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海嶺175

时间: 2020-03-19    进入日语论坛
核心提示:奴隷《どれい》海岸一 ゼネラル・パーマー号は今、アフリカ大陸とベルデ岬諸島との間を通過したところであった。左手前方に、小
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奴隷《どれい》海岸

 ゼネラル・パーマー号は今、アフリカ大陸とベルデ岬諸島との間を通過したところであった。左手前方に、小さな島が現れた。アフリカ大陸から、どれほども離れてはいない。ふと見るとフェニホフ牧師が、その島のほうをじっと見つめている。その身辺に何かはりつめたものを音吉は感じた。と、フェニホフ牧師は指を組み、首を垂れて何か祈りはじめた。
「何を祈ってるんやろ、音」
先程《さきほど》まで暑い暑いと言っていた久吉が言った。
「ほんとうに、何を祈っているのでしょう」
背後で、不意に船長夫人ルイスの声がした。船長夫人のうしろには、数人の船客たちが、船旅に潮焼けした顔を見せて立っていた。
「牧師は祈るのがしょうばいさ。旅路の平安を祈ってるんだよ」
パイプを銜《くわ》えた赤ら顔の男が言うと、他の男が、
「いや、妻子のために祈ってるのかも知れませんよ」
「船旅の平安を祈ったり、家族の平安を祈ったりするのなら、わたしたちと変わりませんねえ」
いつも反《そ》り身になって歩く背の高い男が、幾分皮肉に言った。
「じゃ、何を祈るというのかね」
赤ら顔が尊大な態度で言った。
「それはわかりませんがね、吾々《われわれ》俗人とはちがうことを祈っていますよ」
反り身の男が昂然《こうぜん》と答えた。と、小肥《こぶと》りの汗っかきの男が、ハンカチで額を拭きながら、
「じゃ、賭《か》けようじゃありませんか。タバコ一箱だ。牧師は旅路か妻子の平安を祈っている。あるいは全く別のことを祈っている。このどっちかに賭けましょう」
男たちは誰もが賭け事を好んだ。特に船旅の退屈を凌《しの》ぐために、何かと言えば賭けをした。トランプやチェスの勝負にも賭けたが、明日の天気や、些細《ささい》なことにも賭けてひと時を楽しんだ。
「よろしい。わしは思いもよらぬことを祈っているほうに賭けよう」
反り身の男が言い、他の男たちは反対のほうに賭けた。
フェニホフ牧師の祈りが終わるのを待って、男たちはルイスを先に立て牧師に近づいて行った。久吉も音吉の肩を突ついた。音吉は、
「舵取《かじと》りさんも行こう」
と、岩吉を誘った。岩吉はむっつりと口をつぐんでいたが、何を考えたのか、それでも音吉と一緒に牧師の傍に近づいた。ロンドンを出てから今まで、フェニホフ牧師が一人|甲板《かんぱん》に祈る姿を、誰も見たことがなかった。それだけに、心が惹《ひ》かれたのかも知れない。
「フェニホフ先生、何をお祈りになっていらしたの」
ルイスが無邪気に尋ねた。フェニホフ牧師は、自分をぐるりと取り囲んだ人々の顔を見つめていたが、
「あの島が、有名なゴレ島です」
と、島を指さした。
「おう!」
男たちも、ルイスも共に声を上げた。近づいて来る島は、低いなだらかな丘のある、何の変てつもない島だ。
「何か珍しいものがあるんですか」
音吉が尋《たず》ねた。
「珍しいもの……」
フェニホフ牧師は、音吉たちに語る時のゆっくりとした語調で言った。
「あそこは……恐ろしい島です」
「恐ろしい島? 幽霊でも出るんですか」
恐ろしいと聞いて久吉が身を乗り出した。
「幽霊よりも恐ろしい、有名な奴隷《どれい》貿易の島です。十七世紀の初めから、あの小さな島で、たくさんの血が流されました」
牧師は吐息をついた。
岩吉たち三人は、むろんゴレ島の名も歴史も知らなかった。が、この長さ九百メートル幅三百メートル程《ほど》のゴレ島はアフリカ西海岸への進出を目指すオランダ、イギリス、フランス等の諸国が血で血を洗う争いを繰り返してきた島である。ゴレ島は小さくはあったが、海賊の跳梁《ちようりよう》する大西洋航路の安全を期するためには重要な地点であったし、アフリカの諸国に武力を行使するためには、大きな拠点となる島であった。この島が発見されたのは一四四四年で、ポルトガル人によってであった。が、一六一七年にこの島をオランダ人が所領とし、ゴレ島と命名した。オランダ人は、この島に二つの要塞《ようさい》を築き、アフリカ本土への足がかりとした。一六六三年代わってイギリスがこの島を手中にし、更《さら》に翌年にはオランダが奪還《だつかん》し、三年後にはフランスが占領した。その後更にイギリスとフランスがこの島をめぐって、幾度か争ったが、遂に一八〇二年和約し、フランス領となった。この島には、アフリカで奴隷《どれい》狩りによって捕らえられた黒人たちが押しこめられ、ここから世界の各地に売られて行った。海に向かって、奴隷収容所の入り口が無気味にひらかれている。奴隷たちはそこに吸いこまれ、吐き出されて行ったのである。一四〇〇年代から一八〇〇年代まで、約四百年間、ゴレ島は奴隷貿易の島として名を馳《は》せた。ヨーロッパ及び南北大陸に売られたアフリカ人の数は、千三百万人とも、千五百万人とも、または三千万人ともいわれている。奴隷売買の商人たちはアラビア人と西ヨーロッパ人が多かった。だが、アフリカ人自身、隣接の村落を襲撃し、奴隷狩りに加わった。更には酋長《しゆうちよう》自身、己《おの》が財産を増すために、同族を売ることも珍しくはなかった。こうした事実を、フェニホフ牧師は明確に知っていた。
「では、フェニホフ先生は、売られた奴隷のために祈っておられましたの?」
尋《たず》ねたルイスに、牧師は言った。
「そうです。そして吾々《われわれ》白人の罪をざんげしていました」
牧師はそれだけ言って、静かに一人船倉に降りて行った。
「やっぱりわしの勝ちだ。皆さんからタバコを一箱ずついただきますよ」
差し出した手に、二人の男がタバコをのせた。いかにもいまいましそうであった。が若い男がタバコを渡しながら言った。
「せめてタバコの一箱ぐらいは罪ほろぼしに出しませんとね。ゴレ島の前を通れませんよ」
ゴレ島は、音吉には船のような形に見えた。
「今、何と言いました?」
赤ら顔の男が聞き咎《とが》めて言った。巨万の富を持つというイギリス商人である。
「は? わたしが何かお気にさわるようなことを言いましたか」
「今、あんたは確か罪ほろぼしと言いましたな。罪ほろぼしとは何ですか。牧師のざんげはさておくとして、あんたのような考えの連中がいるんで困るんだ。イギリスじゃとうとう奴隷《どれい》制度廃止になってしまったじゃないですか」
「なるほど。あなたは大金持ちでしたね。大金持ちはみんなたくさんの奴隷を持っていた。まことにお気の毒さまでした」
若い男がにやにやした。
「何がおかしいのかね。わしは、王室の名によってなされたことだから、しぶしぶとでも従ったわけだがね。あんな法律を作った議員共は、どいつもこいつもロンドン塔にぶちこんでやりたいほどだ」
「おや、ジェントルマンらしくないことを」
「だってそうじゃないのかね。吾々《われわれ》は長いこと奴隷《どれい》を使ってきた。金を出して買って来たものだよ、君。奴隷はいわばわしらの財産だ」
「そうとも、そうとも。第一、奴隷制度は、ジーザス・クライストが生まれる前からあった制度ですからな。世界中で奴隷制度のなかった国はありますまい」
他の一人が、赤ら顔の肩を持って言った。が、若い男が言った。
「はーて、人間が、人間を買ったり売ったりしてもいいんでしょうかねえ」
「人間が人間を売買することは、むろん悪いことだよ。だがね、君。奴隷はありゃあ物だよ。道具だよ。アリストテレスが、奴隷を何と言ったか知ってるかね。『命ある道具』と言ったんだ。『声を出す道具』と言った偉い人もいる」
若い男は肩をすくめ、両手をひろげて頭を横にふった。話にならないという仕ぐさである。他の男が言った。
「奴隷はね、君。吾々《われわれ》白人社会の幸福のためには必要なんですよ。安い労働力であったからこそ、白人社会は繁栄したんです。イギリスばかりじゃない。フランス、イタリア、スペイン、オランダ……どれほど多くの国が奴隷を使ったために繁栄したか。奴隷《どれい》のいない国がありますかね」
「じゃ、奴隷個人の幸せはどうなるんです」
「奴隷個人の幸せ? 君、冗談を言っちゃいけないよ。わしらは牛や羊の幸せを思って、それらの肉を食っちゃいけないというのかね」
「驚きましたねえ。人間を牛や羊と一つにするとはねえ。あなたがたはとんだベニスの商人ですよ」
「君! 失礼なことを言うな! わしはあれほど強欲《ごうよく》じゃない」
赤ら顔の大声に、人々が寄ってきた。
「そうでしょうとも。あなたはちっとも強欲じゃない」
若い男は皮肉な笑いを浮かべ、
「確かに強欲でもなければ冷酷でもない。世間の人々から富める商人だと尊敬されている。奴隷たちが、奴隷市場で壇の上に立たされ、買い手から値ぶみされている。そんなことにもあなたの心臓は少しも痛まない。実に丈夫な心臓だ。あなたの人生の唯一の意義は、金を貯めることですね。脱帽しますよ、ああ、脱帽する帽子が百も欲しいところです」
「君! 金を儲《もう》けるのが商人の使命だよ。金を儲けて何が悪いのかね。人生|万事《ばんじ》金だ。金があれば女の体どころか心さえ買うこともできるんだ」
「なるほど。わたしは知らなかった。神以外に全能の存在があったとはね。あなたの神は黄金ですか」
赤ら顔が言葉に詰まった。若い男がつづけて言った。
「大変な信心深さだ。わたしはね、人間には金で買っちゃいけないものがあると思っていた。人間の心もその一つだし、奴隷《どれい》はいうまでもない」
「こりゃあ驚いた。ジーザス・クライストも涙をこぼすようなお説教だ。ありがたいお説教だ。諸君この若僧は、どうやら牧師の才がありそうだ。自分の手で金を儲けたこともない親のすねかじりには、奴隷がどれほど吾々の世界に必要なものか、わかるわけがない」
「わからなくて幸いだ。とにかくわが大英帝国には、あんたの考えより、わたしと同じ考えの人が多かったことを、奴隷制度廃止は物語っているということですよ」
「何いっ!」
赤ら顔がますます赤くなって拳《こぶし》をふるわせた。と、それまで黙って、なりゆきを見ていたルイスが言った。
「わたくし、論争する時の殿方《とのがた》ほど、緊張に満ちていて、魅力的なものはないと思いますわ」
朗《ほが》らかな声に男たちは不意に気勢を殺《そ》がれた。
「胸のわくわくするような、すてきな時間でしたわ。まさか、この海の上で、あのゴレ島を眺《なが》めながら、こんな迫力に満ちたドラマを見れるとは、夢にも思いませんでしたわ。一体どなたの演出だったのでしょう。これは」
いつもの明るい語調だった。どうなることかと先を楽しんで見ていた船客たちが拍手をした。赤ら顔が、あごひげをしごきながら、
「まだせりふが一つ残っている。こいつを言わなきゃ、まだドラマは終わりませぬ、吾《われ》らの女神《めがみ》よ」
と言い、若い男を睨《にら》みつけ、大仰《おおぎよう》に言った。
「やい若僧、この船にハイド・パークがなかったことを感謝するんだな」
ハイド・パークはしばしば決闘に使われたロンドン市中にある公園である。
「ああ感謝しよう。あんたの拝む神、光|眩《まばゆ》い黄金にね」
若者は肩をそびやかした。ルイスが再び言った。
「上出来の一幕ですね。できたらアンコールをかけたいところですけど、時間がなくて残念。そろそろ夕食の仕度《したく》をしなければなりませんものね」
再び拍手《はくしゆ》が起こり、人垣がくずれた。
「何やつまらん。殴《なぐ》り合いにでもなるかと思うたのに、言い合いだけか」
久吉ががっかりしたように言った。
「阿呆《あほ》なことを言うな。船ん中で怪我人《けがにん》ができたらことや」
「けど、日本なら、あれだけ言い合わんうちに、すぐにカーッとなって、ぽかぽかっと、拳骨《げんこつ》が飛ぶわな」
「ま、そうやな。殴り合うかと思うと静まり、もっと大声を出すかと思うたら静まり、あれはちょっとわしらにはできん芸当やな」
「音、一体どっちが悪かったんや。あんまり早口でわからせんかった」
「わしにもようわからんけど、スレーブ(奴隷《どれい》)を売ったり買ったりすることは悪いことだと、あの若者が言うたんや。したら相手が、何が悪いと言うたんや」
「スレーブいうたら、フラッタリー岬で、わしらもスレーブやったもなあ。アー・ダンクに鞭《むち》で殴られたわな。牛や馬みたいに」
「そうやなあ、牛や馬みたいになあ。けど、わしらよりもっとひどい目に遭《あ》わされるスレーブもいるんやなあ。親子兄弟ばらばらに買われるのやら……」
「いややなあ」
「いやや、いやや」
「けどな音、わしらインデアンのスレーブやったのを、ドクター・マクラフリンが買い取ってくれたやろ。けど、わしらをスレーブにはせんかったな。そして、こうして高い金を出して、日本に戻《もど》してくれるわな。その同じ国で、スレーブがいた。わからんな」
「ほんとやなあ。なあ、久吉、いつかの日曜日、パーソン(牧師)が説教したやろ。人間は誰も同じやって。したら、みんなうなずいていたわな。けど、スレーブは、同じ人間ではないって言うたわな。あの顔の赤い男がな。そしてそれに賛成してるのが何人かいたわな。わからんなあ」
「ほんとにわからんな。同じ人間同士なら、売り買いしたらいかんわな。人間は馬や牛とちがうだでな。けど、日本にも娘を売る話は聞くわな。男の子を売る話は聞かんけど、女子《おなご》は売るわな」
「うん、売る売る。久吉の言うとおりや」
と、音吉は考える顔になって、
「女は男より下に見られているでな。女は偉くない。男は偉い。それで男が女を勝手にするんやな」
「そうや。エゲレスでは女の扱いがちがうようやな。日本の女より、大事にされているみたいやな」
「けど、ほかの国の人間なら、売ったり買ったりするんやな。パーソンの説教とちょっとちがうわな」
「ちがう。わしら日本人にやさしくするように、あそこの国の人たちにも、やさしくするとええのにな」
音吉は左手|彼方《かなた》に横たわるアフリカ大陸を指さしながら言った。
「ほんとやな」
「あ、そうか、わかった久吉。パーソンが、どんな人間もみな同じやと教えたのは、みんながそれをようわかっていないからや。王様も金持ちも、貧乏人も同じやと言うのは、そう言わねばわからんから言うて聞かせたのとちがうか。まだエゲレスの人も、よくわかってはおらんのや」
「そうかも知れせんな。みんながわかっていることなら、聞かせる必要はあらせんもな」
「あらせん、あらせん」
「みんな理屈ではわかっているんやけどな」
「そうや、理屈ではわかってる。言われんでもな。けど、言われてもわからん」
「そんなもんやな、人間って」
二人は、今もまだ奴隷《どれい》狩りに狩り立てられる奴隷のいるアフリカ大陸に目をやった。
その夜、夕食が終わってから、音吉はフェニホフ牧師に尋《たず》ねた。
「先生、スレーブとイギリス人も、やはり同じ人間ですか」
牧師はあたたかいまなざしを音吉に向け、
「大変大事な質問です。神の前に、只《ただ》の一人もちがう人間はおりません。一人残らず同じ人間です」
「ではどうして、アフリカの人を売ったり買ったりしていたのですか」
「恥ずかしいことです。説教を自分の問題としてではなく、聖書の中の物語として聞いている人が多いからです」
フェニホフ牧師は悲しそうに答えた。
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