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海嶺125

时间: 2020-03-18    进入日语论坛
核心提示:三 朝から雨が激しく降っている。凄《すさ》まじかった雷鳴がようやく遠ざかったが、かえって雨の音が激しくなったような気がす
(单词翻译:双击或拖选)
 朝から雨が激しく降っている。凄《すさ》まじかった雷鳴がようやく遠ざかったが、かえって雨の音が激しくなったような気がする。が、家の中は活気づいていた。ピーコーの婚礼の日が、二、三日後に迫っているからだ。ヘイ・アイブは依然として戻《もど》っては来ない。一人アー・ダンクだけは奴隷《どれい》たちに鞭《むち》をふるうことも忘れたように、鬱々《うつうつ》としていた。今、ピーコーの兄ドウ・ダーク・テールは、嘴《はし》の長く突き出た鳥の面をかぶって、宴席での踊りの稽古《けいこ》をしていた。入り口の戸に描かれている雷の鳥によく似た面だ。その鳥の嘴が時折《ときおり》ひらいて、近づく子供たちの頭をぱくりと銜《くわ》える。その度に子供たちは声を上げてうしろへ引き退《さが》る。が、その口のあくのを見たさに、ドウ・ダーク・テールにつきまとう。
「獅子舞《ししまい》に似とるな」
久吉は、仕事の合間合間に、ドウ・ダーク・テールの体の動きを真似《まね》ながら、そう言った。音吉も同じことを思っていた。獅子がぱくりと口をあける。あの獅子舞の獅子に頭を噛《か》んでもらうと、その子は丈夫に育つと言われていた。ここでも同じことが言われているのだろうか。そう思いながらも、音吉の目は、踊っているドウ・ダーク・テールよりも、アー・ダンクのほうにいく。
「あの踊りは疲れるやろな」
久吉が敷物を織りながらのんきに言う。何日か前から織りかけた敷物なのだ。ピーコーの婚礼までに、何枚か仕上げねばならない。突如《とつじよ》、子供たちの大きな声がした。ドウ・ダーク・テールのかぶった面が大きく口をひらき、その中から更に、奇怪な顔が現れたからだ。面は二重になっていた。嘴《はし》は赤と青で彩られ、目のあたりを残して、あとは真っ黒だ。中から現れた人間とも動物ともつかぬ顔も、赤と黒で彩られている。
「へえー、おもろい仕掛けがしてあるわ」
久吉はそう言ったが、音吉の心は重かった。この間、ドウ・ダーク・テールの言った言葉が、胸から離れないのだ。
「コック・サフ」
あの時、ドウ・ダーク・テールは言った。ヘイ・アイブが、アー・ダンクに殴《なぐ》られた時だ。そして昨日も、岩松、音吉、久吉の三人に仕事を言いつけて家の外に誘い出し、ドウ・ダーク・テールは言った。しかし何を言ったのか三人にはよくわからない。ドウ・ダーク・テールは声をひそめ、早口で言った。その言葉の中に、アー・ダンク、ヘイ・アイブ、ピーコー等の名前が出て、またしても「コック・サフ」という言葉が三度も出た。「コック・サフ」と言う時、ドウ・ダーク・テールは、自分の首を手刀で斬《き》る真似《まね》をした。言葉の通じないことがもどかしかった。昨夜三人は、ドウ・ダーク・テールが何を言ったか、岩松の寝床で話し合った。
「殺す、殺す、としきりに言うていたで」
音吉は深い吐息を洩《も》らした。
「ほんとやろか。うそだといいがな」
久吉は情けなさそうに岩松を見た。岩松は黙って首をなでた。音吉がいった。
「ピーコー、ピーコーと言うてたな」
「そうやなあ。ピーコー、ピーコーか」
「まさか、ピーコーのめでたい席で殺すわけはないやろな」
「そんなことはあらせんわ。ピーコーが嫁に行ったあとと言うたんやないか」
「そうかも知れせんな。まさか、嫁に行く前に殺しはせんな」
「そうやな」
「どうする、舵取《かじと》りさん? そうなったら、今のうちに逃げ出さにゃあ」
岩松は黙ってまばたきをしたが、
「音、久公、逃げるんなら、客の来る日や」
と、きっぱりと言った。
「じゃ、ピーコーの嫁入りの日やな?」
「そうや、あちこちから、船に乗って来るわな。みんなピーコーの嫁入りに気を取られて、俺たちがどこにいるか、気がつかんようになるやろ」
「そうやな。船ん乗って逃げるんやな」
「そうや。海岸沿いに南に下るんや。あったかい所のほうが、しのぎやすいでな」
「なるほど、それはええ考えやな。そして、誰もいない海岸をみつけて、そこに三人で住むんやな」
「そうや」
「したら、舵取りさん、客がたてこんだ時、すぐに逃げられるようにせんならんな」
音吉が考え深げに言った。
「そうや。そっと、宝順丸のあたりに、食物だのヘイ・タイド(毛布)だのをかくしておくんや」
岩松の言葉に二人がうなずく。
「けどなあ、舵取《かじと》りさん。どこかに行く途中で、ほかの者にみつかって、つかまるかも知れせんで」
「なあに、船に乗ってりゃあ、この辺の人間だと思うわ。音だって、久だって、とても日本の者には見えせん」
岩松はかすかに笑った。
「だけど心配やなあ。な、音」
「心配しても、しようがあらせん。ここにいたら舵取りさんが殺される。三人で逃げるより、しようがあらせん。俺たち二人になって残ってみても……」
言葉を途切らせる音吉に久吉が言った。
「ほんとや。舵取りさんがおらんでは、生きていてもしようあらせんでな」
「俺ひとり逃げてもいいとは思う。だがな、残されたお前たちが、つらい目に遭《あ》っては、かなわんでな」
「何を言うんや舵取りさん。死ぬも生きるも、三人一緒や」
音吉は声を詰まらせた。
今、音吉は、昨日の相談を思い出しながら、言い様もない不安に襲われていた。逃げると決めて、かえって心が重くなったのだ。岩松の命ずるままに、さりげない素振《そぶ》りをよそおってはいるものの、内心気が気ではない。織る手もついとまり勝ちだ。
自分たち三人が、カヌーに乗って逃げて行く姿が目に浮かぶ。三人が逃げたと知っての酋長《しゆうちよう》たちの怒りが思いやられる。
(山から山に逃げたほうが安全かも知れせん)
(しかし……熊がいるというでな)
熊の咆哮《ほうこう》を、音吉は一度聞いた。
(熊に食われて死ぬのもいややな)
(三人で立ち向かったら、熊を退治できんかな。こりゃあ無茶やろな)
(俺たちは、ピーコーが嫁に行ってから殺されると思っているが、まさか、その前ではないやろな)
(いや、前ではあらせん。祝いごとに、血は不吉だでな)
思わず吐息が出る。
(ほんとに、何の因果で、わしらはこんな、せんでもええ苦労をするんかな)
そう思った時、雨の音が一層強くなった。
(けど、ドウ・ダーク・テールは親切やな。地獄で仏とはこのことや)
殺されると知らせてくれたのは、逃げよと教えてくれたことにちがいない。それなら、どこへどうして逃げて行ったらいいのか、聞かせて欲しい。
(言葉が通じんのは、何とつらいことや)
音吉は、今また首で踊りの身ぶりを真似《まね》ている久吉のほうを見た。
「何や? 音」
まじまじと自分をみつめている音吉に気づいて、久吉が言った。
「ええな、久吉は。踊りの真似ができるんやもな」
「何を言うとる。俺はな、舵取《かじと》りさんが言ったやろ。当たり前の顔をしてろとな。だから、必死になって真似てるのや」
「そうか。それは知らんかった」
「お前のように、青息吐息をついていたら、蝮《まむし》の奴《やつ》に悟られるでな」
久吉の言葉に、黙っていた岩松が、
「久公も偉いところがあるんやな」
と、微笑を見せた。
だが、三人は知らなかった。アー・ダンクが酋長《しゆうちよう》にしつこく願って、ピーコーの祝いの席で、岩松の首を刎《は》ねることになったことを。祝いは何日もつづく。その最後の日に、岩松の首は刎ねられるのだ。宴席で、マカハ族は、時に高価な品を、目茶苦茶にこわして、その上踏みつけて見せることがあった。奴隷《どれい》を殺すことも、品物を壊すことも、共に、こんな物は惜しくはないという示威《じい》であったのである。
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