その年、巨人のポールは、アストリアあたりで木こりをしていたそうだ。そこでの仕事を切り上げようとしていたある土曜の晩、丸太を組んだ二つの筏が、コロンビア川の浅瀬で行方不明になってしまった。それは、確か八月の始めだった。レイニアーという男が訪ねてきたのも、その頃だった。ポールとレイニアーが知り合ったのは、レイニアーが初めて西部へきた時だった。レイニアーは、その時自分の土地を登記しようとしていた。ポールのほうは彼のことをほとんど忘れていたが、レイニアーのほうはポールとの出会いをしっかりと覚えていた。今度はポールにお願いすることがあったものだから、レイニアーがわざわざ足を運んでやってきた。そして、レイニアーは、こういった。
「わしら、入江を掘ってるんだが、どうか手を貸してくれないか」
すると、ポールは答えた。
「よかろう。毎年今頃は木こりの仕事もひまになるからな。だけど、わしの本業じゃないが、いいかい」
実は、「ピュージェット建設会社」というのがあって、ピュージェットとレイニアー、それにフッドじいさんとエリオットという男たちが共同経営で、シアトル市と工事の契約を結んでいたのだ。市のために入江を掘って、港を作る計画だった。市とは二年間で工事を終える話になっていたが、すでに二十二ヵ月がたってしまっていた。だが、仕上げられる見通しもなかったので、ポールのところに助けを求めにきたのだった。というのも、レイニアーが以前ポールとポールの相棒である青いデカ牛に会ったことを話したので、ピュージェットが、
「社長のわしとしても、この際ポールに頼みたいもんだ」
といったからだった。
ところが、ポールが現場にきてみると、作業道具はみんないかれてしまって、使いものにならなかった。彼らがこんなもので土を掘ろうとしていたのがわかって、ポールはまったく不愉快になってしまった。そこでポールは、いつものようにしばらく考えこんだ。すると、いい知恵がわいてきた。そこで、彼は、こういった。
「そうだ。なぜもっと早く思いつかなかったんだろ。アラスカの氷山なら、湖だって、川だって、入江だって、谷だって、なんでも思いのままに造れるじゃないか。ひとっ走りいって、氷山を持ってこよう」
彼は青牛のベイブを連れてアラスカへいき、氷山の中から一番でかいやつを一つ引きずりあげて、こっちへ運んできた。そして、氷山で大地を切り開いて、入江を造り始めた。氷山の一角が溶けると、アラスカで何千年もの間にそうなったように、入江がひとりでにできていった。こうして、ポールはたいして時間をかけずに、「ピュージェット湾」を掘ってしまった。
それに、ある日のこと、ポールが大地を切り開いていると、デカ牛のベイブのやつが、学校の先生がさしていたピンクの傘に興奮してしまい、駆け出した。ポールはこの雄牛を止めようと必死にかかとに力を入れて、ふんばった。それでできたのが、「フッド運河」だ。ベイブは、何も興奮したり怖がることはなかったのだ。なぜなら、フッドじいさんの娘が教師で、学校から帰宅する途中だったのだ。だが、ベイブにとっては、初めて見た傘がピンクだったので、もう我慢できなくて走ってしまったのだ。