同じくG・A・メノフシチコーフがベーリング海に面したチャプリノ村で一九六〇年にアリガリクという四十歳の男性から記録した話です。
カヤックはエスキモー式のひとり乗りの舟、バイダーラは数人乗りの舟で、両者とも木の骨組みの上に海獣の皮を張ったものです。
アジア・エスキモーの神話ではシャチは人間を守護する強力な神として登場します。シャチはじぶんの国にいるときは人間の姿をし、人間と同じ生活を営んでいますが、人間の前に姿を見せるときには、舟乗りを乗せた舟の姿になるとされています。
シャチが群をなし、自分より体の大きい鯨に襲いかかることはよく知られています。傷ついた鯨がシャチからのがれ、浅瀬に打ちあげられて息絶えるといったできごとも、そうめずらしいことではありません。岸に打ちあげられた鯨は沿岸の住民にとって、まさに神からの贈物でした。鯨が一頭捕れると、一つの集落の住民が長い冬を越せるだけの食糧が確保できるのです。だから鯨を人間のもとに送りとどけてくれるシャチがありがたい神さまとしてあがめられたことはいうまでもありません。