孫佳迅(スンチアシユン)が、江蘇省灌雲で採集した話です。一九三〇年代に林蘭(リンラン)編として北新書局から、次々にだされた民話集の一つ『怪兄弟』に収められています。この話は、中国各地で広く語られており、雲南省に住むイ族の話は「王さまと九人の兄弟」という題で、日本でも絵本になっています。「陸でも海でも進む船」のように、ヨーロッパにも、千里眼、大食い、寒がりやなどが登場する話はありますが、中国の話は、特別の能力を分け持って活躍するのが実の兄弟である点に特色があります。
またこの江蘇省の話もそうですが、山西省で新中国成立後に採集された「万里の長城を洪水で押し流す」という、十人兄弟が秦の始皇帝と争う話も、簡潔でリズミカルな語り口で語られています。この軽快な語り口も、特に漢族におけるこの話の特徴と言えましょう。