なまけものが主人公の話はたくさんありますが、じっと動かないでいて果報者になるというのはあまり例のない話です。
これは、人びとの八割ちかくが回教徒のトルコの話ですが、黒海をへだてた隣のブルガリアにも、似たようななまけものの農夫の話があります。しかし、そちらの結末は悲劇的で、農夫は手痛いめにあうという教訓的要素をふくんでいます。一般にトルコの民話が求めるものは愛や財宝などが多く、ほとんどの場合、主人公はそれらを得て幸せになります。
この話は、バルカン諸国の民話研究家のニコライ・トドロフが、ブルガリアに住むトルコ人から採話したものです。
男は木を売ってその日のくらしをたてており、金貨はのどから手がでるほど欲しいのですが、それでも、自分の足もとにころがってくるまで待っています。他の神をみとめない、戒律のきびしいアッラーの神も、時には気まぐれに、なまけものにも幸運をもたらしますが、いつもそうとは限らないのが、また愉快です。