この話は、韓国南部の全羅南道の莞島邑で崔采心さんから聞いた話です。崔さんは優れた記憶力の持ち主ですが、控え目な人で、自分一人が続けて何話も語るようなことはせず、隣の人が語り終わるのを待って、その話と関連する話を思い出しては語りだすというタイプの人です。ゆっくり時間をかけて聴けば、おそらく百話以上語れる語り手です。
三人兄弟譚は世界的に広く見られる形式で、韓国でも兄弟の交情や葛藤をテーマとした数多くの話が語られています。これには親族組織や財産分与制度などが影響しているものと思われます。長子相続の父系社会においては末子は財産をもらえず、時には兄たちに養われるという、従属的な地位に置かれていました。昔話の世界で末子が財産や、権力や、りっぱな嫁を手にいれるのは、そうした現実に対する末っ子の反逆なのかもしれません。
この話では謎掛けが前半では親子間で、後半では宿屋の主人との間でおこなわれているのが特徴です。前半は導入部にすぎませんが、これは宋時代の中国の古い文献『太平広記』の影響であろうと思われます。『太平広記』は高麗時代にすでに韓国に持ち込まれ、広く読まれていました。そこに見られる類話は、岳父と婿同士の問答形式をとっていて、姉の婿が勝つ話になっています。