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海嶺170

时间: 2020-03-18    进入日语论坛
核心提示:七「とうとう今夜限りやな」ガス灯のまたたきはじめたロンドンの街を見おろしながら、音吉が久吉に言った。二人は今、イーグル号
(单词翻译:双击或拖选)
「とうとう今夜限りやな」
ガス灯のまたたきはじめたロンドンの街を見おろしながら、音吉が久吉に言った。
二人は今、イーグル号の見張り台の手すりに寄っていた。帆は全部たたまれていて見通しがきく。船着き場の傍《かたわ》らの大きな建物の時計は、今九時になろうとしていた。ロンドンの六月は日暮れが遅い。岩吉はマッカーデーの部屋で、ワインの馳走《ちそう》にあずかっているらしい。
「ロンドンって、凄《すご》い街やったな。でっかい建物ばかりや」
「そうやな。ロンドン・ブリッジには、橋の上に家が何軒もあったやろ。あれには驚いたなあ」
「そうやなあ。日本じゃ、橋の上に家があるなんて、思いもよらんことだでな」
「橋の下に、乞食《こじき》が莚《むしろ》を下げているという話は、故里《くに》で聞いたことあるけどな」
「ロンドンって、人も一杯やったな」
「女がきれいやったな、音。色が白うて」
「うん。けど、やっぱり女は日本のほうがきれいや。肌《はだ》がええ」
音吉は琴を思い出して、胸苦しかった。
「音、お琴を思い出しているのやな」
「…………」
「確かにお琴はかわいい娘《こ》や。今頃《いまごろ》、どうしているやろ」
「…………」
どこかに嫁いだかと思うと、諦《あきら》めていても淋《さび》しかった。
「音、故里の話はやめやな。今日見たうちで、どこの建物が一番やった」
「そうやな、やっぱりウエストミンスター・アベイや、セント・ポーロ・アベイが心に残っているわな」
「俺もや。乳房をむき出しにした女が、アベイの中にも彫られていたな。こっちでは裸の女を、平気で人目にさらしているんやな。ええ目の保養やったわ」
ドックの中でも、船はかすかに揺れる。船の揺れにつれて、街のガス灯もかすかに揺れて見える。夕闇《ゆうやみ》が濃くなるにつれて、ガス灯のまたたきが強くなった。
「宮殿の兵隊《ソルジヤー》にも驚いたわな。真っ赤な服を着て、大きな黒い熊の毛の帽子《キヤツプ》をかぶって。何でこの暑いのに、あんな大きなキャップをかぶるんやろ。頭がむれてしまわんのやろか」
「いきなり殴《なぐ》られても、痛くないようにや、きっと」
「しかし賑《にぎ》やかやったなあ。きれいな馬車がたくさん通っていてな」
「芝居小屋の前は、馬車がたくさんとめてあったわな。みんなきれいな着物きて、エゲレスって、金持ちやなあ」
「けどな、久吉。石の建物やから立派には見えたけど、貧乏人もいたで。どこの国にも、金持ちもいれば貧乏人もいるんやなあ。大通りを歩いている人だけ見てると、金持ちが多いけどな」
音吉は、つぎはぎの服を着た老人や子供たちの姿を何人も見かけたことを、思い出しながら言った。九歳になると、はや雇われて働いているとも聞いた。音吉の瞼《まぶた》に、ふと妹さとの子守り姿が浮かんだ。
「ま、そうやな。貧乏人のない国はあらせんわな。サムや親父や、船にいた連中も、みんな貧乏やったもな」
「うん、貧乏やった。自分の名前も書けんのが、たくさんいたでな。寺子屋にも行けせんかったのやな」
「名前が書けるだけ、わしらのほうがましやろかな、音」
先程《さきほど》まで啼《な》きながら空に舞っていたカモメの姿も、そしてカラスや雀《すずめ》も影をひそめた。薄く雲の張った切れ目に、星がきらめいている。あたたかい夜風が頬《ほお》をなでる。
「そうかも知れせん。字を習えただけな。けど、あんな立派なお城やチャーチをたくさん建てるのやから、やっぱり金持ちの国やと思うけどな。貧乏人をなくすことできせんのかなあ」
「まあ、できせんやろ。それはそうと、あれも珍しかったなあ。ほら、道がカーブしてたやろ。そしたら、家も道に沿ってカーブして建ててあったやろ。あんな真似《まね》、日本ではちょっとできせんな」
「できせん、できせん」
答えながら音吉は、ハドソン湾会社の、玄関の上の彫刻を不意に思い浮かべた。ハドソン湾会社は、セント・パウロ寺院やイングランド銀行の近くにあった。あのフォート・バンクーバーを築いたハドソン湾会社とは思えぬ程に、小ぢんまりとした会社だった。だが三階建ての建物には風格があった。玄関の上の壁には二頭の鹿が、後肢立《あとあしだ》ちになって向かい合った見事な彫刻が見られた。この二頭の鹿の間に、十字が彫られてあった。その時の驚きを音吉は今思い出した。
(キリシタンやから親切なのやろか)
小ぢんまりと見えた会社の地下には、無数の毛皮が、山積みにされてあった。その山が幾つも部屋一杯に並んでい、しかもそうした部屋が幾つもあった。
「凄《すご》いなあ! 大変な財産や」
久吉が言った。毛皮は高いと聞いていた。鹿、熊、狐、ビーバー、アザラシ、オットセイ等々の毛皮の山に、音吉たちは改めてハドソン湾会社の底力《そこぢから》を感じ取った。
建物の中にはビーバーの彫刻もあって、ここをビーバー・ハウスともいうのだと、マッカーデーは教えてくれた。世界の毛皮をおさえているというこのハドソン湾会社で、音吉たちは夕食を馳走《ちそう》になった。昼食はパブ(酒場)に入って、ハムやパンを馳走されたが、夕食のビフテキやスープは、未《いま》だかつて味わったことのない、すばらしい味であった。
「うまかったなあ、久吉」
「夕飯か? あの厚い牛肉のステーキな」
「うん……何だか俺たちも、日本人でなくなったような気がしたな」
「肉がうまくてか」
「そうや。初めて食った時は、仏罰や神罰が当たらせんかと、ようのども通らんかった。それが今では、思い出しても舌なめずりするだでな。とうとう四《よ》つ足《あし》食いになってしもうた。バターもチーズもうまくなってしもうたし」
「そうやな、音。今夜のデザートのケーキもうまかったな。けど、やっぱり、日本のあん物がうまいな。大福や饅頭《まんじゆう》がうまいわ」
「久吉、それはそうと、あの会社もキリシタンやな。キリシタンて、悪いもんやないような気がするな」
「悪い信心なんてあらせん。けどな、日本では悪いことになっているんや。悪いから信じてはいかんとな。とにかく折角《せつかく》帰っても、縛《しば》り首になったら大変だでな。信じたらあかんで」
「絶対信じやせん。けどなあ」
音吉はすっかり暗くなった空に目をやって、
「エゲレスは、万事日本より進んでいるわなあ。スチームで走る船や、トレインがあるし、石造りの焼けせん家もあるし、ステンド・グラスもあるし。その国の人が信じているんやから、でたらめな神さんとは思えんけどなあ。ほんとにその神さんがいるんなら、お礼のひとつも言わにゃ、それこそ大変な失礼やしな」
「それもそうやなあ。けど、わしらは日本人や。キリシタンの神さんに手を合わせたら、縛り首になるで勘弁ねがいます、と心でお詫《わ》びしたら、まあ仕方あらせんわと、許してくれるのとちがうか」
「そうやな。事情が事情やからなあ。けど、もし日本でご禁制でなければ、信じたい気もするわな。命を助けた上に、うまい肉や、ケーキを食わせてくれてな、そして遠い日本まで自前で送ってくれるんや。出来んことやで。殺されたって仕方あらせんのやで。お前たち遠い日本の国の者だでなあ、帰せん言われたって、仕方あらせんのや。これがもし日本に、エゲレス人が流れて来たら、こんなに親切に扱うやろか。わざわざ高い銭を出して、本国まで送り帰してやるやろか」
ガス灯の光のまたたくロンドンの街を見渡しながら、二人はいつまでも語りつづけた。
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