これは、一九七九年に広西省三江良口で滾三妹(グンサンメイ)、石以林(シーイーリン)が記録したトン族の話を整理したものです。
トン族は、広西、貴州、湖南の省境の山岳地帯に住むタイ系農耕民です。しかし文化の面では居住地が近いミャオからの影響も多く、この話に登場するヤマンバもトンとミャオに共通の登場人物です。このヤマンバは病死した女が変わったものとも言われ、子どもをとって食う恐ろしい化け物ですが、またたいへんなまぬけとも考えられていたようです。
この話で、女の子がヤマンバの子と交換する銀の腕輪も短いひだのスカートも、トンに特有の服装ですし、ガチョウ飼いは、トンの子どもが最初に任される仕事です。このように、この話は、トンの人々の暮しをよく反映したものになっていますが、一方また、人食いの住家に迷いこんだ子どもが、人食いの子と服などを交換して逃走するというのは、ペローの「親指小僧」などとも共通します。世界的な類話の分布にも興味がもたれる話です。なお、ミャオには人食いトラが登場するそっくりな話があります。