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海嶺118

时间: 2020-03-18    进入日语论坛
核心提示:三 岩松、音吉、久吉の三人は、他の男|奴隷《どれい》やインデアンの男たちにまじって、砂浜でロープを作っていた。海から吹く
(单词翻译:双击或拖选)
 岩松、音吉、久吉の三人は、他の男|奴隷《どれい》やインデアンの男たちにまじって、砂浜でロープを作っていた。海から吹く風が冷たい。太陽が雲の上にあって、時折《ときおり》白く雲を透かして見えるだけだ。
インデアンのロープの作り方はいろいろあった。海藻《かいそう》と杉の根をより合わせることもあれば、杉の枝でつくることもある。そして今岩松たちがしているように、鯨《くじら》の筋肉から作る方法もある。からからに乾いた鯨の筋肉を、小さな繊維にわける。それはちょうど亜麻《あま》の繊維のようであった。これをインデアンたちは、太股《ふともも》と掌でより合わせるのだ。すると繊維は先《ま》ず糸になる。そのより糸を丸く巻いていきながら、際限もなくより糸作りがつづけられる。そのより糸を太いロープに編んでいくのは、大変な作業だった。忍耐の要る、時間のかかる仕事だった。だがこうして作られるロープは、白人のロープよりも優れていた。
今、岩松たちは、そのより糸を作っていた。太股の皮が擦れて血が滲《にじ》んでいる。
「あーあ、いやんなってしまうな」
岩松を真ん中に、音吉と久吉はあぐらをかいて仕事をしていたが、久吉が大きな声で言った。この頃《ごろ》久吉は、いやな時ほど、大きな声を上げることにしている。そうすると少しは気が晴れるのだ。
「そうやなあ」
音吉は、右の股《もも》から左の股により糸を置き替えて言う。岩松は黙って、目を上げて海を見た。灰色の空の下に、海は鉛色《なまりいろ》に暗い。その所々に三角波が立っている。
「なあ、舵取《かじと》りさん。今日は正月の十五日やな」
「うん」
「ここには正月はないんやな」
喋《しやべ》りながらも、三人の手は他のインデアンたちの手より早く動く。とりわけ岩松と音吉は器用だった。だから少々話をしても、アー・ダンク以外は咎《とが》め立てはしない。
三人は、世界中どこにも正月はあると思っていた。だがこのあたりのマカハ族の一年は、六か月が単位であった。冬至の翌日が一年の始めで、夏至《げし》の翌日が、もう一つの年の始めであった。だが日本における門松《かどまつ》や、雑煮《ぞうに》を祝うような新年の行事は、ここにはないようであった。岩松たちは、言葉が通じないために知らなかったが、自分の年齢を正確に覚えている者は、ここにはほとんどいなかった。二歳以上になれば、もう親は正確に子供の年齢を記憶することができなかった。何年前の出来事という、その年数を数えることも困難であった。月は数字ではなく、呼び名であった。十二月は「カリフォルニヤの灰色の鯨《くじら》が出現する月」と呼ばれ、一月は「鯨が子を生む月」と呼ばれていた。三月は「長須鯨《ながすくじら》がやってくる月」であり、鯨に関する月が、一年のうち三回あった。が、そんなことも三人は知らない。
「なあ、舵取りさん。俺たちはどうも人間扱いではないな」
ちょっと何か考えていた久吉が、再び口をひらいた。
「まあそうやな」
岩松がかすかに笑った。
「残りもん食わされるのが、一番いやだでな」
音吉も言う。久吉が更に愚痴《ぐち》る。
「そうよ。食いかけの鯨《くじら》の肉や、子供の食い残しの薯《いも》を食わされるのは、情けないわ。犬猫扱いや」
その時、アー・ダンクが鞭《むち》をふり鳴らしながら、近づいて来た。三人は口をつぐんだ。アー・ダンクは三人の前に立つと、大声で何か言った。
「怠けるなよ!」
アー・ダンクはそう言ったのだ。が、三人の手は素早く動いている。アー・ダンクはややじっとその手もとをみつめていたが、鼻の先で笑って去って行った。鼻の先で笑うのは、それでも機嫌《きげん》のいい時なのだ。その去って行くうしろ姿を、久吉はぺろりと舌を出して見送った。岩松はちらりと頬《ほお》に受けたヘイ・アイブの唇《くちびる》の感触を思った。
(どうやらあの女|祈祷師《きとうし》は、まだ黙っているようだ)
あの日以来十日過ぎたと岩松は思う。岩松も音吉も、朝起きる度に、「今日は何日だ」と、口に出して言い合うのだ。書く物がない以上、自分の頭に刻みつけるより仕方がない。久吉だけが時折、何日かを忘れる。
「舵取《かじと》りさん。あの文を見て、ほんとに誰か助けに来てくれるやろか」
久吉は疑わしげに岩松を見た。
「そんなことはわからん。只《ただ》、俺は熱田の神さまに念じているだけだでな」
「俺なあ、舵取りさん。熱田の神さまは少し遠いと思うがなあ。船の中で、あんだけ祈ったんやで。だけど、十一人ばたばた死んでしもうたんやで。あれは、あんまり遠くて、日本の神さまに祈りが聞こえんかったのとちがうか」
岩松は黙って糸をよっている。他の家の者たちが、水を汲《く》みに行く。それぞれの家の前で薪《まき》を割っている。砂浜でロープを作っている。子供たちが家々から出たり入ったりして、愛らしい声を立てている。それは、のどかとも言うべき光景ではあった。
「そやけどな、久吉」
音吉が顔を上げて、
「船ん中には神棚《かみだな》も仏壇もあったんやで。船玉《ふなだま》さまもまつってあったんやで。すぐ傍《そば》に神さまはあったんやで。だから三人は助こうたのとちがうか」
「そうかな。だけど、ここはもう他国だでな。縄張《なわば》りがちがうでな。こっちに来たらこっちの神さまに頼まんといかんのやないか」
「ここには神さまはあるんやろか」
「神さまのない国はあらせんやろ」
「だけど、神棚も仏壇もあらせんな。みそぎもせんし」
「そうやな。けど、この間ピーコーが体洗ったんは、みそぎとちがうか」
「ちょっとちがうで。わしらは毎日みそぎをしたでな。ここに来てからは水|垢離《ごり》を取る暇もあらせんけどな」
話しながらも、より糸の玉は次第に大きくなっていく。音吉は船玉《ふなだま》のことを口に出そうか出すまいかと考えた。以前から、宝順丸の船玉を取り出したいと音吉は考えていたのだ。が、その機会はなかった。岩松や久吉は、疾《と》うに船玉は脱《ぬ》けてしまったと言っている。だがそれを、音吉は何としても確かめたいのだ。
(お琴の髪が祀《まつ》られてあるのや)
帆柱の下に埋めこまれた琴の髪に、手をふれたいと思う。あの黒髪をひと目見たいと思う。それは、矢も楯《たて》もたまらぬ気持ちなのだ。
「な、久吉。ほんとに船玉さまは脱けてしまったんやろか。調べて見たいな」
そうのどまで出るのだが、なかなか口に出せない。
その時だった。大きなカヌーが右手|彼方《かなた》ボデルダ島の蔭《かげ》から姿を現した。巧みに櫂《かい》を操りながら、カヌーはぐんぐん近づいて来る。カヌーからは太鼓の音が賑《にぎ》やかに聞こえて来る。インデアンたちは口々に何か叫びながら、カヌーのほうを指さした。だが三人には、何が始まるのか、わからなかった。いつのまにか大人や子供たちが家々から走り出て渚《なぎさ》に立った。
「何や!? 戦《いくさ》か?」
久吉も立ち上がった。
「船の一|隻《せき》や二隻で、戦になるわけもないやろ」
岩松は糸をよる手をとめずに笑った。
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