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海嶺154

时间: 2020-03-18    进入日语论坛
核心提示:     四 部屋は八畳ほどもあろうか。床に薄いマットを敷き、その上に岩吉たち三人は横たわっていた。闇の中に、三人はそれ
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     四
 部屋は八畳ほどもあろうか。床に薄いマットを敷き、その上に岩吉たち三人は横たわっていた。闇の中に、三人はそれぞれの思いを持って目をひらいていた。ここは牧師館の一室である。与えられた毛布は、不要なほどの暖かさだ。泊まって行くようにと三人に先《ま》ず勧めたのは、牧師夫人であった。
「いや、わしらはみんなの所に戻《もど》ります」
岩吉は辞退した。が、牧師夫人は、その澄んだ水色の目を、岩吉に真っすぐに注いで言った。
「いいえ、岩吉。あなたがたはイギリスの国のお客さまです。お客さまを砂浜に寝せては、申し訳がありませんわ」
ブラウン牧師も、同じことを言った。艦長も、
「遠慮せずに、お言葉に従うがよい」
と、勧めた。それで遂に三人は、この部屋に泊まることになったのだ。
(何べんも何べんも、おんなじことを聞かれてきた)
岩吉は、フラッタリー岬に漂着して以来、今日までのことを思い返していた。酋長《しゆうちよう》の前に、マクラフリン博士の前に、ミスター・グリーンの前に、艦長の前に、そして今夜ブラウン牧師夫妻の前に、自分は日本のことを絵に描いて示してきた。
(みんな同じことを聞きたがる)
不意に怒りのようなものが、岩吉の胸にうごめいた。自分たちが、只《ただ》珍しがられているようで、惨《みじ》めな気がした。何か見世物にでもされているような気がするのだ。絵がうまいとほめられたところで、それもまた、珍しがられていることの一つのようにしか、思えないのだ。
(誰も、俺たちのほんとうの気持ちがわからせん)
岩吉には、それが情けなかった。激しい望郷の思いに駆られていただけに、怒りにも似た思いが湧いたのだ。
が、その怒りが誰に向けてのものかと言えば、それは岩吉にもわからなかった。ブラウン牧師は柔和《にゆうわ》で礼儀正しかったし、その妻は深い尊敬の念をこめて対してくれた。そして共に親切であった。艦長も、艦内で話した時より、はるかに親身《しんみ》な言葉をかけてくれた。島の人たちも、決して不快な態度は取らなかった。だから、誰に怒りを向けようとしても、向ける相手はいない。いないだけに岩吉はやりどころのない思いがした。それは誰に対してと言うより、自分たちの置かれた立場に対する憤りかも知れなかった。
(もし日本に帰ったら、今度はお上《かみ》に、アメリカの様子を尋《たず》ねられるにちがいない。すると俺は、やっぱり絵に描いて説明するのだろうか)
岩吉は先程《さきほど》牧師たちの前で絵を描いていた時の自分を思った。言葉には表し難い思いを秘めて、自分は絵を描いて見せたのだ。千石船《せんごくぶね》の絵を描いた時、岩吉の胸に甦《よみがえ》った重右衛門や利七、勝五郎など、一人一人の面影は、決して絵には表し得なかった。故国懐かしさに胸の張り裂ける思いで自分は絵を描いていたのだ。が、そんな思いを誰も知らずに、絵の巧みさをほめていた。岩吉は今、怒りが次第に淋《さび》しさに変わっていくのを感じた。
「な、舵取《かじと》りさん」
音吉が、低い声で呼んだ。
「何や」
「いつものことやけど、日本のこと聞かれるのは、辛《つら》いな」
「何やお前も同じことを考えていたのか」
岩吉は音吉のほうに顔を向けた。
「じゃ、舵取《かじと》りさんも同じことを考えていたんか。何もかも、一度に思い出させられるでな。かなわんわ」
音吉が言うと、久吉も、
「ほんとや。思い出すのは辛いな。正直のところ、忘れていたいでな」
と、珍しく吐息をつく。潮騒《しおさい》の音が風に乗って聞こえてくる。窓ガラスが風に鳴った。
「久しぶりやなあ、陸にいて波の音を聞くのは」
音吉は、小野浦の家で聞いた波の音を思い浮かべた。
「全くや。家にいるみたいや」
久吉は言ったが、マットの上に起き上がって、
「なあ、舵取りさん。今日浜で言ったことな、あれほんとうか」
と、不安そうに尋《たず》ねた。
「ああ、イーグル号には二度と戻《もど》らんという話か」
「そうや。山に逃げるって、舵取りさん言ったわな」
「うん……」
「あの話を始めたばかりの時、急に番兵が近づいて来たわな。あれには驚いたな、な音。心臓がとまりそうやったな。頭から一ぺんに血が引いたような気がしたわ」
「あれで出鼻《でばな》をくじかれたか」
岩吉はかすかに笑った。
「くじかれたなあ。何せ、相手は鉄砲を持っているでな。山ん中に逃げたところで、こんな小さい島や。たちまち見つかるやないか、そう思うてな」
逃げるのに乗り気だった筈《はず》の音吉の言葉に、久吉は、
「何や、音、気が変わったんか」
と、安堵《あんど》したように言った。
「気が変わったんとはちがう。できたら、鯨獲《くじらと》りの船に乗って、このまま真っすぐ日本に帰りたいのは山々だ。父《と》っさまだって病気や。兄さもわしも死んだと思って、何んぼ淋《さび》しゅう思うているか……一日も早く帰って、喜ばせてやりたいわ。いつも言うことやけど、羽があったら飛んで帰りたいわ」
「じゃ、逃げ出すんか、音」
「いや、何や出鼻くじかれるとな、逃げるのは不吉《ふきつ》なような気がしてな。舵取《かじと》りさんはどう思う?」
「俺が一人なら、逃げる。俺が一人なら、何としてでも逃げおおせて見せる。万一失敗して死んだところで俺一人のことですむ。しかしなあ、お前らを死なすわけにいかんでな」
音吉と久吉は黙った。確かに、岩吉一人なら、どこかの捕鯨船《ほげいせん》にしのびこんで、日本の近くまで帰って行けそうな気がする。しかし三人では目立ち過ぎる。といって、岩吉に去られては生きて行く自信はない。
「すまんな、舵取《かじと》りさん。けどなあ、フラッタリー岬でも、逃げようとした時があったわな。その時に、思いもかけずに、助け船がやって来たやろ。今日もな、こうしてあの浜からこの家につれられて来た。何や、神さまが逃げたらあかんと言うてるような気がするんや」
音吉は言った。初め、岩吉から逃亡の計画を聞いた時は、直ちに賛成した。今から考えると、なぜ賛成したのか不思議なほどだ。二か月もすれば日本に帰れると聞いて、矢も楯《たて》もたまらなくなったのだ。だが、
(急がば廻《まわ》れ、と言う言葉もあるでな)
牧師夫妻の卓に向かいながら、音吉はそう思っていたのだ。
「けどなあ、音。考えてみたら、たった二か月で日本に帰れるんやで。それがイーグル号に戻《もど》ったら、ぐるーっとひとまわりして、一年もかかるんやで。なあ、舵取りさん」
先程《さきほど》は逃げることに不安を感じていた久吉だが、その風向きが変わった。
「そうや。一年と只《ただ》の二か月では大したちがいだでなあ」
岩吉にとって、このあとの一年は余りにも長過ぎた。年老いた養父母が哀れだった。夫岩吉を失ったと信じこんでいるであろう絹も、そしてその子岩太郎も哀れだった。その絹の顔に銀次の顔が重なってちらつく。
(あの野郎さえいなければ……)
岩吉は闇の中で口を歪めた。
「ほんとやな、二か月と一年では、ちがい過ぎるでな。そうだ、音。今ならお琴だって、まだ婿《むこ》を取っておらんかも知れせんで。けど、一年経ったら人のもんや」
「お琴のことは、もう諦《あきら》めとる」
音吉は呟《つぶや》くように言った。が、俄《にわか》に琴の顔がありありと目に浮かんだ。自分の墓に詣《もう》でて、自分のために泣いている琴の姿が目に浮かんだ。いやなことを久吉は言ってくれたと思う。
「何や、諦めたんか。そんなら俺、ひと足先に帰って、お琴を口説いてもええか」
久吉は冗談を言った。が、すぐに、
「とにかく、家に早う帰りたい。早う帰りたいなあ。今帰れば、二か月あとには、日本の桜も見られるんでえ」
「ほんとやなあ」
「あと一年も航海するのは、かなわんなあ。船の生活もきついでな。入れ墨した荒くれ男も、何や気味が悪いしな」
「そうやなあ。男が男に抱きついたりするの、身ぶるいするわ」
「そうや。身ぶるいするわ。それに嵐はあるし、もうわしはこりごりや」
「そうやな、久の言うとおりや。どうする舵取《かじと》りさん」
「…………」
岩吉は何か考えているようであった。久吉が言った。
「舵取《かじと》りさん。俺、何や逃げとうなった。逃げるんなら、今夜がええ機会やで。この家からなら、山は近いし、人目はないし、暖かいで山ん中にこもっても、凍《こご》えることはないし……」
「そうやな、久吉、木の実、草の実があれば、飢え死にすることもないやろし」
音吉も心を動かされた。
「そうか。逃げるか。しかしな、万々一の時には、命はないぜ」
「けど、うまく行けば、すぐに帰れるんや」
「よし! では、とにもかくにも、ひと先ず、俺が辺《あた》りの様子を見て来よう」
岩吉がむっくりと起き上がった。
「わしらも行くで、舵取りさん」
久吉があわてて立ち上がった。が、岩吉が、
「すぐに帰って来る。お前たちはじっとここに待っていろ」
と、押しとどめた。
「ほんとに帰ってくるか、舵取りさん」
「帰ってくる。辺りの様子を見てくるだけだでな」
岩吉はしのび足で部屋を出て行った。
「音、ほんとに舵取りさん帰ってくるやろか。一人で逃げるんとちがうやろか」
しばらく耳を澄ませていた久吉が言った。
「舵取りさんは、そんな人ではあらせん」
「そうはわしも思うけどな。何や心配だ」
久吉は立ったり坐《すわ》ったり、落ちつかなかった。
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