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海嶺132

时间: 2020-03-18    进入日语论坛
核心提示:三 マクラフリン博士の長い祈りが終わると、岩松たち三人は、直ちに家の外につれて行かれた。案内してくれたのは、船長ではなく
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 マクラフリン博士の長い祈りが終わると、岩松たち三人は、直ちに家の外につれて行かれた。案内してくれたのは、船長ではなく、召し使いのインデアンであった。インデアンと言っても、杉の皮で織った衣を着ていた岬のインデアンとは全くちがう。服装や髪の形が、この国の人々と同じだからだ。二十二、三のその若者は、絶えず朗《ほが》らかに何か言っていた。が、三人は一語もわからなかった。三人は、小道を通って、砦《とりで》のすぐうしろの川に出た。川波が六月の日を眩《まぶ》しく弾《はじ》いている。先程《さきほど》の船着き場から三百メートル程|上手《かみて》の岸べであった。召し使いのインデアンは、手真似《てまね》で着物を脱ぐように言った。そして同じく手真似で、川の中に入るように言った。
「ハハア、川でみそぎをせよと言うことやな」
久吉が言い、三人は着物を脱いで川に足を入れた。召し使いの若者は三人の手に、それぞれ茶色の固く丸い石鹸《せつけん》を手渡した。何と言うものかわからなかったが、ラーマ号の中で、顔を洗う時に二、三度使ったことがあるので、おおよその見当がついた。三人が川に入ると、若者は自分自身を指さして、
「ダァ・カァ」
と言った。
「ああ、ダァ・カァか。お月さまやな」
なるほど、絶えず明るく喋《しやべ》りつづけるこの丸顔の若者は、満月に似ていると音吉は思った。
「ダァ・カァか」
久吉もうれしそうに言った。言葉のわからぬ地に来て、インデアン語を聞いたのだ。自分にもわかる言葉がここにもあったことがうれしくて、
「キュウ、イワ、オト」
と、久吉は先ず自分から始めて、岩松、音吉を指さした。ダァ・カァもうれしそうにうなずき、少量の水で石鹸《せつけん》を泡立《あわだ》て、全身にぬりたくることを教えてくれた。
やがて川から上がった三人に、大きなタオルが渡された。三人はそれが着物だと思い、腰にまとったり、肩にかけたりして、どのように着るのか、互いに相談した。ダァ・カァは、
「オー! ノウ」
と笑い出し、別に用意して来た籠《かご》の中から、先ず黒いシャツを手渡した。
「おう、これは襦袢《じゆばん》やな」
ラーマ号の船員たちが着ていたので、三人は迷わず袖《そで》に手を通した。次にズボンが与えられた。
「こっちの股引《ももひ》きは奇妙やな。だぶだぶやで」
背丈の高い岩松だけは恰好《かつこう》がついたが、久吉と音吉のズボンは、裾《すそ》が地に着いて引きずるほどだった。久吉と音吉は思わず笑った。笑いながら半分泣きたいような気がした。特に岩松の姿は異人そっくりで、もう日本人でなくなったような淋《さび》しさを感じさせた。宝順丸に乗りこんでいた時のちょん髷《まげ》の頭、そしてきりりとした股引《ももひ》きに、刺し子の半纏姿《はんてんすがた》は、惚《ほ》れ惚《ぼ》れするほどいなせであった。フラッタリー岬の服装には、まだ日本的なところがあった。三人は既《すで》にラーマ号の中で、髪の毛を他の船員たちのように短く切られていたから、異国の服装になると、どう見ても、もう日本人には見えなかった。だが、異国姿になって心のどこかに新たな覚悟ができたように音吉は思った。
「異国に来たら、何でも異国の習慣に従わんならんのやな」
そう口に出かかったが、口に出すと一層|淋《さび》しくなるように思われて、音吉はその言葉を呑《の》みこんだ。
三人は再び博士の家に、つれて行かれた。腕にぴったりとしたシャツの袖《そで》が、何か煩《わずら》わしいような気がした。脇《わき》の下のあたりが特に窮屈《きゆうくつ》でもあった。歩く度《たび》に脛《はぎ》の肌《はだ》を擦《す》るだぶだぶのズボンも、気持ちのいいものではなかった。履かされた靴《くつ》は尚《なお》のこと足になじまず、久吉は途中からその靴を手にぶら下げて歩いた。音吉はがふがふと音を立てる靴を引きずりながら、琴には見せられぬ姿だと思っていた。
川から戻《もど》った三人を見て、博士と船長は満足げに何か言った。多分、よく似合うとでも言っているのだろうと思いながら、三人はていねいに頭を下げた。岩松がしっかりとした声で、
「いろいろと、ご親切にありがとうさんです」
と言った。言葉は通ぜずとも、博士たちはわかったかのようにうなずいて、三人にソファをすすめた。三人が腰をおろすと、船長は数枚の白紙をテーブルの上に置いた。三人が日本人であることも、三人の名前も、既に船長は知っている。マクラフリン博士も、そのことを船長から今しがた聞いていた。が、今、博士は自分から三人に聞いて見たいことがたくさんあった。
「イワ、ハウ オールド アー ユー?(岩あなたは何歳ですか)」
博士はゆっくりと尋ねた。が、いくらゆっくりと聞かれても、その英語がわかる筈《はず》はない。三人は顔を見合わせた。と、博士は指を一本出して、「ワン」と言った。つづいて二本、三本と指を出しながら、
「……フォーア ファイブ シックス……テン」
と、十本の指を出した。そしてくり返し、
「ワン ツー スリー」
と指を立てていく。必死に耳を傾けていた三人は合点した。一のことをワンと言い、十をテンと言うのだとはすぐにわかった。つづいてマクラフリン博士は指を折りながら数を言い、コンテを取って紙の上に大きな円を書いた。そしてその中に、小さな円を、ワン、ツー、スリー、フォーアと言いながら再び十個書いた。次に音吉を指さし、
「ハウ オールド アー ユー?」
と言い、大きな円の外に四個の小さな円を書いた。更に両方の指をひらいて出し、それから四本の指を立てて見せた。
「わかった! 年を聞いているんや」
音吉は叫び、コンテを持って、大きな円の外に、小さな円を二つ書き加えた。
「オー! シックスティーン!(十六)」
博士は声を上げ、
「ハウ オールド アー ユー?」
と、今度は久吉を見た。久吉は音吉に真似《まね》て、小さな円を一つ書き足した。
「オー! セブンティーン」
満足げに博士は頬笑《ほほえ》み、同じ問いを岩松に発した。岩松はコンテで大きな円を三つ書いた。
「サーティ?(三十)」
船長と顔を見合わせて、博士が大きくうなずいた。
言葉のわからぬ者同士が話し合うことは、工夫《くふう》と忍耐と時間の要ることだった。博士は、三人の乗っていた船の絵を描くように、手真似《てまね》で言った。これも最初は、何を言われているのか、皆目《かいもく》わからなかった。博士は先《ま》ず紙の上に二本のマストを描き、「ラーマ」「ラーマ」と言ってから、次にマストのない船の絵を描いて岩松の前に置いた。
「きっと、宝順丸の絵を描けって言うんやな」
音吉は、岩松へとも久吉へともなく言った。
「なるほど、そうかも知れせんな」
言うや否や岩松はコンテを取って真ん中に帆柱を描き、大きく角帆《かくほ》を描き添え、外艫《そとども》を張り出し、艫櫓《ともやぐら》を描いた。開《かい》の口も、積み荷の様子も岩松は驚く程《ほど》見事に描いた。その確かな描写に、博士と船長は、感じ入ったように何か語り合っていたが、岩松は新しい紙に黙々と、同じ宝順丸の様を改めて描いた。そしてその宝順丸を穏やかな波の上に乗せた。つづいて山のような波を描き、そこに傾く宝順丸を再現し、黒雲を空に描き、稲光《いなびかり》を二条三条描き添えた。風の激しさを鋭い線で表現し、次の紙には積み荷を海の中に捨てる様子、更《さら》に帆柱を切り出す作業を順々に描いていった。博士たちは語ることをやめ、岩松の持つコンテの先から描き出される宝順丸の様子に、固唾《かたず》をのんだ。途中で、人が一人、また二人と死んで行き、遂にオゼット島に船が打ちつけられ、インデアンの奴隷《どれい》となるまでを岩松は描き、アー・ダンクが鞭《むち》をふるって殴《なぐ》りつける姿も描いた。博士と船長は、事の次第が実によく呑《の》みこめたようであった。
更に岩松は、最初に出帆した時の自分の年齢を、大きな円を二つ、小さな円八つで現し、音吉を指さして、大きな円と小さな円四つで現し、同様に久吉の出発時の年齢を図に描いた。
「おお! それでは、イワは二十八で国を出、それから一年以上も、こんなマストも帆もない、壊れた船で漂流してきたのか。一年何か月も……」
博士の目に涙が光った。博士は椅子《いす》から立って、三人の手を改めてしっかりと握った。三人は、博士の言葉はわからなかったが、岩松の絵によって、事情を推察してもらえたことを知った。
気がついた時、窓ガラス越しに美しい夕焼け空が見えた。フォート・バンクーバーの第一日が暮れようとしていた。
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