この話は中央アフリカ共和国に住むマルギ人の話です。
死の起源を語る話は、ここにあげたように、本来いつまでも生きられるはずだったのに、ちょっとした間違いやいきちがいで、死ななければならなくなるというものが多く、似たような話は世界中に分布しています。同じアフリカの例をひとつ挙げると、ナイジェリア東部のイボ人の話では、犬を使いに送りますが道草をくい、その間に意地悪なヒキガエルが神様のところにいって、人は生き返りたいとは思っていないと、うそを伝えてしまいます。その結果、人は生き返ることができなくなります。
このように使いに選ばれる動物は地域や民族によってさまざまですが、マルギのカメレオンとトカゲの例などは、彼らの自然観察のするどさをうかがわせます。日本のトカゲ同様、アフリカのトカゲも実にすばしっこく、壁でも天井でもところかまわず走り回ります。それに対してカメレオンのほうは極端に動作がのろく、まるで一歩一歩足もとを確かめながら歩くようだといいます。ナイジェリア南西部のヨルバ人は、そうしたカメレオンの歩き方に注目し、大地創造の神話の中で、出来たばかりの大地が十分に固まったかどうか確かめる役目を、カメレオンに与えているほどです。マルギの話は、このように対照的な二つの動物をうまく使ったものと言えましょう。