砂漠でオアシスに出会ったような、という言い方がある。そこは純粋な砂漠ではなかったし、思いがけなく命が助かったわけでもなかった。だが空港から車で三十分余の間、ほとんど一木一草も見なかった。
そしていきなり緑したたる豊かな街路樹と咲き乱れる花々の都市だ。イラン南部の都市シラーズ。思わずわが目を疑った。街のすぐ外には、むき出しの岩山が連なっているのに。
旧王族の大庭園。精妙なアラベスク模様の典雅な館に、噴水と糸杉と赤白黄色に咲き乱れる一面の満開のバラ(五月だった)。この都市が生んだ大詩人ハーフィーズの墓所の前では、とりわけパンジーとケシの花壇が華やかだった。
公園の隅で大きな井戸のようなものをのぞいた。地下深く澄んだ水が流れていた。
「二十キロも離れた山地の雨水を、こうして引いてくるのです。空港からの途中に見えた土マンジュウの連なりの下が、その|地下水路《カレーズ》ですよ」と案内者が言った。「水の中に魚たちがいるでしょう。目がありません」。
広漠たる乾燥地帯の中に、地下水路の魚の目が退化するほどの年月をかけて(絶えず補修して)、人間の手でつくり出されたオアシス都市。すべての植物がここでは人工の賜物なのだ、と知ってその幻想的な美しさは、いっそうこの世のものならぬ陰影を増した。「そばに木があり花があり、水の音が聞こえるだけで、私たちは幸福なのです」
と街の人は言った。十年ほど前のことだ。
そしていきなり緑したたる豊かな街路樹と咲き乱れる花々の都市だ。イラン南部の都市シラーズ。思わずわが目を疑った。街のすぐ外には、むき出しの岩山が連なっているのに。
旧王族の大庭園。精妙なアラベスク模様の典雅な館に、噴水と糸杉と赤白黄色に咲き乱れる一面の満開のバラ(五月だった)。この都市が生んだ大詩人ハーフィーズの墓所の前では、とりわけパンジーとケシの花壇が華やかだった。
公園の隅で大きな井戸のようなものをのぞいた。地下深く澄んだ水が流れていた。
「二十キロも離れた山地の雨水を、こうして引いてくるのです。空港からの途中に見えた土マンジュウの連なりの下が、その|地下水路《カレーズ》ですよ」と案内者が言った。「水の中に魚たちがいるでしょう。目がありません」。
広漠たる乾燥地帯の中に、地下水路の魚の目が退化するほどの年月をかけて(絶えず補修して)、人間の手でつくり出されたオアシス都市。すべての植物がここでは人工の賜物なのだ、と知ってその幻想的な美しさは、いっそうこの世のものならぬ陰影を増した。「そばに木があり花があり、水の音が聞こえるだけで、私たちは幸福なのです」
と街の人は言った。十年ほど前のことだ。