この話も、江原道の原城で聞いた話です。語り手の李鎬泰さんは、村の語り手であったお父さんから百話以上の話を聴いて育ちましたが、お父さんがなくなって、その伝承は絶えてしまったということです。李さんはまだ若い語り手ですが、それでも四十話ほどのレパートリーがあります。
この話は日本やヨーロッパには類話のない話ですが、中国や朝鮮には化物譚として数多く伝承されています。ムカデと青大将が龍になる競争をするエピソードが中心に置かれていますが、本来は山の神と外来神との葛藤譚であると考えられます。
韓国では古くから各地で山の神が深く信仰されています。山の神は田畑や人々の生活を守る神ですが、男であるとも、女であるともいいます。この話は、女でありムカデである山の神と結ばれた男が彼女を助け、青大将の姿をした、男の外来神の挑戦を退け、そのお礼に田や富を手にいれる話と考えていいでしょう。
水を支配する神としての龍に対する信仰は中国や朝鮮に多くみられます。日本でも信濃の小泉小太郎の話をはじめ、多くの話が伝承されています。