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海嶺187

时间: 2020-03-19    进入日语论坛
核心提示:四 今日もギュツラフは広東《カントン》に行って留守だった。音吉と久吉は、朝飯前のひと時、港に船を見に来た。港には漁船がひ
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 今日もギュツラフは広東《カントン》に行って留守だった。音吉と久吉は、朝飯前のひと時、港に船を見に来た。港には漁船がひしめいている。小さな渡し舟も無数にある。二人は黙って、今帆を上げている大きな船を眺《なが》めていた。やがて音吉が呟いた。
「あれ、どこへ行くんやろな」
「地獄やろ」
「久吉、そんな縁起でもないこと言うな」
「板子《いたこ》一枚下は、地獄や言うでな」
「けど、縁起でもないこと、言うもんやないで」
「早う帰りたいで、腹も立つわ」
眩《まぶ》しく光る朝日に、久吉は目を細め、
「何ぼ気候のええ所やって、もう結構や。どの船かひとつ、盗んで帰りたいわ」
「そりゃわしもそう思うで……けどなあ」
「キャサリンもイザベラもええ娘やけど、少し堅すぎるわな。もちっと、わしらの遊び相手になってくれるとええけど、あの鼻たれ小僧たちばかり、なめるように可愛がってな、つまらんわ」
「何や、ふられたんか」
帆を上げていた船が動き出した。
「こんなに仰山《ぎようさん》船があっても、日本に行く船があらせんのかな、音」
「ほんとにな。船を見ると、何となく胸がしめつけられるわな。この海は日本の海につづいているだでな」
「ほんとや」
二人はちょっと黙ったが、
「今夜はミスター・ギュツラフが帰ってくると言うてたな、久吉」
ギュツラフは、マカオにいる限り、三人に聖書を説いてくれた。獅子《しし》の穴に入れられたダニエルの話や、蛇《へび》に誘われて、食べてはならぬ木の実を食べ、人間がエデンの園から追い出された話などなど、どれも興味深い話ばかりであった。が、三人は、聖書の話がいかに興味深くても、何よりも日本に帰りたかった。
「久吉、ゴッド イズ ラブは日本語で何というか、考えて置けと言われたわな」
「日本語で何と言おうと、わしの知ったことか」
「今日は機嫌《きげん》が悪いな、久吉」
「今日に限らんで。いつもわしは悲しみに胸がふさがれておるんや。なあ、おてんとさん」
久吉は朝の太陽を見上げて笑った。
「安心した。久吉が悲しむのは似合わんでな。な、久吉、ゴッド言うたら、日本語で仏さまかな、神さまかな」
「何やまだ言うてる。仏さまでも神さまでもええんや。どうせミスター・ギュツラフにはわからんことだでな」
「いやいや、わかってるで。でたらめは言えんで」
「わかってれば、自分で考えればいいのにな。ま、きっと神さまか、仏さまや。どっちにしても、似たもんやないか」
「ま、そうやろな。けど、キリシタンの神さまは、天も地も造られたそうやな」
「そんなこと、誰が見てたんかな、音」
「久吉は、まぜっかえしてばかりいる」
「怒るな、怒るな。まぜっかえすのが、わしの仕事や。ゴッド イズ ラブはな、日本語で言うとな。……音、不思議やな。日本語になおそうとするとむずかしいもんやな」
「そうやな、イングリッシュで言うてる時は、わかるのにな」
「ラブ言うたら音、好きやって言うことやろ。いや、惚《ほ》れとる言うことかな。アイ ラブ ユーは、わしはお前に惚れとるということやからな」
「そしたら?」
「神さまは惚れとる、と言うこととちがうか」
「惚れとるは少し変やな。神さまに色恋はないやろ。神さまは情け深い、はどうや、久吉」
「ラブと情け深いはおんなじか」
「慈悲深いでもいいわ」
「神さまは慈悲深い……か。神さまは惚れとるより、ましやな。けど、日本の神さまは慈悲深いやろか。神罰だの、祟《たた》りだの、恐ろしいこと言うでないか。仏さまなら慈悲深い言うけどな」
「仏罰が当たるとも言うで」
音吉がそう言った時だった。久吉が、
「おや!? ちびの山だ!」
と、岸べを指さした。
「ほんとや、ちびの山や。どこへ行くんやろ」
「何や! 女の子たちも一緒や」
小さな容※[#「門<宏のつくり」、unicode958e]を取り囲むようにして、女の子たちが五、六人、つづいて走っている。と、容※[#「門<宏のつくり」、unicode958e]たちは、一|艘《そう》の渡し舟に素早く飛び乗った。つづいて女の子たちも飛び乗った。舟には船頭が乗っている。舟はゆっくりと岸を離れた。
「今日は舟遊びかな?」
「けど、ミセス・ギュツラフもキャサリンやイザベラもついていないで」
二人は、漕《こ》ぎ出した渡し舟に目をやりながら、
「何やおかしいな」
と、顔を見合わせた。
「おや!? あれは舵取《かじと》りさんやで!」
音吉は、渡し舟が出た岸べに駈《か》けて行く男を見て叫んだ。
「音、行こう!」
二人は砂浜を走りながら、
「舵取りさーん」
と、大声で呼んだ。岩吉が二人のほうをふり返った。岩吉のあとに、ミセス・ギュツラフがつづく。
「何やろ? 只事《ただごと》ではないな」
渚《なぎさ》に駈けつけた時、二人は容※[#「門<宏のつくり」、unicode958e]が女の子たちと共に、学校を逃げ出したことを知った。
「音、久、お前たちも乗るんだ!」
ギュツラフ夫人の交渉した渡し舟に、三人が身を躍《おど》らせた。船頭と計四人で、直ちに櫓《ろ》を漕《こ》いだ。ギュツラフ夫人が「早く、早く」と言いながら、涙をこぼした。小舟の間を縫うように、舟は進む。
「ちびの山、ちびの癖に、いい度胸《どきよう》や」
子供たちの舟を行く手に見つめながら、音吉が感歎《かんたん》した。
「何で逃げたんや、舵取りさん」
「残っている女の子たちの話では、三階住まいがいやになったらしい」
漕《こ》ぐ手をとめずに岩吉が言った。三階には女生徒が住み、且《か》つ学んでいる。遊び場所も屋上だ。男生徒たちは一階で、外で遊ぶことができたが、年少の容※[#「門<宏のつくり」、unicode958e]は只一人、女生徒たちの中に入れられて、女生徒同様自由に外に出ることができなかった。
「なるほど、それで逃げ組の頭《かしら》は、あのちびというわけか」
「そうや。あのちびな、昨日《きのう》のうちに、船頭と舟の約束を決めていたそうや。そして、女の子全員をつれて、逃げるつもりやったそうや」
四人で漕《こ》ぐ舟足は早い。容※[#「門<宏のつくり」、unicode958e]のふり向く姿が、一丁|程《ほど》先に見えた。
「音と久が港に行くと言うたでな。さてはお前たちが逃がしたと思うたで」
岩吉がにやりとした。
「わしらには、ちび程の度胸《どきよう》もあらせん言うことや。負けたな、舵取りさん」
向こうの船頭は観念したのか、漕ぐ手を休めたようだ。岩吉たちの舟が近づくと、女の子たちが泣き出した。ギュツラフ夫人が、子供たちの舟に乗り移った。容※[#「門<宏のつくり」、unicode958e]がきりっと口を結んだまま、眉《まゆ》一つ動かさず、舟の中に突っ立っているのを、音吉は驚いて見た。
二|艘《そう》の舟が岸に戻った時、ハリーが渚《なぎさ》に手をふって待っていた。容※[#「門<宏のつくり」、unicode958e]が舟から下りると、ハリーが飛びついて泣き出した。ハリーが泣くと、容※[#「門<宏のつくり」、unicode958e]もハリーにしがみついて泣いた。見ていて音吉も泣きたい気持ちになった。
音吉たちは知らなかったが、この容※[#「門<宏のつくり」、unicode958e]は、後にアメリカに学び、帰化した。その後|清国《しんこく》に戻《もど》り、清国の近代化に力を尽くし、歴史に残る人物となった。中華民国最初の国務総理となった唐紹儀は、帝政反対運動ののろしを上げた人物だが、この唐紹儀をアメリカにおいて指導したのが、容※[#「門<宏のつくり」、unicode958e]であった。
また、容※[#「門<宏のつくり」、unicode958e]の肩を抱いて泣いたハリーは、一八六五年(慶応元年)から十八年、駐日公使となったハリー・パークスである。ハリー・パークスは、岩倉具視《いわくらともみ》や勝海舟《かつかいしゆう》を、明治|維新《いしん》に走らせた蔭《かげ》の人物で、且《か》つ明治政府を指導した人間である。第二次|阿片《あへん》戦争誘発の、直接の責任者と言われる一面もあったが、極東《きよくとう》勤務文武官として、最初のセントミカエル・アンド・セントジョージ大十字勲章の受章者でもある。
序《ついで》に付け加えるならば、ハリーの長姉キャサリンは、伝道師で医師のウイリアム・ロカート夫人になった。ロカート夫人は、上海《シヤンハイ》に初めて上陸した英国夫人で、人々の信望が極めて篤《あつ》かったと伝えられる。またその姉イザベラも、宣教師マッククラッチー夫人となり、四十年間、上海において宣教した。そして様々な救済事業に心血《しんけつ》を注いだといわれている。
とにかくこの姉妹と容※[#「門<宏のつくり」、unicode958e]に多大の影響を与えたギュツラフ夫妻は、確かに偉大であったと言える。
岩吉は、渚《なぎさ》で抱き合っている容※[#「門<宏のつくり」、unicode958e]とハリーを見ていたが、やがて二人が泣きやむと、容※[#「門<宏のつくり」、unicode958e]の小さな体をひょいと抱き上げて肩に乗せ、肩車にして歩き出した。容※[#「門<宏のつくり」、unicode958e]が喜んで機嫌《きげん》をなおした。その姿を見ながら、音吉がそっと久吉にささやいた。
「久吉、舵取《かじと》りさんいま何を考えてると思う?」
「そうやな。残してきた子供のことやろな」
「やっぱり久吉もそう思うか。わしな、今思うたで。舵取りさんは、まだ一度も、自分の子を肩車したことはないんやなって」
「そう言えば、そうやな。出て来る時は、坊がまだ小さかったでな」
久吉は、重右衛門と一緒に、岩吉を訪ねた日のことを思い浮かべた。ようやく歩きはじめた岩太郎に、
「ええ坊やなあ」
重右衛門が手を伸ばした。岩太郎はふっくらとした小さな手で、父の岩吉の胸にしがみついた。が、久吉が手を伸ばすと、どうしたわけか、すぐに久吉の膝《ひざ》に移ってきた。
「な、音。わしが舵取りさんの家を知らんかったら、あん時迎えに行かんかったのになあ。したら舵取りさん、船に乗らんですんだんや」
久吉は、前を行く岩吉の背に目をやった。
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