一匹の亀が川原でひなたぼっこをしていた。大きな川の両側には森がどこまでも続いていた。亀は川原でこうらぼしをするのが大好きだった。
そこへ一匹の黒ひょうがやってきて、亀を見るなりいった。
「こりゃいい。ちょうど腹がへっているところだ。おれさまはついてるぜ。どれ、朝めしに亀を食うとするか」
亀は声のする方を見てびっくりしたが、逃(に)げるひまがない。じっとしていると、ひょうがちかづいてきてとびかかろうとした。そのとき、
「黒ひょうさん、あなたはおいしいたべものをまだごぞんじないようね。ごぞんじならわたしの肉を生で食べないはずだわ」
と亀はいった。
「おれはしょっちゅう生肉を食っているが、いつだってうまいぜ」
「あなたはお料理した肉を食べたことないの」
「あるもんか、どんな味だ」
「そりゃあ、とてもおいしいわ。肉は焼くとずっとおいしくなるのよ。だからわたしを食べるまえに焼いたほうがいいと思うわ」
「おれをだまそうたってだめだ。おまえのこんたんはわかっている。おれがたきぎを取りに行ってるあいだに逃げようってわけだ」
「ご心配無用よ。なんならわたしを木にくくりつけておけばいいじゃないの」
黒ひょうは、どうやら亀のいうことを信じたらしく、ひもを探すと川から離れたところにあった丸太に亀をしばった。川に近いと亀が流れにとびこんでどろんしてしまうと思った。それからひょうはたきぎを探しに森へはいっていった。亀はそのあいだに穴をほった。
まもなくひょうはたきぎをかかえて戻ってきた。
「じゃあ、わたしの体の上にそのたきぎを置いてください」
黒ひょうはいわれたとおりにしてから、火だねをつくり、たきぎに火をつけた。亀はすぐに穴の中にうずくまった。ひょうは穴のことには気がつかなかった。
「おい、亀よ」
としばらくして黒ひょうが声をかけた。
「はい、なんでしょう」
「まだ死なねえのか」
「まだよ。なんだか寒くて」
ひょうはたきぎをくべた。火はだんだん大きくなっていった。
「おい、亀よ」
「はい、なんでしょう」
「おまえ、まだ生きてんのか」
「はい、やっとすこし体がほかほかしてきたところ」
亀がいっこうに死なないので、黒ひょうはへんだなあと思いながらも、またたきぎをくべた。炎がぱあっとひろがった。
「おい、亀よ」
「はい、なんでしょう」
「あれ、まだ死なねえのか」
「まだよ。でもとても気持よくなってきたわ。もう寒くもないし」
そのうちたきぎがなくなって、火がきえた。やがて残り火も消えて、白い灰になった。その灰の中から、亀がのそのそと出てきた。灰をかぶった亀の背中は、なぜかきれいに見えた。
「おい、亀よ。おまえの背中すごくきれいだよ。おしろいつけたようだ。どうしたんだ」
「焼くとこうなるのよ」
「熱くなかったか」
「ちっとも……」
「おれを焼いたらどうなるかな。そんなふうに白くきれいになるか」
「もちろんよ。あなたはもともと美しい体をさずかっているんだもの。もっとすばらしくなるはずよ」
「じゃあ、おれを焼いてみてくれ」
「それじゃあ、まずたきぎを取ってきてくださいな。わたしにはできませんから」
「わかった。たきぎを探してくる」
ひょうが森にいっているあいだ、亀はひょうがすっぽりはいるくらいの大きくて深い穴をほった。
さて、ひょうはたきぎを五たばもかかえてもどってきた。
黒ひょうが穴の中にはいると、亀はたきぎをうずたかくつんで火をつけた。火はめらめらと燃えひろがり、空までとどくほどだった。
「黒ひょうさん」
「なんだ」
亀はたきぎをくべた。炎は高く高く舞(ま)いあがった。
「黒ひょうさん」
「な・ん・だ……」
亀はたきぎをくべながら、
「声がだいぶかすれてきたわ」
とつぶやいた。しばらくしてまた亀は声をかけた。
「黒ひょうさん」
「…………」
返事がない。炎はまだ空に燃えひろがっていた。もう死んだはずだわ、と亀は思った。
やがて火が消え、残り火も消えてしまうと、亀は灰の中からひょうの骨を探しだした。大きくて長い脚の骨だった。
「これで笛(ふえ)を作ったらきれいでしょうね。でも、わたしは自分で作れないし、だれにたのめばいいかしら」
亀はしばらく考えていたが、ふとカブト虫を思いだして探しに出かけた。
「亀さん、どこへいくんだい」
声をかけてきたのはカブト虫だった。
「あなたのところへいくところだったの」
「おれに用があるのかい」
「ひょうの骨で笛を作りたいの。でもわたし穴があけられないの。お願い、カブト虫さん、あけてくれない」
「きれいだね、それ。よし、穴をあけてやろう」
骨に穴があくと、笛らしくなった。亀は笛をふいてみた。
「じゃあ、わたしの体の上にそのたきぎを置いてください」
黒ひょうはいわれたとおりにしてから、火だねをつくり、たきぎに火をつけた。亀はすぐに穴の中にうずくまった。ひょうは穴のことには気がつかなかった。
「おい、亀よ」
としばらくして黒ひょうが声をかけた。
「はい、なんでしょう」
「まだ死なねえのか」
「まだよ。なんだか寒くて」
ひょうはたきぎをくべた。火はだんだん大きくなっていった。
「おい、亀よ」
「はい、なんでしょう」
「おまえ、まだ生きてんのか」
「はい、やっとすこし体がほかほかしてきたところ」
亀がいっこうに死なないので、黒ひょうはへんだなあと思いながらも、またたきぎをくべた。炎がぱあっとひろがった。
「おい、亀よ」
「はい、なんでしょう」
「あれ、まだ死なねえのか」
「まだよ。でもとても気持よくなってきたわ。もう寒くもないし」
そのうちたきぎがなくなって、火がきえた。やがて残り火も消えて、白い灰になった。その灰の中から、亀がのそのそと出てきた。灰をかぶった亀の背中は、なぜかきれいに見えた。
「おい、亀よ。おまえの背中すごくきれいだよ。おしろいつけたようだ。どうしたんだ」
「焼くとこうなるのよ」
「熱くなかったか」
「ちっとも……」
「おれを焼いたらどうなるかな。そんなふうに白くきれいになるか」
「もちろんよ。あなたはもともと美しい体をさずかっているんだもの。もっとすばらしくなるはずよ」
「じゃあ、おれを焼いてみてくれ」
「それじゃあ、まずたきぎを取ってきてくださいな。わたしにはできませんから」
「わかった。たきぎを探してくる」
ひょうが森にいっているあいだ、亀はひょうがすっぽりはいるくらいの大きくて深い穴をほった。
さて、ひょうはたきぎを五たばもかかえてもどってきた。
黒ひょうが穴の中にはいると、亀はたきぎをうずたかくつんで火をつけた。火はめらめらと燃えひろがり、空までとどくほどだった。
「黒ひょうさん」
「なんだ」
亀はたきぎをくべた。炎は高く高く舞(ま)いあがった。
「黒ひょうさん」
「な・ん・だ……」
亀はたきぎをくべながら、
「声がだいぶかすれてきたわ」
とつぶやいた。しばらくしてまた亀は声をかけた。
「黒ひょうさん」
「…………」
返事がない。炎はまだ空に燃えひろがっていた。もう死んだはずだわ、と亀は思った。
やがて火が消え、残り火も消えてしまうと、亀は灰の中からひょうの骨を探しだした。大きくて長い脚の骨だった。
「これで笛(ふえ)を作ったらきれいでしょうね。でも、わたしは自分で作れないし、だれにたのめばいいかしら」
亀はしばらく考えていたが、ふとカブト虫を思いだして探しに出かけた。
「亀さん、どこへいくんだい」
声をかけてきたのはカブト虫だった。
「あなたのところへいくところだったの」
「おれに用があるのかい」
「ひょうの骨で笛を作りたいの。でもわたし穴があけられないの。お願い、カブト虫さん、あけてくれない」
「きれいだね、それ。よし、穴をあけてやろう」
骨に穴があくと、笛らしくなった。亀は笛をふいてみた。
テオッ テトロ、テオッ テトロ
わたしの笛はひょうの骨
カブト虫さんがあけた穴
テオッ テトロ、テオッ テトロ
わたしの笛はひょうの骨
テレテッ ハウン。
わたしの笛はひょうの骨
カブト虫さんがあけた穴
テオッ テトロ、テオッ テトロ
わたしの笛はひょうの骨
テレテッ ハウン。
「わあ、亀さんは笛がうまいじゃないか。その笛もいいけど、模様を彫るときれいになるね。白アリにたのむといいよ」
カブト虫がそういったので、亀は白アリを探しにいった。白アリは笛の音をきいてちかづいてきた。
「いい音色だなあ。亀さんは笛をふくのがうまいよ」
「ちょうどよかった。白アリさんにお願いがあるの。カブト虫さんにひょうの骨に穴をあけてもらって、笛にしたんだけれど、この笛にきれいな模様をいれてくれない」
「よし、わかった」
白アリは、笛にそれはきれいな模様を彫った。亀はおおよろこびで、できあがった笛をふいてみた。
カブト虫がそういったので、亀は白アリを探しにいった。白アリは笛の音をきいてちかづいてきた。
「いい音色だなあ。亀さんは笛をふくのがうまいよ」
「ちょうどよかった。白アリさんにお願いがあるの。カブト虫さんにひょうの骨に穴をあけてもらって、笛にしたんだけれど、この笛にきれいな模様をいれてくれない」
「よし、わかった」
白アリは、笛にそれはきれいな模様を彫った。亀はおおよろこびで、できあがった笛をふいてみた。
テオッ テトロ、テオッ テトロ
わたしの笛はひょうの骨
カブト虫さんがあけた穴
白アリさんの彫った模様
テオッ テトロ、テオッ テトロ
わたしの笛はひょうの骨
テレテッ ハウン。
わたしの笛はひょうの骨
カブト虫さんがあけた穴
白アリさんの彫った模様
テオッ テトロ、テオッ テトロ
わたしの笛はひょうの骨
テレテッ ハウン。
こんなわけで、森のなかに、亀のふくきれいな笛の音がまいにち聞こえるようになった。
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