この話はE・P・オルロワがM・ザーエフからティギリスク区ウトホロク村で記録したものです。
イテリメンは人口約千四百人(一九七九年)の少数民族で、ソ連邦最東端のカムチャトカ半島に居住し、川沿いに集落を作り、魚を取って暮らしてきました。
体の大きな魔物のケレや人食いに子ネズミや女の子たちがさらわれる昔話はチュコトカ半島やカムチャトカ半島ではよく知られています。イテリメンでは昔話の主人公はつねにワタリガラスのクトフで、この話でもやはりクトフが悪役をつとめています。木の枝を曲げたり、伸ばしたりできる、ふしぎな力をもちながら、狐の知恵にかんたんにひっかかってしまうクトフのこっけいさがこの話の魅力だといえましょう。
いつも縫いものをしているクトフの姿に、人間にはじめて服の縫いかたを教えた文化英雄としてのワタリガラスの一面をかいま見ることができるように思います。