ある村にたいへん貧乏なバラモンの夫婦が住んでいた。何も食べる物がなくなったので、バラモンは友達のライオンを訪ねて森に行った。ライオンは、自分が殺した人間から奪った装身具や貴重品をバラモンに分けてやった。おかげでバラモン夫婦はしばらく無事に暮らすことができた。
そこでバラモンは、友達のライオンを自分の家に招いた。ライオンが訪ねてくると、バラモンの妻は、
「あんたの友達っていうのは、なんていやな奴なの! 臭くて臭くて、とても一緒に坐ってなんかいられないわ!」
と言った。それはライオンにも聞こえた。
ライオンは、外に出てバラモンと二人きりになると、バラモンに向かって、
「刀でおれの首に傷をつけてくれ」
と頼んだ。バラモンは、
「友達の首に傷などつけられるものか」
と断ったが、ライオンは、
「よし、それならお前を喰ってやる」
とおどかした。バラモンがしぶしぶライオンの首に傷をつけると、ライオンは黙って森へ帰って行った。
しばらくして、バラモンはまたライオンを訪ねた。ライオンはバラモンに自分の首を見せて、
「どうだい、傷はなおったかい?」
とたずねた。バラモンは、傷を調べて、
「ああ、すっかりなおっているよ」
と答えた。するとライオンが言った。
「たとえ首の傷はなおっても、お前のおかみさんの意地悪な言葉で受けた心の傷は、決してなおることはないだろうね」