この話の面白さは、ほんのささいな出来事から思いもかけない方向に、どんどんストーリーが広がっていく点にあるといえましょう。一つ一つのエピソードは歌の形で表され、話が進むにつれてどんどん長くなっていきますが、その歌は同じ言葉の繰り返しのようでいながら、一つ一つに微妙な違いが見られるのが面白いですね。
これと同様の話には、ロシアの「大きなかぶ」やヨーロッパに広がっている「おばあさんと豚」などがあり、累積昔話と呼ばれています。ストーリーが途中で折り返し、同じ筋道を辿ってもう一度出発点に戻るところなどは、「おばあさんと豚」の話とほとんど変わりません。
ただ、この「宝貝」の話で特徴的なのは、折り返し点として王様が大きな役割を果たしていることでしょう。このような王様の役割は、ヨルバの伝統的な社会のあり方を反映したものと見られます。
ヨルバはナイジェリア南西部に住み、総人口は千五百万人(一九七三年推定)に達する大民族ですが、その社会はいくつもの王国に分かれ、王様は全知全能の神に等しい存在と見なされてきました。土地争いでも、夫婦げんかでも、物事がこじれてどうしようもなくなった時には、王様のところにいきさえすればいい、そうすれば、誰もが満足する形で解決してもらえる。ヨルバの人たちは、そんなふうに考えて何百年も生きてきたのです。そうした彼らの考え方が、この話にも表れているといえましょう。