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海嶺178

时间: 2020-03-19    进入日语论坛
核心提示:マカオの空一 一八三五年十二月の中旬、岩吉たち三人を乗せたゼネラル・パーマー号は遂にマカオに到着した。船客たちは全部船を
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マカオの空

 一八三五年十二月の中旬、岩吉たち三人を乗せたゼネラル・パーマー号は遂にマカオに到着した。船客たちは全部船を降りたが、三人だけは船に留めおかれた。三人は、ロンドンでの十日間、船の中で出発の日を待っていたことを思い出した。マカオ向けの便を待ってロンドンを出発したように、十日もすれば日本への便があるかも知れぬと、三人は帰国の期待に心をおどらせていた。
船から見るマカオは、小高い丘の起伏《きふく》する美しい岬であった。
「七つの丘があるんやって、キャプテンのご新造が言うてたけどな、その倍も丘があるようやな」
早耳の久吉が、所在なげな音吉に言った。
「うん、丘だらけやな。緑もあるな。向こうの大陸の禿山《はげやま》とはちがうな」
音吉は西のほうを指さした。マカオの西側にあたるこの港は、海というより、大きな河のような感じだ。マカオの対岸に大陸が見え、大陸の山々が幾重《いくえ》にもたたなわっている。
「音、あそこに十字架《クルス》が見えるな。チャーチやな」
「うん。チャーチや。ハワイへ行っても、ロンドンに行っても、どこへ行ってもチャーチやな」
音吉が言うと、
「音、がっかりやな」
久吉が声を上げて笑い、
「けどな、あと何日かの辛抱《しんぼう》や。ここを出たら、あとは日本や。もうチャーチはないで」
「それもそうやな」
風が涼しく心地よい。十二月とは思えぬ暖かさだ。
「けど、うれしいな。今度こそは日本やで」
「ほんとや。日本まではひと月かからんいうでな」
「かからん、かからん。日本の国はきれいやで。どこもかしこも松や竹で、深い緑や。こんなちょぼちょぼ緑とはちがうで」
「何より、父《と》っさまや母《かか》さまがいるでな」
「大福餠《だいふくもち》やそばもあるでな」
「おさとも大きくなったろな。もう十二になったんかな」
「うちのお品も、娘らしゅうなってるわな」
音吉は琴を思ったが口には出さず、
「けど、お上《かみ》がわしらを引き取ってくれるやろか」
「わざわざよそさまの国が届けてくれるのに、断りはせんやろ」
「けどなあ。よその国から帰ったもんは、お仕置きとも聞くでな」
「音、わしらはな、自分から好きこのんで、出て行ったんではないで。嵐で流されて行った者だでな」
「そうやな。お上やって、よう話したらわかってくれるやろな」
「くれる、くれる。遠いエゲレスの人が、こんなに親切にしてくれるんや。同じ日本人が、話わからん筈《はず》はあらせん」
「そうやな。キリシタンになったわけでもあらせんし、なんぞ悪いことをするわけでもあらせんしな」
「そやそや。舵取《かじと》りさんかてそう言うてたわ。わしら三人ぐらい日本に入れたかて、日本の迷惑になることはあらせんでな」
帆をおろしたマストの上の空は青く晴れていた。岩吉が一人、舳先《へさき》のほうに立ちつくしている姿が見えた。港には幾|隻《せき》かの大船が停泊し、小船が賑《にぎ》やかに行き来している。
マカオは南北五キロ余りの小さな半島で、一五五七年、ポルトガルが居住権を獲得した。海賊|平定《へいてい》の実績を清国《しんこく》に認められたからである。以来ポルトガルは居住権を永続させるために、毎年五百両の年貢を清国に払っていた。マカオはマラッカ、ゴアと並んで、ポルトガルのアジア貿易の根拠地である。この数年前よりイギリスが香港《ホンコン》に進出して以来、やや衰退を見せてはいたが、音吉たちが船から見る港も、街も賑わっていた。
マカオに着いて三日目の午後、三人は船長室に呼ばれた。
「帰る船が決まったんやな」
久吉が弾んだ声で言い、
「そうや、きっとそうや」
音吉も喜んだ。岩吉だけが、
「そんなに早く見つかるかな」
と、疑わしげだった。
船長室には、船長と、夫人のルイス、そして見馴《みな》れぬ婦人の三人が待っていた。その見馴れぬ婦人は背が高く、肉づきがよかった。目が青く澄み、きらきらと輝いている。うすい唇《くちびる》とやや張ったあごが、意志の強さをものがたっていた。年の頃《ころ》三十前後と思われた。
「やあ、いよいよお別れだね」
ゼネラル・パーマー号の船長ダウンズは、いつもの穏やかな微笑を三人に向けた。
「じゃ、日本に帰れるんですか」
弾んだ久吉の声に、
「帰れる。何《いず》れそのうちにね」
と、船長はうなずいた。
「そのうちに?」
「そう。すぐには船が見つからないんでね。とりあえずこの方の家におせわになることになった。この方は、ミセス・メリー・ギュツラフ。ギュツラフ牧師の奥さんです。ミセス・ギュツラフ、この三人が岩吉、久吉、音吉」
ダウンズ船長は紹介した。
「どうぞよろしく。よくおいでになりました」
ギュツラフ夫人の亜麻色《あまいろ》の髪が、濃い眉《まゆ》の上で揺れた。
「岩吉です。どうぞよろしく」
岩吉につづいて、二人も挨拶《あいさつ》をした。
(パーソンのご新造か、この人は)
音吉は力のぬける思いだった。久吉も、すぐには船に乗れぬと知って、ありありと失望の色を見せた。ダウンズが言った。
「ギュツラフ牧師はね、語学の天才だ。今、夫人にお聞きしたのだが、二十か国もの言葉を覚えておられるそうだ」
「二十か国!?」
音吉が驚きの声を上げた。
「そうだよ。二十か国だ。ギュツラフ牧師はね、プロシャ(ドイツ)の方だがね、和英の辞書を持っておられるそうだ。あなたたちが日本人と聞いて、ぜひ日本語を習いたいと言ってね、ま、そういうわけで、マカオでのおせわは、この夫人がしてくださることになった」
三人は改めて頭を下げた。否《いや》も応もない。三人は只《ただ》船長の指示に従うよりなかった。
「お名残《なごり》惜しいこと。くれぐれもお体にお気をつけて。ご無事でお国に着くことをお祈りしますわ」
船長夫人ルイスは、岩吉に目をとめたまま言った。イギリスから乗った女性は二人だった。その二人のうち、ルイスは常に明るく、行動的だった。もう一人の若い女性エミー・ハワードは、常に慎ましく、夫の蔭《かげ》に控えていた。そのエミー・ハワードは東インド会社の支店のある香港《ホンコン》に夫と共に去って行った。音吉は何となくエミー・ハワードとの別れが淋《さび》しかった。ほとんど口をきかず、遠くから眺《なが》めるだけの存在だったが、黒髪のエミー・ハワードは明るいルイスよりも音吉の心を惹《ひ》いた。何れにせよ半年も同じ船に乗っていたのである。その間に、自分でも気づかぬうちに、エミー・ハワードに対して懐かしい感情を音吉は持っていたのだ。
が、今三人の前に、船長夫人ともエミー・ハワードとも全くちがう新たな女性が現れた。その輝く青い目は、人の心を吸いこむような深さがあった。それはルイスにもエミーにもないものだった。強く、しかしあたたかいまなざしであった。
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