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孤独のとなり26

时间: 2020-02-23    进入日语论坛
核心提示:生きる道は幾つでもある十一月十九日付の新聞に、一家九人の無理心中のニュースが出ていた。九人のうち二人は、六歳と一歳の子供
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生きる道は幾つでもある

十一月十九日付の新聞に、一家九人の無理心中のニュースが出ていた。九人のうち二人は、六歳と一歳の子供で、あとは二十一歳以上の大人である。七億円の借金を抱えていたそうだが、何と痛ましい事件であろう。無理心中といっても、大人たちは、この借金を抱えた父と、共に死のうとしていたのだから、むしろ同意の心中といっていい。
どんな事情があったにせよ、七人の大人がそろって死ぬ気になったというのは、考えてみると不思議なことだ。そのうちただの一人でも、心中を押しとどめることができなかったものか。
年々二万人もの自殺者が、わが国にはいると聞いている。人は自殺した人間に対して、
「死ぬ気でやれば、何でもできるはずだ」
と言いたくなる。が、人間は弱い者だ。ふだんそう言っている人でも、何かの時には死にたくなるものだ。私自身にも自殺をはかった経験がある。
このニュースのあった翌日、私は田原米子という人の生活を描いたテレビを見た。彼女は二十四年前、高校生の時新宿駅で飛びこみ自殺をはかった。幸い一命は取りとめたものの、両足と左手を失い、右手も指二本を失った。よくぞ命が助かったものと思われる。
が、二十四年経た今、彼女はどんなふうに生きているか。人はどう想像するだろう。暗い顔で、ひねくれた思いで生きていると思うだろうか。もし自分がそのような体になったと仮定した時、どのような想像をするであろう。
驚くべきことに、田原米子さんの表情は、明る過ぎるほどに明るかった。この世にあれほど明るい顔をした人は、ざらにはいない。
彼女は三本指の右手で、野菜を刻み、アイロンをかけ、ミシンを使う。決してふつうの主婦に負けることなく、すばらしい速度で、見事に家事をやってのける。
そればかりか、彼女は講演にも行く。そして、「生きるとは何か」「人生の目的は何か」を、人々に説くのだ。
彼女には二人の娘もいる。娘たちも明るく育って、今はアメリカに留学している。夫君はキリスト教の伝道者である。この夫君は、二十四年前、彼女が両足と片手を失った時、その病室を訪れて、忍耐強く励ましてくれた神学生であった。生きる望みを失った、うつろな彼女に、やがてキリストを信ずる信仰が芽生え、そしてそれが実った。その時から彼女は変わった。この彼女と、彼は結婚したのである。
体の不自由な者も、不自由でない者も、この透きとおるように明るい彼女に接する時、生きる力を与えられ、励まされる。彼女はテレビの中で、朝の祈りを次のように祈っていた。
「天にいらっしゃる真の御神、今日も新しい日をお与えくださいまして感謝いたします。今日はどなたから電話が来るか、どなたが訪ねておいでになるか、わかりませんけれども、知り合えることを感謝いたします。どうぞこの私を、御神の栄光のためにお使いくださいませ」
言葉はそのままではないが、要約すると以上のような祈りであった。
彼女は、毎日毎日、今日自分の前に現われる人に、明るく、愛をもって関わろうと待ちかまえて生きているのであった。その積極的な生き方に、私は心を打たれた。
そして思った。もし、田原米子さんがあのまま死んでいたら、今の田原米子さんはいないのだと。私もまた、三十年ほど前、オホーツクの海に果てようとした。もし果てていたら、私は一篇の小説も残さなかったことになる。私は今度で三十一冊目の本を出したが、私はその本を眺《なが》めながら、そう思ったことである。
今まで自殺していった人々が、もし今生きていたら、どんな人生を送っていたか。私はその人たちのもう一つの人生を想像してみる。
自殺する時、人はもう生きていても無意味だと思ってしまう。生きる喜びなど得られないと思ってしまう。生きる力など自分にはないと、思ってしまう。死ぬよりほかに道はないと思ってしまう。そして自らの命を断ってしまうのだ。
が、果たして、人間死ぬよりほかに道がないものなのだろうか。田原米子さんは、死ぬよりほかにないと思った状況より、更に悪い状況で生きねばならなかった。自殺しようとした時は五体満足であったが、助けられた時には、右手しか残っていなかった。それでも彼女の人生は、喜びに満ちた人生となった。そのことを思う時、
「死ぬよりほかに道がない」
などと考えるのは、いかに人間が傲慢《ごうまん》であるかということの証左である。道は幾つもある。生きようとする時、必ず道はひらけるのだ。
〈希望は失望に終わらない〉(新約聖書)
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