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海嶺176

时间: 2020-03-19    进入日语论坛
核心提示:二 胡椒《こしよう》海岸を過ぎて、船は巨大なギニア湾に向かっていた。坐《すわ》っていても立っていても、船倉にいても甲板《
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 胡椒《こしよう》海岸を過ぎて、船は巨大なギニア湾に向かっていた。
坐《すわ》っていても立っていても、船倉にいても甲板《かんぱん》にいても、汗の噴き出る暑さであった。岩吉たち三人は、今三度赤道を通過しようとしていた。
「暑いなあ、舵取《かじと》りさん。かなわんなあ」
久吉は岩吉に言った。朝からこれで六度目だ。
「うん」
答える岩吉の額にも玉の汗が滴《したた》っている。
「あと二、三日したら、おてんとさんの真下やな」
「うん」
「おてんとさまも律義《りちぎ》やな。わしらがここを通る時ぐらい、ずーっと北の国に行っててくれてもいいのにな」
「うん」
「何や舵取りさん、うんうんばかり言うて、人の話を聞いとるんかな」
岩吉はシャツの袖《そで》をまくり上げ、腕を組んで、左|彼方《かなた》に見えるアフリカ大陸に目をやっていた。そこはアイボリーコースト(象牙《ぞうげ》海岸)と呼ばれる所だと、今朝《けさ》食事の時に船客の一人から聞かされた海岸である。象牙の輸出される海岸帯があり、つづいて黄金海岸があり、更《さら》に奴隷《どれい》海岸が見えてくる筈《はず》である。ゴレ島に劣らず奴隷の積み出された海岸である。
「うん」
「また、うんや」
「久吉、舵取りさんがものを考えとる時、話しかけたって無駄《むだ》や」
船縁《ふなべり》によって、音吉もまた、くもり空の下に見える象牙海岸を眺《なが》めていたのだった。
「そやな。音も何か考えていたな。何を考えていたんや」
「うん。今朝聞いたエレファント(象)な。ほんものはどんな獣やろかと思うてな」
今朝、音吉たちは象の話を聞いた時、象がどんなものか、想像もつかなかった。そのアイボリー(象牙)なるものが、大きなものは長さが十一フィートもあると聞いた。十一フィートといえば、大人二人の背丈《せたけ》はある。そんな長い牙《きば》を持つ大きな動物を想像することはできなかった。岩吉が、相手の語るままに、象の絵を描いてみた。その絵を船客がなおし、出来上がったものは、ひどく鼻の長い、ふしぎな動物だった。久吉がいった。
「この獣、どこかで見たことあるで。どこやったろ」
「あそうや。久吉、わしも見たわ。この獣がひっくり返って、涙流しとるところを見たわ。ほら、小野浦の良参寺の極楽の絵に出てくる獣や」
「そうそう。そうか、極楽の絵か。けど……そんなに大きくあらせんかったで。牛や馬と同じくらいに描いてあったで」
「そうや! 大きくはなかった。そうか、あれがエレファントか。確か象といったわな」
音吉や久吉の頭の中にあるのは仏陀《ぶつだ》が涅槃《ねはん》に入る図であった。死んだ釈迦《しやか》を取りまいて、獣たちが涙を流している絵であった。だが二人は、それを極楽の絵だと思っていた。釈迦が共に描かれていたからである。
そんな今朝《けさ》の会話を、あらためて思い出しながら久吉がいった。
「けどふしぎやなあ。そんな大きな獣の住む所がこのあたりやなんて……その傍《そば》をわしらが通っているなんて」
「久吉、ほんとやなあ。けど、もっとふしぎなのは、その象の牙《きば》があの浜一帯から、どんどんどんどん積み出されるのがふしぎやなあ」
「何でふしぎや?」
「だって、そんなに仰山《ぎようさん》象がいるんかいな。なあ舵取《かじと》りさん」
「ほんとや。わしもそう思って聞いてみたわ。するとな、なんぼ積み出してもきりがない程《ほど》、ちゃんと土地のもんが、秘密の場所に隠してきたそうや。何百年も前からな。だからまだまだアイボリーは、たくさんあるんやそうや」
「ふーん。何百年も前からなあ。宝物にしてたんやなあ」
久吉がうなずき、
「ああ、暑いなあ。はよ、またスコールが来んかい」
と、くもり空を仰ぎ、
「音、昼寝に行かんか」
と、音吉を誘って船倉に行った。
岩吉は、一人|象牙《ぞうげ》海岸に目をやったまま、他のことを考えつづけていた。象牙海岸、黄金海岸があるほどに、大量の宝がこの大陸からイギリスをはじめヨーロッパ諸国、そしてアメリカに積み出されていることにも、関心がないわけではなかった。だが、黄金海岸につづく奴隷《どれい》海岸と呼ばれる海岸のあることが、岩吉には何としても許せなかった。
(もしわしがあの土地で生まれたら、売られて行ったかも知れん)
買い手は、奴隷がどれだけの重い物を持てるかを試し、大きく口を開けさせて、奥歯の一本一本に至るまで、虫歯がないか調べるという。そしてその筋肉にさわり、つねったり叩《たた》いたりした挙句《あげく》に、安い値で買い叩《たた》くという。しかもその金は、奴隷のふところには入らないのだ。海で獲れた魚や、畠《はたけ》の作物《さくもつ》同然、奴隷は只《ただ》売られるだけの存在だった。それが今も尚《なお》、イギリスとオランダを除いた欧米の諸国に売られているという。
(売られる人間と売る人間、そして買う人間がいる)
岩吉は憤りを覚えた、岩吉も幼い頃《ころ》、人買いの話を聞いた。
「岩坊、そんなに暗くなるまで外で遊んでいると、人買いがくるでな」
よく養父母に言われたものだ。やがて子供たち自身が、
「人買いがくると大変だで、もう帰る」
と言ったものだ。
岩吉たちは幼な心に、人買いは子供だけを買うものと思っていたのだ。が、とにかくこのあたりの人買いはちがう。大人も子供も一家すべてが買われて行くのだ。夫婦や親子が、別々の買い主に買われて行く哀話も聞いた。
(人間というものは、恐ろしいものだ)
そう思った岩吉の胸に、ふっと、師崎にいた頃の絹の姿が甦《よみがえ》った。母のかんに強いられて、私娼《ししよう》になっていた絹は、言わば母親に売られた存在だった。かんはわが娘を売り、且《か》つ買い占めていたようなものだ。
(あの因業《いんごう》婆が)
絹は、言ってみれば奴隷のような存在だった。その絹を、自分も、他の男たちも買ってなぐさみものとした。そう思うと岩吉の心は次第に重くなっていった。
考えてみると、親が娘を売るということは、日本ではそう珍しいことではなかった。男が女を金で買うことも、ごく当たり前のことだった。が、今岩吉は、その何《ど》れも、ひどく冷酷な、非情なことに思われた。ひどい罪を犯してきたような、いやな気持ちだった。
(……そうか。金にもならぬ赤子は捨てられるというわけか)
熱田の境内《けいだい》に捨てられていたという自分の姿を、岩吉は連想した。恐らくは貧しかったであろう自分の親は、赤子のわが子さえ育てかねて、熱田の杜《もり》に捨てた。犬に食われようと、猫になめられようと、逃げるに逃げられぬ赤子の自分を捨てた。もし自分が年頃《としごろ》の娘であれば、どこかの廓《くるわ》に売られていたかも知れないと思う。
(捨てるも売るも一つことか)
何れにせよわが子を見殺しにすることだと、岩吉は心の冷える思いがした。その岩吉を、叩《たた》きつけるように突如《とつじよ》としてスコールがやってきた。船客たちが喜びの声を上げた。今まで見えていた黄金海岸が、かき消すように視界から失せていた。
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