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海嶺180

时间: 2020-03-19    进入日语论坛
核心提示:三 マカオに上陸しての第一日は静かに暮れていった。夜になるとさすがに肌寒《はだざむ》い。ギュツラフ牧師の家で夕食を終えた
(单词翻译:双击或拖选)
 マカオに上陸しての第一日は静かに暮れていった。夜になるとさすがに肌寒《はだざむ》い。ギュツラフ牧師の家で夕食を終えた岩吉たち三人は、隣の自分たちの家に戻って来た。
「大変なことになったなあ、舵取《かじと》りさん」
部屋に入るや否や、久吉が言った。部屋の中央に吊《つ》り下げられたランプに灯が点《とも》っている。
「うん」
岩吉は上着を脱ぎながら窓べに立った。二階の窓から見おろす通りに、ガス灯が点々とついている。行き来する黒い人影も幾つか見える。
ギュツラフは先程《さきほど》夕食の時、こともなげに言った。
「聖書を日本語になおす協力をしてください」
その言葉が、三人にとってどれほど重く恐ろしい言葉であるかをギュツラフは知らない。日本には次のような外国人追放令があったのだ。
〈すべてのポルトガル人は、その母親も乳母もふくめ、またポルトガル人に属するものは何ものであれ永久に追放される。
いかなる日本船舶も、日本の住民も、今後わが国を離れようとしてはならない。違反した者は財産を没収され、死刑に処せられる。外国から戻《もど》ったいかなる日本人も死刑に処せられる。
貴族であれ武士であれ、外国人から一切《いつさい》購入してはならない。
国外から手紙を持ちこもうとする者、あるいは追放後日本に戻ろうとする者は、家族もろとも死刑に処せられる。
キリスト教の教義を流布《るふ》する者、あるいはかのけしからぬ名前を持つ者はすべて、逮捕され公共の牢獄《ろうごく》に投獄される。
太陽が大地を暖める限り、一人のキリスト教徒も日本にあえて上陸させないようにしよう。もしこの禁令を犯すならば、スペイン国王といえども、またキリスト教徒の神といえども、その首をもって償わねばならないことを、あまねく知らしめよう〉
むろんこの全文を岩吉たちが知る筈《はず》もない。が、キリシタンに対する禁令のきびしさは、耳にしていた。それは聞くだに残忍な刑罰であった。
音吉と久吉に背を向け、夜の通りを見おろしている岩吉に、音吉も言った。
「キリシタンのワーシップ(礼拝)に出るだけでも、びくびくやったのに……今度はキリシタンのお経を日本語になおすんやって。舵取りさん引き受けるのか」
「引き受けんわな、舵取りさん。そんなこと、万一お上《かみ》に知れたら、それこそ縛《しば》り首まちがいなしや。小さな妹のお品まで、火焙《ひあぶ》りにされるでな」
「うん」
岩吉は否《いな》とも応とも言わずに、短く返事をしながら思った。
(まさか……俺たちにこんな難題が待っていようとは……)
岩吉は黒シャツ一枚のまま、ベッドの上に身を横たえた。音吉と久吉は、何となく顔を見合わせた。岩吉が容易に口をひらかぬことに、事の重大さがひしひしと身に感じられた。
十二畳ほどの広い部屋だ。ベッドが三つ並び、部屋の隅《すみ》に机《つくえ》と洗面所があった。ニスを塗った高い腰板がはられ、漆喰《しつくい》の壁の白さが目に沁《し》みた。久吉が言った。
「な、音。ジーザス・クライストが出て来なかったのは、ケープ・フラッタリーだけやな」
「そうやな。フォート・バンクーバーではスクール・チャーチがあったしな」
「そやそや。何のことかわからんで話聞いていたけどなあ。人形芝居でジーザス・クライストが磔《はりつけ》になって死んだのを見たわな」
「あの時は驚いたなあ。まさか、キリシタンの話を聞いていたとは、知らなかったでなあ」
「ふるえたなあ、あの時も」
「ふるえた、ふるえた。そしてわしら化病《けびよう》使うたな」
「うん、キリシタンの話を聞いたら大変や思うてな。腹痛になってな。腹減らしてな」
「けど、音、あの時本気やったわな。キリシタンの話聞いたら、一大事やと思うたでな」
「そやそや。イーグル号に乗った時、もうスクール・チャーチに出なくてもいいと思ってひと安心したわな。ところがどっこい、そうは問屋がおろさんでな。艦長《キヤプテン》がお説教したわ」
「あの時もふるえ上がったなあ」
「サンドイッチとかいう島に行って、そこで泊めてもろうた家な、あれがまたパーソン(牧師)の家でな」
「そうや、十字架《クルス》のついたチャーチやった」
「ロンドンに行っても、教会だらけやったし、ハドソン・ベイのカンパニーの建物にまで十字がついていてな」
「そして、マカオへ来る船に乗ったら、今度はパーソンが乗りこんでいてな」
「そしてマカオに上がったら、またまたパーソンの家や。しかも久吉、今度はバイブルを日本語になおす手伝いをせえ言うんやでえ」
「命が縮むわなあ」
さすがの久吉も音《ね》を上げた。
「どこへ行っても、キリシタンだらけや。日本以外はキリシタンばかりや。怖いことやなあ」
音吉はベッドの上にあぐらをかいたまま、横になろうともしない。
と、今まで黙っていた岩吉が言った。
「しかしなあ、音、久。わしはな、キリシタンの教えが悪いとは思わんで。お前たちは悪いと思うのか」
「そうやな。別に悪いことは何も言うてはおらんわな。な、音」
「言うておらんどころか、いいことばかり言うてはいるわな。人間は皆同じや、というのは、初めて聞いた教えやな。わしらも人間やし、お上《かみ》も人間やし。そんなこと、日本にいた時、考えたこともあらせんかったな」
「そうやろ、音、久。問題はな、キリシタンの教えが悪いのではあらせん。言うてみれば、お上が悪いんや」
「お上が悪い!?」
久吉が跳《は》ね起きた。岩吉は仰向《あおむ》けに臥《ね》たまま静かに答えた。
「うん。お上が悪い」
「そ、そんなこと言うたらあかんで、舵取《かじと》りさん。な、音」
「うん。……けどな、久吉。舵取りさんの言うことは、わしも本当やと思うで。仏さんを拝もうと、ジーザス・クライストの神さんを拝もうと、そりゃわしらの勝手とちがうか」
「それはそうや。けどな、日本の決まりやからな。お上の決まりを破るのが、一番悪いんや」
岩吉がベッドの上に起き上がり、二人のほうを見た。
「久。音のいうとおりや。お上かて人間の心まで縛《しば》ることはできせんでな。人の物を盗んだり、人を殺したりしたら、お仕置きを食らっても、仕方あらせん。しかしな、心の中で後生《ごしよう》をねがって、手を合わせる相手が、仏であろうと神であろうと、何も一族皆殺しにすることはあらせん」
「それはそうやけど……そう言うたかて、お上には通らせん。何せ天下の決まりだでな」
「久、それは悪い決まりや。決まりがいいとは限らんで。悪い決まりはなおさにゃならん」
「むろんや。けど舵取りさん。わしら三人がなんぼ大きな声で言うたかて、お上は決まりを改めせんでな」
「久の言うとおりや。お上というのはな。わしらの命など、ゴボーか大根と思うとるでな。すぐに刀をふりまわすわな。ま、バイブルの手伝いのことは、余り心配せんがええ。一日の苦労は一日で充分や。明日に持ち越すことはあらせんと、船の中でミスター・フェニホフに聞いたやろ。明日のことをあんまりあれこれ心配するなと聞いたやろ。その時その時、やらなきゃならんことは、やることだ」
「したら舵取《かじと》りさん。バイブルの仕事手伝うつもりか」
「どうしても手伝わんならんようなら手伝う」
「けど、お上《かみ》に聞こえたらどうするんや」
「ここでしてることまで、お上にわかることはあらせん。万里《ばんり》も離れていることだでな」
「ま、それもそうや。……けど舵取りさん、胆《きも》が太いなあ」
「何、ミスター・ギュツラフは日本語を知らんでな。だからな、そんなにすぐにバイブルを日本語になおす真似《まね》はできせん筈《はず》や」
「そうや! 久吉。ミスター・ギュツラフが日本語を覚えた頃《ころ》には、わしら日本に帰っているかも知れせんで」
音吉も明るい声になった。三人はようやく安心して寝についた。
が、三人はギュツラフがいかなる人物かを知らなかった。
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