トケビは日本の化け物や妖怪にあたる存在で、地方によってはトッケビ、トッカビ、トッチャビなどと呼ばれることもあります。
韓国にはトケビが登場する昔話がたくさんあります。「瘤取り爺」「何が怖い」「金の砧・銀の砧」などがその代表格です。トケビは世間話にもよく登場します。
昔話に登場するトケビはきわめて両義的な存在です。つまり、金銀のような財宝や幸せを人にもたらす神のような存在である一方、ごく簡単に人にだまされる愚かな存在でもあります。ちょうど神と人間との中間のようなもので、うまくトケビの機嫌をとりむすべば財産が手に入りますし、失敗すればひどい目にあいます。
しかしそのトケビも、世間話になると恐怖の対象となることが多いようです。火の玉(トケビ火)があがるとその家から死人が出る、トケビと相撲をとって負けたら死ぬなどといわれています。しかしトケビにも弱点があって、たとえば相撲をとるとき足をかけられると倒れるともいわれ、トケビに人間が負けることはまずありません。
ここに挙げた六つの話のうち、最初の二つはトケビと相撲をとる話です。その特徴は、トケビがきまった場所に現れること、酒を飲んだ人に現れること、相撲を挑んで負けること、その正体が古い箒や瓢箪であることなどです。おおばこの茎は農村では縄の代わりに用いられます。
その三は、いわゆる水のトケビの話で、沖縄のキジムナー話によく似ています。韓国では金という姓が一番多いので、相手の名前がわからない場合、金さんと呼べば当る確率が高いのです。また、扶安地方では昔から海辺のトケビは鱧(はも)とそば粉でこしらえたところてんが大好物だといわれています。
その四は火の玉の話で、これも日本の狐や火の玉の話にそっくりです。
その五のふしぎな音も、やはり日本の「あずきとぎ」や「やかんころばし」が出す奇怪な音や、天狗の仕業とされる、ふしぎな音とも共通しています。
その六は伝説として伝えられているトケビ話です。トケビが橋をつくる話は古くから文献(『三国遺事』など)にも伝えられており、そこには神的存在としてのトケビにたいする信仰の名残がみられます。トケビが村を守り、しかも共同墓地に関わることは注目すべき点でしょう。