うなっていた。
「おまえだろう、おれのすっぱいごちそうを盗んだやつは」
クトフがきくと、狐がいった。
「とんでもない、ぬれぎぬだわ。わたしはもう何日も寝こんでいるのよ。ごらんなさいな。まるで血のおしっこでしょう。なのにおまえさんったら、わたしが食べ物を盗んだなんて。おまえさん、いい人でしょう。この桶をもっていって、中のものを川に捨ててきてちょうだいな」
クトフは狐があわれになって、桶をもって捨てにいった。すると狐がうしろから声をかけた。
「うしろをふりかえらないようにね。ふりかえると困ったことになるんだから」
クトフはあるきながら考えた。
「どうして狐はおれにうしろをふりかえるなっていったんだろう。よし、ふりかえってやれ」
クトフがうしろをふりかえると、赤いナナカマドの実がみえた。
「帰りに狐にあのナナカマドの実をとっていってやろう」
クトフはそう思って、またあるきだした。川のそばまでいって、桶の水を川に捨てようとしたときだ。狐がうしろからそっと忍びよって、クトフを水の中につきおとした。
こうしてクトフはおぼれ死んだのさ。
「なにやら明りをさえぎっているぞ。きっとおれの鼻にちがいない。えい、切り落としてやれ」
クトフはじぶんの鼻をちょんと切って、また縫いものにとりかかった。ところがまた明りをさえぎるやつがいる。
「また外が暗くなったわい。もしかすると、明りをさえぎっているのはおれの頬じゃないか? よし、頬を切り落としてやれ」
クトフはじぶんの頬を切り落とすと、また座って縫いものをはじめた。こうしてクトフはじぶんの顔じゅうをずたずたに切ってしまった。鼻に、頬に、唇に、眉毛に、まつ毛まで切り落としてしまった。そんなわけでクトフは顔じゅうひりひり、ずきずき、痛んだ。あんまり痛いのでうんうんうなりながら、ふと窓のほうを見ると、子ネズミたちがそりに乗って滑っているじゃないか。
「おまえたちだな、明りをさえぎるやつは。おまえたちのためにおれの顔はずたずただ」
クトフはそういうと、縫いかけのズボンを手にもって外に出た。そしてネズミたちのそばにいって、こういった。
「おれの家の窓の下で滑っているのはおまえたちだな」
ネズミたちが窓がまちの上によじのぼると、クトフはズボンを下に置いて、いった。
「ちびども、さあ、このズボンの中にとびおりな。この中にはいって滑ると、そりゃあいいあんばいなんだ」
するとネズミたちがいった。
「おまえのズボンの中になんか、とびおりるもんか。おいらたちをつかまえるつもりなんだろう」
クトフはそれでもあきらめずにやさしい声でなんどもネズミたちにとびおりるようにいって、とうとうネズミたちを説きふせた。ネズミたちはクトフのズボンの中にすっとん、すっとんととびおりた。ネズミたちがズボンの中にはいると、クトフはズボンをひもでしばって森へいった。森でちょうどいいあんばいの木をさがしまわってやっと見つけると、クトフはその木にむかって、こういった。
「木よ、木よ、頭をたれよ! 木よ、木よ、頭をたれよ! 木よ、木よ、頭をたれよ!」
すると木が頭をぴょこんとさげた。クトフは木のてっぺんにズボンをひっかけると、もう一度木にいった。
「木よ、木よ、頭をあげよ! 木よ、木よ、頭をあげよ! 木よ、木よ、頭をあげよ!」
木が頭をすっくともちあげると、クトフは家へ帰っていった。
ズボンの中のネズミたちは大きな声をはりあげてさわいだ。その声があんまり大きいものだから、狐が聞きつけて、声のするほうへやってきた。狐は木のそばにくると、
「ネズミさんたち、そんなところでなにをしているの」
ときいた。
「クトフがおいらたちをこんなところに吊るしたんだよ」
「そんな木のてっぺんなんかに、いったいどうやって吊るしたの」
「クトフが木よ、木よ、頭をたれよ、木よ、木よ、頭をたれよっていうとね、木がじぶんで頭をさげたんだよ」
狐がそのとおりにいうと、木が頭をぴょこんとさげた。狐はズボンをおろしてひもをとき、ネズミたちを外にひっぱりだしてやった。いちばん小さなネズミだけはくたばっていたが、他のネズミたちはみんな外にでてきた。
狐はネズミたちに、白樺の皮をはいできてズボンの中につめるようにいいつけた。ネズミたちは白樺の皮をはいできて、ズボンにつめた。そしてその上に死んだネズミをのせると、ズボンをもう一度木のてっぺんにかけた。
「クトフがなんていったら、木は頭をもちあげたの」
と狐がきくと、
「クトフは、木よ、木よ、頭をあげよ、木よ、木よ、頭をあげよ、木よ、木よ、頭をあげよっていったよ」
とネズミたちが教えた。
狐がそのとおりにいうと、木がすっくと頭をもちあげた。それからネズミたちは狐といっしょに狐の家にいった。狐はネズミたちに、木の実をとってきて、血のようにまっかな水をつくるようにいいつけた。
それから三日して、クトフはすっぱくなったネズミたちを木からおろしにやってきた。やってきて木に頭をさげるようにいうと、木はすぐにぴょこんと頭をさげた。
クトフはひもをとくと、脇にいって腰をおろした。そして目を細め、袖をまくりあげ、歯を研ぐと、おもむろにズボンの中に手をつっこんだ。そして手さぐりで子ネズミをつかむと、口の中にほうりこんで、食べてしまった。
「おお、なんてうまいんだろう! ふう!」
クトフはそういうと、またズボンの中に手をつっこんで、他のネズミをさがした。だけどネズミはもう一匹もいなくて、ズボンの中は白樺の皮ばかり。クトフはかんかんに怒って、考えた。
「こいつは盗人狐のしわざにちがいない。やつのところにいって、殺してやる」
クトフは狐の家へでかけていった。いってみると狐はわずらっていて、うんうん、うなっていた。
「おまえだろう、おれのすっぱいごちそうを盗んだやつは」
クトフがきくと、狐がいった。
「とんでもない、ぬれぎぬだわ。わたしはもう何日も寝こんでいるのよ。ごらんなさいな。まるで血のおしっこでしょう。なのにおまえさんったら、わたしが食べ物を盗んだなんて。おまえさん、いい人でしょう。この桶をもっていって、中のものを川に捨ててきてちょうだいな」
クトフは狐があわれになって、桶をもって捨てにいった。すると狐がうしろから声をかけた。
「うしろをふりかえらないようにね。ふりかえると困ったことになるんだから」
クトフはあるきながら考えた。
「どうして狐はおれにうしろをふりかえるなっていったんだろう。よし、ふりかえってやれ」
クトフがうしろをふりかえると、赤いナナカマドの実がみえた。
「帰りに狐にあのナナカマドの実をとっていってやろう」
クトフはそう思って、またあるきだした。川のそばまでいって、桶の水を川に捨てようとしたときだ。狐がうしろからそっと忍びよって、クトフを水の中につきおとした。
こうしてクトフはおぼれ死んだのさ。