これも、孫剣冰(スンチエンビン)が一九五四年秋に内モンゴル傅家〓堵村で秦地女(チンデイニユ)の話を記録したものです。この話は、中国でもっともポピュラーな話のひとつで、ここでは悪ぎつねが登場しますが、出てくる魔物によって、ふつう「トラばあさん」「オオカミばあさん」などと呼ばれています。
魔物から逃げ出した子どもたちが、木の上など高いところに逃げるのは、中国の話のほとんどに共通しています。しかし、その後に、日本の「天道さん金の鎖」や朝鮮の類話のように、天から綱を降ろしてもらって助かる話が続くこの話のような例は、中国にはほとんどありません。この話では、天の神さまではなくカササギに助けを求めていますが、七夕の晩に天の川に橋をかけて牽牛織女を会わせるという言い伝えがあることからわかるように、カササギは、身近で親しい鳥でした。カササギが火のついた小枝をくわえてきてきつねを墜死させるというのも、小枝を集めるというカササギの性質からの連想でしょう。
またこの話は、きつねの死体を運びだして終っていますが、死体から魔物の子が生れたり、蚊やハエが出てきたり、地面に埋めると白菜が生えて中から七人娘が生れたりというのもあります。
なお、三人の娘のうち、上の二人の名は、正確には、門の両脇に置いてある石の台と扉の回転軸ですが、日本語で読みやすいようにかえました。身近な道具などから名付けたこのような名前は、仮のもので、子どもが成長すると正式の名をつけましたが、女の子などは、この幼名だけですまされてしまいました。