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海嶺135

时间: 2020-03-18    进入日语论坛
核心提示:六 その日の午後、岩松たちはトーマス・グリーンにつれられて、再び砦《とりで》の中に入って行った。昨日大勢に取り囲まれなが
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 その日の午後、岩松たちはトーマス・グリーンにつれられて、再び砦《とりで》の中に入って行った。昨日大勢に取り囲まれながら入った時には気づかなかったが、博士の家の前に見馴《みな》れぬものが二つある。
「あれ何や?」
音吉と久吉が同時に指さした。
「あれか」
岩松は立ちどまって、
「大砲《おおづつ》や」
と言った。
「大砲!? ほう……あれが大砲か」
話には聞いたことがある。が、大砲がこんな形をしているとは、久吉も音吉も知らなかった。
「物騒《ぶつそう》なものがあるんやなあ。これで誰を撃つんや」
音吉が言うと、久吉が言った。
「そりゃ、悪いことをした者を撃つにちがいあらせん。気いつけにゃなあ」
岩松が笑って、
「大砲《おおづつ》は戦《いくさ》の道具や。罪人を殺すためなら、縛《しば》り首でも、手打ちでも、方法は幾つでもあるわ」
「なるほど、それもそうやな。したら、ここに戦があるのか」
三人が語り合いながら大砲を見つめるのを、グリーンは微笑して眺《なが》めていた。
「大方ここは砦《とりで》やろ。日本の城のように、高く築いてもおらんし、がっしりしたものではないが、あの丸太塀《まるたべい》を高くつらねている所を見ると、いざという時、みんなこの中から、敵を撃つんやろ」
「ふーん。どんな奴《やつ》が戦をしかけてくるんやろな、舵取《かじと》りさん」
久吉は、今にも誰かが戦をしかけて来はしまいかというように、きょときょとしてみせた。
グリーンは、マクラフリン博士の家の玄関への階段を登りながら、
「カム オン カム オン」
と、三人を招いた。
「舵取りさん。旦那《だんな》が『かまわん』『かまわん』と言ってるで。かまわんから上がって来いと言うことやな」
音吉が笑って、
「久吉、あれは異国の言葉や」
「なんや、かまわんといっとるのとちがうんか。俺は昨日も『かまわん』と聞こえたがな。そう言えば、日本の言葉を知ってるわけはあらせんもな、なるほどな」
初めて気がついた久吉が、まじめな顔でうなずいた。
昨日通された応接室に三人はまた通された。博士は、昨日より一層|機嫌《きげん》のいい顔で、三人の手を順々に握りしめた。そしてグリーンと何か言って愉快そうに笑った。二人は、今朝のパジャマ事件を話し合って笑ったのだ。
「ミスター・グリーン。日本という国は、パジャマを着て外に出ても、非礼には当たらぬ国なのではないかな。その国その国によって、習慣も作法もちがうからねえ」
商船であちこち歩いている博士にとっては、パジャマ事件はそれほど驚くべきことではなかった。
「どうだね、昨夜はぐっすり眠ったかね」
マクラフリン博士は、首をソファの背にもたせて眠る真似《まね》をして見せた。岩松は察して、
「おかげさんで、よく眠りました」
と、手枕《てまくら》をして見せた。
「それはよかった」
博士はうなずき、グリーンに向かって言った。
「ミスター・グリーン。今日は特に君に頼んでおきたいことがある。実はだね、この三人に、わが大英帝国の思想や生き方を知らせてやりたいんだ。吾々《われわれ》が比類のない人類愛を持っていることも知らせてやりたいんだ。それで、より一層親切にしてやってほしい。と同時に、早速《さつそく》今日から、二時間ずつは英語を教えてほしい」
「博士、承知しました。私も、言葉の通じぬ三人を相手にして、ほとほと困っていたところです。妻のローズと共に、全力をあげて英語を教えましょう」
「それはありがたい。実はだね、ミスター・グリーン。私は最初、この三人をオアフ島(ハワイ諸島のひとつ)に送り届けようと思ったんだよ」
「なるほど、オアフ島まで行けば、ジャパンにはかなり近くなりますからね」
「そうだよ。あとはジャパン近海に行く捕鯨船《ほげいせん》に頼んでもいいと思ってね」
「博士、それは名案ですね。捕鯨船はジャパン近くまで行っていますからね」
「だがね、ミスター・グリーン。私はその案を取り止めにしたよ」
「取りやめた? 博士、それはまた何故《なぜ》です?」
グリーンは不審そうに、しかし控え目に問い返した。岩松たち三人は、博士が自分たちの運命に関わる最も重要なことについて語っているとも知らずに、二人の話す様子を見守っていた。いや、久吉だけは、見守るというより、部屋の中を珍しそうに眺《なが》めているといったほうがよかった。
「音、音」
ソファの真ん中に坐《すわ》っていた久吉が、音吉の脇腹《わきばら》を突ついた。
「何や、久吉?」
低い声で音吉が聞き返した。
「あれを見い」
久吉があごでしゃくるほうを音吉は見た。昨日は第一日目で、久吉も音吉も緊張していた。博士の質問に、岩松が次々と絵で答えていくのを見守っていた。それで気づかなかったのだが、部屋の片隅《かたすみ》に、鉄鍋《てつなべ》ほどの部厚い鉄の板で出来た、四角い箱があった。それには猫足のような鉄の足が、ついている。その下には同じく鉄の敷板が敷かれてある。そのすぐ傍《そば》の壁にも四角い鉄の板が貼《は》られている。よく見ると、一方に小さな開き口がある。傍《かたわ》らに薪《まき》が十本程置いてある。
「竈《かまど》やな。あの薪を焚《た》くんや」
「なるほど、そうやな。あの中で薪を焚くのかも知れんな」
二人は珍しそうに眺《なが》めた。薪は、日本でもフラッタリー岬でも、囲炉裏《いろり》か竈に投げこんで焚いていた。
「音吉、妙なものがついているで」
見馴《みな》れぬ丸い煙突を、久吉は指さした。
「あれは何やろ?」
「うーん……、あ、わかった。きっと煙出しや。煙が出るんや」
「へえー、煙がなあ、それはええわ。薪をくべれば、煙くてたまらんでな。だけどああやったら、けむらないで。この辺の人間は頭がいいんやな」
久吉は感心して言った。
「ほんとやなあ。煙が出ない証拠に、部屋も煤《すす》けとらんわ。煤もぶら下がっておらんし」
二人は、初めて見るストーブに、しきりに感じ入っていた。だが岩松は、マクラフリン博士とグリーンの話に耳を傾けていた。話がわかる筈《はず》はない。が、岩松は岩松なりに感じ取ろうとしていた。
「ミスター・グリーン。私はね。昨夜よくよく考えて見たんだ。むろん、一日も早くこの三人をジャパンに帰してやりたいと思う。だがジャパンと言う国は、鎖国をしているという話だ。僅《わず》かオランダの国だけが貿易をしているということだ」
「なるほど」
「鎖国政策を取っている国にだね。捕鯨船《ほげいせん》が近づけるか、どうかと、私は考えたのだよ。恐らくジャパン政府は、見馴《みな》れぬ異国の船を快くは受け入れまい。これはやはり考えねばならぬ」
「お言葉のとおりです、博士」
グリーンは深くうなずいた。
「では、どうすればいいか。最良の道をみつけてやるのが私の使命だと思う。私の知る限りでは、この三人は、わが大英帝国の勢力下に入った最初の日本人だと思う。言って見れば、この三人は客人だ。私はこの三人を友好的に扱うと共に、わが大英帝国の現状を正しく認識させる義務があると思う。イギリスという国が、どれほどに実力を持ち、どれほどに栄え、どれほどに進歩しているかを、日本に帰った時、この三人に語ってほしいと思うのだ。そして、できるならば、わが大英帝国とジャパンが友情によって結びつき、通商出来るようになるとしたら、これは望外の幸せではないか。彼らもまた、長い漂流が、故国のためになったとしたら、故国に帰って大手をふって歩くことができるだろう。……と言う訳でだね、この三人には極力言葉を教えてやってほしいと思う」
「わかりました博士、最善の努力をお約束いたします」
二人は握手した。その握手を、岩松は静かなまなざしでみつめていた。二人の表情に善意を感じ取ったからであった。
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